サイバーエージェント社長・藤田晋氏が“管理職は実績より人格”と断言する真意

サイバーエージェント社長・藤田晋氏が“管理職は実績より人格”と断言する真意

藤田晋氏

サイバーエージェント社長の藤田晋氏が「ウマ娘」をヒットさせた“納得の理由” から続く

 麻雀も仕事も「運が7割、実力3割」。「文藝春秋」2022年5月号より、サイバーエージェント社長の藤田晋氏による「わがギャンブル経営哲学」を全文転載します。(全2回の2回目/ 前編 から続く)

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■ドンキ安田さんは強かった

 歯を食いしばって我慢できたのは桜井章一さんのこんな教えが身についていたからかもしれません。

「(麻雀は、)水を張った洗面器に顔を突っ込み、最初に顔を上げたやつが負ける」

 麻雀では最初から劣勢に立たされることもある。相手にたまたまツモられまくって追い詰められ、悪い意味で開き直って暴牌を打ってしまう人や、勝負を避けて降りてしまう人がいます。ただ、どちらも我を失っており、ほんとうの勝負所を逸している。麻雀は「キレたらそこでゲームオーバー」なのです。

 経営者にもよくキレてしまう人がいます。私と最年少上場を競い合ったライバルの社長もモノ言う大株主に我慢しきれずキレてしまった。結果、株主は社長を解任しました。

 麻雀をやってよかったなと思うことは精神修養を重ね、長い目で達観する力を養えたことです。

 遊びで楽しむだけなら、感情を高めて「ここが大勝負だ!」と、ドンと張って負けを取り返そうとする手もあるかもしれません。しかし、それでは往々にしてもっと負けてしまう。顔色に出さず冷静に状況を分析して勝負する。ポーカーフェイスで、口数も少なく、何を考えているのか分からない「食えない奴」っていますよね。そういう人間ほど、きまって麻雀が強いのです。

 ただし、損か得か合理的に打っているだけでも勝てません。麻雀ってほんとうに奥が深いんです。

 麻雀の世界ではデジタル・オカルト論争というのがあって、理論にそって打つタイプ(デジタル)と情熱や気合を重視するタイプ(オカルト)に分かれると言われます。

 今まで卓を囲んだ経営者のなかで一番麻雀が強いと思ったのが、ドン・キホーテの安田隆夫さん(現・創業会長兼最高顧問)。技術面もさることながら、とにかく最後まで一生懸命に集中力を切らすことなく打ってくる。最終的には勇気や度胸、情熱がないと勝てない。私はデジタルとオカルトのバランスをうまくとるようにしています。

■社員を大事にして終身雇用

〈一生働ける会社を目指す〉

 2004年1月26日、社内報で私が社員に宛てたメッセージです。上場してから黒字化するまでの雌伏の時期、社内の福利厚生を充実させ、人材育成に力を入れました。

 上場直後の3年間は離職率が30%を超えました。新卒から経験を積ませた社員に辞められるのは本当に痛かった。当時は、年功序列社会へのアンチテーゼからか、実力主義が流行っていた。当社も高学歴かつ大企業出身者を幹部社員として積極的に中途採用していたのですが、それでは新卒社員の士気が下がる。そこでヘッドハンティングよりも新卒社員に長く働いてもらう方へと舵を切ったのです。

 まだ若い社員が多いうちに「社員を大事にして終身雇用を目指す」という姿勢をあらかじめ打ち出した。そうしたメッセージが届いたからか、離職率は下がっていきました。

 2013年からは社員のコンディションを把握するため「GEPPO(ゲッポウ)」というアンケート調査を月に1度行っています。

 質問は全部で3つ。(1)個人のコンディション(2)チームのコンディション(3)月替わりの質問(自由記述)。

 様々な意見が書かれますが、キャリアで悩む社員の存在やハラスメントなどの不祥事の種をいち早く見つけられる。

 またチームの状況は、山の天気のように変わることがよく分かります。ついこの前までみんなモチベーションが高かったのに、突然曇って雨が降る。チームの状況をリアルタイムで把握できるようになった。

 当社の人材育成の象徴が、年に1、2回の「あした会議」です。

 まず私以外の役員が4名の社員を選抜し、チームを組む。そのチームで約1カ月にわたって会社の課題解決策や新規事業案を練り、会議の場で提案。私が審査し、実行に移すかどうかを検討します。

 この「あした会議」は最重要会議と位置づけられており、社員を参加させることで彼らの才能を引き出し、成長をうながすのが狙いです。1度の会議でいくつも会社を作れるくらい良いアイディアが出ます。

 ゲーム事業もGEPPOもこの会議から生まれました。2006年に開始して以来、この会議をきっかけに設立した子会社の数は32社に上ります。「新卒社長」として、優秀な若手は子会社の社長にどんどん抜擢していく。これまでに新規事業から累計売上高約3259億円、営業利益約455億円を創出しました(2021年9月時点)。

■管理職は実績より人格

 社長である私は、あくまでトータルプロデューサーのような存在に徹しています。社員に任せて能力を伸ばすのが基本方針であり、管理職に求めるのは実績よりも人格者。モラルのない上司だったら部下が潰されてしまうからです。

 ただし、アベマのように、前例のない、中長期的な事業に限って私が責任をもって指揮をとるようにしています。事業規模の小さいものは私の決裁なしに進めてもらっているので新聞の朝刊を読んで関連会社ができたのを知ることも。最近、メタバース事業に特化した子会社を設立しましたが、まだ次の局面が読めないし、今のところ主力事業になる分野ではないと思っています。

 また、技術の内製化にも力を入れてきました。当社はエンジニアを積極的に採用していることからテクニカル分野に関わる社員は全体の半数近くを占めます。

 2000年代半ば、ネットサイトを運営していて、広告出稿の指標となるページビュー(サイトの閲覧数)を稼ぐのは技術だということに気がつきました。世界中の人がグーグルのページに集うのは同社の検索精度といった高い技術力に裏打ちされているからです。2006年に「技術のサイバーエージェントを創る」と宣言してから地道な技術開発がいろんな事業で花開いています。

 今や技術力は当社の強みとなり、テクノロジーとクリエイティブの融合でブレイクスルーしていきたい。AIの研究開発にも注力しており、「将棋チャンネル」では、対局の形勢を示すAIシステムをいちはやく導入し、番組の人気が高まりました。

■好調な時に次の種をまく

 前述したように、2021年度は、過去断トツの最高益を更新しましたが、慢心は全くありません。過去にゲームが大ヒットした会社はその後の落ち込みが激しい。順風なときこそ「勝って兜の緒を締めよ」です。

 麻雀はレベルの高い面子が揃うと、我慢比べの展開になります。そうなると、ミスした人から脱落していく。だから、私は麻雀を「ミスしないゲーム」と呼んでいます。

 ミスは、他のスポーツと同じで、点差を広げたときの油断など気の緩みから起きるもの。いい加減にやっていたら絶対に勝てない。他で大きく収益が出ているときこそ、損してでも次の成長の種をまいておく。他の事業の調子がいいときにサボってはいけません。

「ウマ娘」は当初、開発2年で配信するつもりでしたが、約2年延期し、お金と人を大量投入して質を上げていきました。時間をかけた開発ができたのは、RPG「グランブルーファンタジー」などのゲームが当たっていたからに他なりません。

 そして、「ウマ娘」のヒットで業績的に余裕がある今だからこそ、新たな勝負に打って出る。

 11月からのサッカーW杯カタール大会の全64試合をアベマで無料生中継することが決まりました。

 放映権の取得額は守秘義務があって申し上げられませんが、アベマ史上過去最大の投資案件となりました。単体での黒字化は難しいでしょうが、アベマの格や認知度を上げるチャンスの局面だとみています。

 ビジネスを続ける以上、常にその先が心配となり、スカッとする瞬間を得ることはできない。いつも憂鬱なんです。それでも卓を囲めば、時間を忘れて没頭し、仕事を完全に忘れられます。麻雀は勝負強くなれるし、仕事の気分転換にもなる上に、結局仕事にも役立つ。読者の皆さんも、1度、雀荘に出かけてみませんか。きっと、その奥深さに魅了されるはずです。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2022年5月号)

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