「ローン返済が月40万円でも、また稼げば大丈夫と自信があった」 経験者が語る借金を抱えても"マルチ”を辞めなかったワケ

「ローン返済が月40万円でも、また稼げば大丈夫と自信があった」 経験者が語る借金を抱えても"マルチ”を辞めなかったワケ

西尾潤さん

「20歳で月収150万越えも…」  最年少ゴールドランク保持のマルチ"成功者”が借金700万に転落した"末路” から続く

 150万円もの月収を得ていたはずが、気がついたら借金700万円のローンを抱えていたという西尾潤さん。実体験をもとに「マルチ商法」にハマった女性の“乱高下人生”をリアルに描いたサスペンス小説『 マルチの子 』では、いちどハマったら抜け出せない承認欲求地獄を赤裸々に描いている。なぜそんな窮地に陥ってしまうのか。西尾さんがマルチと縁を切った後の人生の立て直しについても聞いた。(全2回の2回目。 前編 を読む)

■借金を抱えてもマルチをやめなかった理由

──マルチを辞めたのは700万円にふくれあがった借金が原因とお聞きしました。最年少ランク保持者として月収150万円もあった西尾さんが、なぜそんなに借金を抱えることになったのですか。

西尾潤さん(以下、西尾) 月収150万円といっても、ずっとその金額が保証されているわけではなく、たまたまそういうことが何回かあった、というだけです。確かに数か月間はそのくらいもらっていた時期もありましたが、その分出ていくお金も多かったんです。

 ネットワークビジネスって、「いくら入ってくるか」というのは自分とダウン(自分から始まる系列)のランクに関わってくるので必死で計算するんですけど、「出ていく」支払いの方はまったく考えないんですよ。もちろん、これは、人にもよりますけど。

『マルチの子』でも書きましたが、ランクを上げるための売上げノルマがあって、自分のダウンの子から「次のステップに上がるのにあと何十万円足りない」と言われてお金を貸したこともありますし、自分やダウンの子の売上げのために、自分自身が “客”として商品を購入することもしょっちゅうでした。ダウンの子が別のマルチと兼業していて、つきあいで何十万円もする下着を買ったこともあります。だから、売上げがあがるにつれて借金がふくらんでいくケースが多いような気がします。

 私の場合、最初は銀行系ローンやクレジットカードのキャッシングなどで不足分を調達していたんですが、気がついたら限度額いっぱいで借りられなくなっていて、だんだん「街金」と呼ばれている消費者金融みたいなところからも借りるようになっていきました。

 ローン返済額が毎月30万〜40万円になっても、稼いでいた時の記憶があるから「また稼げば大丈夫」という変な自信があって、借金総額が500万〜600万円にふくれあがっても、そんなに大変なことだと思っていませんでした。

──それでもマルチを辞めなかったんですね。そもそも、そこまでいく前になぜ抜けられなかったのでしょうか。素人考えで恐縮ですが、日本の労働力人口と購入者の経済的ゆとりを考えたら、「ネットワーク」には限界があり、早晩立ち行かなくなるのはわかりきっているように思うのですが……。

西尾 それ、親にも言われました。冷静に考えれば、ネットワークビジネスはある意味「詰んだ」話に見えるかもしれません。でも、ネットワークビジネスの強いところは、「ビジネスのお引っ越し」ができるところなんです。

 作中でも主人公の真瑠子が優秀なダウンを連れて別のマルチに「お引っ越し」していますが、そうすることでまとまったお金が入ってきます。たとえば500人の組織のなかで100人でも「生きている」メンバー、つまり継続的にビジネスをしているメンバーを連れて引っ越しできれば100台は売れますよね。そこでお金が1回流通しますし、組織が新しくなったことで違うマルチのメンバーが傘下を連れて合流することもある。だから、「マルチは引っ越しした時にお金になる」という感覚はありました。

 それに、下手に稼いだ記憶が残っているから、「盛り返せば借金は返せる」みたいな変な自信があって、あまり慌ててはいませんでした。もっと慌てふためいてもよかったと思うんですけど……。

■「自分は運がいいし、持っているから大丈夫。何とかなる」

──返済はできていたんですか。作中に、消費者金融から催促の電話がかかってきたというエピソードがありますが、あれは実話なのでしょうか。

西尾 実話です(笑)。って笑う話じゃないですよね。銀行の人から「明日くらいにお宅に伺おうと思っていました」と電話がかかってきて、震え上がったのを覚えています。口調は優しいけど、(街金ではなくて)銀行の人の方が来るんや! 怖え〜! と思って。「1万円でも入れてもらえれば大丈夫です」と言われたので、わかりましたと電話を切って、速攻1万円入金しました。街金より怖いですよ、銀行! って借金の返済を滞らせた私がいちばん悪いんですけど(笑)。

 笑い話ついでに言うと、今考えるとおかしい話ですが、「自分は運がいいし、持っているから大丈夫。何とかなる」みたいな変なゾーンに入っていたと思うんです、あの頃って。返済の支払いが苦しくなったときに、宝くじを窓口で20〜30枚買ったんですよ、私。「自分は持っているから当たる」という変な自信があって。でも当然外れて、死ぬほど落ち込みました。「なんで当たらないの」って。バカみたいですよね。でもそのくらい感覚がおかしくなっていたんだと思います。

──頼みの宝くじも外れて、借金の清算はどうされたんですか。

西尾 もうどうにも支払いができなくなったので、仕方なく父に相談しました。「なんで100万円200万円の時に言ってこんのや!」とむちゃくちゃ怒られました。

 昔、父が事業に失敗して、母がお金に苦労してきた姿を見て来たので、「ママにだけは言わんといてくれ」と父に頼み込んだんですが、翌日には母にもばらされ、「とにかく1回、ウソをつかんと、どこからいくら借りているのか、包み隠さず全部出せ」と両親から言われ、借金をすべて洗い出すところから始めました。

 ざっくり、銀行系と信販系から350万円、街金から350万円借りていたので、「とりあえず金利が高い350万円分を貸したるわ」と、親から350万円を借り、「マルチには今後絶対に関わらない」「定職に就く」という約束をさせられて、翌日から家に軟禁状態にされました。両親は1円も負けてくれなかったので、全額働いて返済しました。

──銀行・信販系の350万円も返済されたんですよね。どのくらいで完済できたんですか。

 西尾 昼も夜もひたすら働いて、3年くらいで完済できたと思います。父に泣きついたのが2月で、翌日から就活をして中途で化粧品会社に採用が決まり、4月から正社員で働き始めました。

 昼の仕事は基本給20万円くらいでしたがボーナスもあり、あとは夜、北新地のクラブでヘルプのバイトをして稼ぎました。1日行くと2万〜3万円もらえたので、ありがたかったです。

「これだけの借金返すには体も壊されへん。バイトも毎日は体壊すから、週に3日ぐらいにしとき」と母に言われ、夜のバイトは月・水・金の週3日通っていました。

 昼の給料とボーナス、夜のバイト代のうち、家賃光熱費として月3万円を母に渡し、生活費として月5万円を除いた残りを全額、母に「返済」していました。

■ネットワークビジネスで成功した人は、どの世界でも成功できる

──昼も夜も働くって体力的にも精神的にも大変ですね。

西尾 体力的にはネットワークビジネス時代の方が大変だったから、大したことなかったです。

 ネットワークやっていた時は本当に体力の限界のなかでやっていたので、セミナー中にホワイトボードを指しながら寝てしまう、ということが何度もありました。説明途中で「西尾さん」と言われて我に返る、みたいな。商品の説明も、ビジネスの説明も、同じことを繰り返して話すだけなので、体が覚えているんですよね。だから今でもネットワークの説明できます、私(笑)。

 でも精神的にはきつかったです。心血注いでやってきたのに、全部パー。それどころか借金700万円ですから。

──借金を完済したあと、お金を貯めて2年後にカナダ留学。そこからヘアメイク、スタイリストとして実績を積み上げ、2019年には『 愚か者の身分 』で第2回大藪春彦新人賞を受賞。作家としてのキャリアもスタートされています。

西尾 本当にいろいろやってきたので、すべて糧になっている感じです。今回も本当はヘアメイク業界の話を書こうと思っていたんですけど、担当さんにマルチ時代の話をしたら食いつきがすごくて。時間が経ちすぎているので最初は思い出すのも難しい感じでしたが、だんだん思い出しながら書きました。

──様々な場で活躍される西尾さんの生き方に励まされる読者は多いと思います。

西尾 「自分でした借金だから返せる」という変な自信はあったんですけど、でもそれが逆にネットワークビジネスにはまったいちばんの理由でもあると思います。もちろん、すべてのネットワークビジネスが悪いわけではありませんし、大成功している方もたくさんいます。

 ただ、ひとつだけ言えるのは、ネットワークビジネスで成功されている人は、どの世界でも成功できる人だということです。これは間違いありません。文春オンラインを読んでいるみなさんにはもっと賢く生きてほしいと、最後に付け加えてほしいです(笑)。

(取材、構成:相澤洋美、撮影:石川啓次/文藝春秋)

(西尾 潤)

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