「勘弁してください、隣にいる保科は愛人じゃないです(笑)!」 撮影は自社スタジオ、構成や演出は社長プラン、商品は低価格…通販会社・夢グループの“ゆるいCM“のナゾ

「勘弁してください、隣にいる保科は愛人じゃないです(笑)!」 撮影は自社スタジオ、構成や演出は社長プラン、商品は低価格…通販会社・夢グループの“ゆるいCM“のナゾ

「夢グループ」の石田重廣社長

絨毯輸入では中国の従業員から総スカン、商品のシルクシャツを着たらクレーム…… 数日でクビばかりだった石田社長が、橋幸夫、黒沢年雄、チェリッシュたちが所属する“夢グループ”を作るまで から続く

 “昭和”の空気を感じる「ゆるいCM」でおなじみの通販会社、「夢グループ」。石田重廣社長と、歌手の保科有里さんが、低価格の商品を棒読みの掛け合いで紹介する不思議な魅力にハマった人も多いだろう。夢グループは2023年5月の歌手活動引退を発表した橋幸夫さんや黒沢年雄さん、チェリッシュさんらなど、大御所芸能人が所属する芸能事務所でもある。CMのゆるさの謎や、夢グループの成り立ちについて、石田社長に話を聞いた。(全2回の2回目。 前編を読む )

■イメージモデルに「スターにしきの」を起用

――橋幸夫さんら大物が所属し、スター歌手が勢揃いする「夢コンサート」を主催しているのが御社です。いまでは通販と芸能は経営の柱となっていますが、芸能界との接点はそこからだったんですね。

 はい。もともと僕は中学時代に『スター誕生!』のオーディションに参加したくらい、根がミーハーなの(笑)。で、シルク商品のイメージモデルに「スターにしきの」を起用したら、ちょうど『24時間テレビ』のマラソンランナーに起用されて、同時にうちの商品も注目され売り上げがアップしました。

 じゃあ今度は松方弘樹さんにモデルを頼もうということになり、結構な大金を投じて宣伝をし、賭けに出ました。大型クルーザーを借りて、松方さんに沖縄の大海原でマグロを一本釣りしてもらい、写真を撮って豪華な新聞広告を作った。ところがここに大きな落とし穴があった。シルクシャツが商品なのに、釣りがメインになってしまい肝心のシルクシャツの広告だと分かってもらえなくて、オーダーの電話が全然鳴らない。青ざめて、体が震えました。すでに広告スケジュールは決まっているので、途中でストップというわけにはいかない。出稿量は多いから、まわりは「松方さんを使って、すごいですね。たくさん売れてるんでしょうね」とほめてくれるんですが、内情は大変。自分が調子に乗っていた、失敗した、とさすがに落ち込みましたね。

■兄弟デュオ「狩人」の所属で「有限会社あずさ2号」設立

――もともとは芸能人に依頼するスポンサーの立場だったと思いますが、いつからタレントを抱えるようになったんですか。

 そもそも僕は芸能界については、ずぶの素人。知り合いだった芸能プロの社長がうちに入社して本格的に芸能界に参入するようになりました。彼の紹介で狩人が所属し、「有限会社あずさ2号」という会社を作った。うちは、出来高払いじゃない給料制で、狩人のふたりにはそれぞれ毎月100万円を支払ったんです。

 ところが前年の彼らの仕事をチェックしたら、年に2日間しか仕事していない。「なんでこんなに仕事がないの」って聞いたら、狩人は「私たちここ4、5年ずっとそんなもんです」「どうやって生活してるの?」「大変でした。だから社長から給料が100万もらえるなんて、もうほんとにラッキーです」と言う。ラッキーはいいけど、こっちは何とかして仕事を作らなきゃいけない。

――それでどうしましたか。

 僕ができるのは、カタログやチラシ、パンフレットを作ること。名簿からお客さまにDMを送ることができる。芸能の営業がどういう仕組みかわからないから、狩人に「仕事はどういうところから来るの?」と聞いたら、お祭りやホテルのディナーショー、企業のイベントだという。ああそういうことか。じゃあと、営業の出演料をはっきり明記したDMを企業・ホテル・商工会議所など約5千か所に出したんですね。

 ステージ1本80万円。ステージ2本160万円にバツをつけて、ディスカウント価格100万円。どうやら芸能界では営業価格はマル秘で、その値段も交渉次第。代理店が間に入りますから、お客さまも気安く依頼ができない。ですから、こういう試みはありえなかった。ところが、依頼が殺到したんです。狩人は年2本だったのが、なんとその年100本以上の仕事が決まりました。

■月給制がタレントに大好評…芸能界で話題に

――画期的ですね。

 これは素人だからできる発想です。それまでの狩人の営業で取り引きのあった会社からはクレームが来ましたけどね。けれど僕は、タレントに依頼してくれるお客さまや、イベントに足を運んでくれるお客さまがよろこんでくれればいいという考えが根底にありました。結果的にこのやり方は、タレントとお客さまの双方が満足するものでした。で、僕は僕で欲が湧いて、よし、このやり方で他の歌手でも仕事をしようと思い、誰かをスカウトしようと思い立った。

 あるときNHKホールに行くと、『雨』を大ヒットさせた演歌歌手の三善英史さんがポツンと寂しげに座っているのを見かけた。挨拶すると、所属事務所はないという。もともと僕は三善さんのファンということもあったので、月給を提示することでうちに来てもらいました。それを機に、三善さんがいるのに「あずさ2号」じゃあまずいだろうと、社名を「夢グループ」に変更しました。すると、芸能界って狭い世界なんですね、うちに来ると給料を保証してくれるという噂がぐるぐる回って、いろんなタレントさんから「社長、私も所属で入れてよ。給料いくらもらえるの」と売り込みがたくさん来ました。

――当時、芸能界はその話で持ち切りでしたね。千昌夫さん、チェリッシュさんや黒沢年雄さん、松方弘樹さんも、立て続けに「夢グループ」に所属されました。

 その他にもフィンガー5の晃さん、韓国ドラマの主題歌を歌ったZEROさんなどが所属になりました。中でも晃さんは辞めたり入ったりの動きが激しいですけど(笑)。いろんなタレントとめぐり会えて、一緒に仕事をするようになりました。

■通販のテレビCMで自ら商品をアピール

――最近は通販のテレビCMで、石田社長を見ない日はありません。9月12日に放送された『週刊さんまとマツコ』(TBS系)でもゲストに呼ばれています。制作費をかけない独特のスタイルのCMに注目が集まりましたね。

 夢グループの新聞広告は朝日や読売などの大手新聞に掲載し、長らく出稿量は日本トップクラスだったと思います。僕は営業や交渉、店頭販売から、新聞広告のキャッチコピーまで、すべて自分でやる方針です。それで主な宣伝媒体を新聞からテレビに移行するときに、タレントを使うよりも、自分が商品を説明したほうが視聴者に伝わると考えたんですね。

 なぜかというとそれまで数々の失敗経験があったから。タレントを立てすぎて商品よりもそっちが目立ってしまい売り上げに結びつかないこともあったし、あとは広告代理店の都合に振り回されることもあり、そんなことに頭を抱えていました。最終的に経営者として責任を取らなくてはならないのならば、「石田です」と素性を明らかにして、「この商品は、ここがいいんです」と自分の口で訴えたかったんです。

■CMのパートナーは所属歌手の保科有里

――そうだったんですね。テレビCMでは御社所属の歌手、保科有里さんがパートナーをされています。先の番組では「もしかして愛人じゃないの?」と突っ込まれていましたが(笑)。

 勘弁してください、愛人じゃないです(笑)! 彼女はうちの所属タレントで給料制ですし、CMに出演してもらってもその分のギャラは込み。使い勝手がいいというか(笑)、しかもこちらのリクエストを嫌がることなく、いつも素直に聞いてくれて本当に助かっています。女性らしい優しい説明の仕方が、特にお年寄りのお客さまに支持されていますね。

 夢グループの所属歌手は往年のヒット曲を持っている歌手がメインでしたが、保科さんは作曲家の三木たかし先生から直々に依頼があり、所属になりました。彼女の代表作に『さくらの花よ 泣きなさい』という曲があります。このCDに収録されている三木先生バージョンを聴いた時に、心をゆさぶられたんです。それが決め手となり夢グループの所属になりました。所属して数年は普通に活動していましたが、ある時僕がマネージャーの名刺を持って、一緒に動き始めました。とある大物歌手からは「社長なのにやめてくれ」と言われましたが、売れていない歌手だからこそ社長の自分がやるべきだと感じました。そのためには顔と名前を覚えてもらわなきゃ。

 で、テレビCMは自社のスタジオで一緒に手作りするというわけなんです。構成や演出も僕がやります。大手通販のように莫大な予算はかけられないですし、扱っている商品は最新の高級な物ではありません。そりゃあお客さまに、「買ってくださいよ」とか「すごいよー」とか、ましてや「安く売ってあげる」とは言えない。いつも「安くしますので、買ってもらえますか」という気持ちなんです。

■お客様からのうれしい声がけ

――最後に質問です。石田社長がビジネスをやってきて一番うれしかったことは何ですか?

 僕ね、シルクのパジャマの頃から、お客さまのクレームにじかに向き合ってきたので、なんていうか、申し訳ないなあという気持ちが強いんです。だからコンサートが始まる前にステージの下でこんな挨拶をさせてもらった。「コンサートに来ていただいて、みなさんが感動して帰られることが、なによりも僕にとってうれしいことでございます。でも今日いらしたお客さまのなかに、僕の販売した商品を買って、納得できない、まあひどい、安かろう悪かろう、と思ってる方はたくさんいらっしゃるかもしれません。この場を借りまして謝らせてください、すみません」と話した。

 そうしたら、お客さまが「社長のところで買った商品いいわよ、いいわよ」って言ってくれた。誰も文句を言ってこないわけですよ。

 たまたまかなと思って、その挨拶をしばしば繰り返していたら、こんな言葉までいただきました。「社長の商品はこの金額だから良いんだよ。私たちは高いものも欲しいけれど社長の商品を買って、それで十分なのよ。頑張って」と。本当にそれは、涙が出るほどうれしかったですね。

 だから僕、芸能の仕事にせよ通販の仕事にせよ、お客さまがよろこんでくれたらそれで満足なんです。お客さまに直接声をかけてもらったり、こちらからかけたり。仕事をしている中で自分にとって一番やりがいを感じる嬉しい瞬間です。これからも精力的に頑張ります。

(撮影:深野未季/文藝春秋)

(中村 竜太郎)

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