サイバーエージェント社長の藤田晋氏が「ウマ娘」をヒットさせた“納得の理由”

サイバーエージェント社長の藤田晋氏が「ウマ娘」をヒットさせた“納得の理由”

写真はイメージです ©iStock.com

 麻雀も仕事も「運が7割、実力3割」。「文藝春秋」2022年5月号より、サイバーエージェント社長の藤田晋氏による「わがギャンブル経営哲学」を全文転載します。(全2回の1回目/ 後編 に続く)

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■「ウマ娘」の利益を競馬界に還元

 昨年、念願の馬主になりました。7月のセレクトセールでは1日で15億円を使い、5月に約5億円で競り落としたディープインパクト産駒の牡馬ドーブネをはじめ、今は27頭を所有しています。

 一生楽しめるものに出会った。愛馬が出走するレースがある週末が楽しみでなりません。

 レース毎にジョッキー、調教師、厩舎のみなさんとチームを組み、勝ったら賞金を山分けし、負けたらみんなで悔しさを共有する。これが馬主の醍醐味です。昨年から愛馬が次々デビューしていますが、この1年目でしっかりと土台をつくり30年かけて馬主をやっていくつもりです。目標としては、いつか有馬記念を制覇したいと思っています。

“爆買い”と揶揄されたほど1年目から巨額の投資ができたのは、スマートフォン向けゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のおかげです。サイバーエージェントの子会社、サイゲームスが昨年2月にリリースしました。過去の名馬を擬人化した「ウマ娘」を育成し、レースに挑むゲームです。

 これが1300万ダウンロードを突破(1月時点)する大ヒットとなり、テレビアニメや漫画も高い人気を誇ります。おかげさまで2021年度の連結売上高は6664億円と前年比39.3%の増収で、過去最高の業績となりました。

 最近はスポーツ紙で「ウマ娘オーナー」と書かれるため、「仕事のために馬主をやっている」と、誤解してくださる方も少なくない(笑)。実際はゲームが当たる前から馬主になることを決めていたのですが、「ウマ娘」の利益を競馬界に還元するという「大義名分」ができたので、予定より多くの馬を買えたのです。

■麻雀で経営を学んだ

 1998年創業のサイバーエージェントは、インターネット広告事業からスタートし、その後、時代の変化に合わせながら「Amebaブログ」や「ABEMA」(以下、アベマ)などのメディア事業、ゲーム事業へと拡大してきました。

「ウマ娘」のように、いくつかの事業は私の趣味や得意分野と密接に結びついています。その代表例が麻雀でしょう。

 小学生のとき、友達のお父さんに手ほどきを受け、はじめて卓を囲みました。大学進学のため上京すると、雀荘に入り浸り、徹夜明けのその足で東京競馬場が定番コースとなりました。転機は、20年間無敗の伝説で知られる雀鬼、桜井章一さんの道場に通うようになったこと。麻雀哲学をたたきこまれ、これが仕事をする上で大いに役立ちました。

 24歳で起業して以来、麻雀から遠ざかっていましたが、2014年にプロも参加する「麻雀最強戦」で優勝。そこから再びハマってアベマの「麻雀チャンネル」内のリーグ戦に自ら出場するように。当時、社員は「社長は仕事をしているのか」と不安に感じていたのかもしれない(笑)。

■競技麻雀という真剣勝負の世界

 麻雀といえば、賭け事、徹夜、接待といったネガティブな印象を持つ方もいると思いますが、私が身を置くのは競技麻雀という真剣勝負の世界です。試合に出れば成績が晒されますから、己のプライドにかけてガチンコで戦う。お金を賭けるのはもってのほか、お酒を飲んで麻雀を打つことなんて絶対にあり得ない。

 2018年に麻雀のプロスポーツ化を目指して、プロリーグであるMリーグを立ち上げました。「麻雀チャンネル」でリーグ戦の全対局を動画配信したところ、有料会員が増えスポンサーもかなりついた。今やアベマのキラーコンテンツです。

 ルールが分からないのに観て楽しむ「観る専」の視聴者もいて、私の母もその1人。必死の形相で打つプロの凄みが伝わっているのではないでしょうか。

 ちなみに、当社には麻雀部があって部員は150名を超えます。SNS上のグループでは参加者全員の名前と所属が成績順に出ており、私がずっとトップです。

 麻雀は、4人1組で卓を囲み、牌を組み合わせて役を完成し点を競う頭脳ゲームです。136ある牌の山から1牌ずつ引いていくところからはじまります。いきなりアガリに近い配牌をもらう幸運な人もいれば、その反対にクズ手をもらう人もいる。不平等な状況が生まれるため運の要素が大きいともいえます。

 ただ、私の経験上、7割が運だとしても残り3割の実力によって順位が決まる。短期的に見れば運に左右されても最後は実力が物を言う。これって生き馬の目を抜くビジネスの世界に似ていると思いませんか。

 私は麻雀からビジネス経営を学んだと言っても過言ではありません。

 麻雀もビジネスも局面は刻一刻と変化します。勝敗を分けるのは、その時々の「押し引き」の判断です。配牌で「これはチャンスだから押すべきだ」という手牌なのに手が進まなかったり、相手が優勢となり危険な状況なのに引けなかったりすることがある。ビジネスは1回コケるとこわい。だから、小さいリスクのほうに賭けて押すべき局面で押せなかったり、リスクが高いのに無理な勝負に出てしまうことがある。麻雀、ビジネスともに、冷静で素早い状況判断が求められます。

■アベマに1000億超を投資

 そこで、押し引きの判断に必要なのが「主観、客観、俯瞰」の3つの視点です。麻雀が強い人には必ず備わっているといっていい。

 自分の(打ち)手ばかりをみる「主観」だけでなく、「客観」(相手の視点)から「ここでリーチがきたら相手はこわがるのではないか」と、相手からどう見られるかを考える。そしてとりわけ重要なのが、「今は終盤で相手との点差がこれぐらいあって負けている人が焦っている」と、「俯瞰」して全体の状況を掴むことです。経営においても俯瞰する力がないと会社の舵取りはうまくいかない。目の前の実務に忙殺されマイクロマネジメントとなり、俯瞰するのが疎かになる経営者って意外と多いのです。

 私は、自社のサービス、競合相手までに目を配ると同時に、業界全体が置かれている状況や世の中の流れを踏まえて、総合的に判断するよう心がけています。

 動画配信サービスのアベマは中長期事業の柱として今年で6年目を迎えます。ネット上でニュースから、ドラマ、バラエティー、スポーツ中継まで約20チャンネルを展開し、24時間365日放送。リアルタイムでもオンデマンドでも観られる、未来の新しいテレビです。

 アベマへの投資額は、累計で1000億円を超えます。今はまだ赤字ですが、10年がかりで取り組み、最後までやり切る気持ちです。

 主観的にいえば、アベマがこだわってきたのはオリジナリティーで、中継番組に力を入れてきました。かつて将棋の中継は、日曜日にNHKの限られた時間の枠でしか放送されていませんでした。アベマの将棋チャンネルでは朝からずっとノーカットで放送し、名人戦にいたっては2日にわたって放送しています。

 客観的には、動画配信サービスのネットフリックスやアマゾンプライム・ビデオといった、強大なグローバル企業の動向は当然気にしています。しかし、両者がレンタルビデオのインターネット版であるのに対し、アベマはテレビの再発明。しかし、向こうはグローバルな視聴者を背景にコンテンツの製作コストが桁違いに高い。有料会員の獲得競争に巻き込まれると厳しくなるでしょう。そのため無料放送のコンテンツではニュースを軸にここでしか見られないオリジナル番組の質を高め、スポーツ中継を拡大して差別化をはかるのが得策だと考えています。

■最大の逆境はITバブル崩壊

 俯瞰的にみると、映像を観るためのデバイスはテレビからネットに移行している。時間や場所を選ばずいつでもどこでも観られ、ネット発のオリジナル番組の質は上がっている。より便利なものを人々が求める時代に、アベマは従来のテレビの受け皿として必ずいけると確信しています。

 それから、3つの視点とともに、1つの軸をもつことが重要です。

 私は麻雀で、勝負の前に、どこに軸を置くか考えます。その1回の勝負にかけるのか、その日のトータルでの戦績で考えるのか、どちらか1つの軸に絞る。後者であれば、「10回戦って7回勝てばいいや」と、無理はしない。どちらも追い求めると、判断は必ずブレてしまいます。

 サイバーエージェントの軸は、「21世紀を代表する会社を創る」ことです。1998年の創業時、ソニーやホンダのような世界に誇れる日本企業を創りたいと思い、その軸だけでやってきました。その経営判断は素晴らしい会社にするためにプラスなのかマイナスなのか。シンプルに考えられるので、決断は早いほうだと思います。

 麻雀も人生も、ツイていない時は必ずある。そこをどう乗り越え、劣勢をはね返せばよいのか。

 私にとっての最大の逆境は2001年のネットバブル崩壊でした。その前年にネットビジネスが伸長しIT企業の株価が軒並み急上昇しバブルが起きた。私はその波にのって史上最年少の26歳(当時)で上場し225億円を調達しました。

 ところが、当時の技術力からすると、ネット業界への評価は実態からかけ離れたものでした。ネットバブルが崩壊すると当社の株価は暴落。世間のネット業界への信頼は一瞬のうちに崩れ、ネットベンチャー=悪という風潮になっていきます。

 とはいえ、手元に資本は潤沢にあるわけですから、当社は腰をすえて新規事業に投資していくだけ。にも関わらず、株主は怒って新規事業への投資に反対し、マスコミからは「赤字企業だ」とたたかれる。社員もどんどん去っていく。バッシングの嵐に「理不尽だなあ」と、何度も心が折れそうになった。

 そのときどう対処したかというと、ただ時が過ぎるのをじっと待っていただけです。「21世紀を代表する会社を創る」とは、時間をかけて大きな会社にしていくということ。なんとか耐えて軸を、信念を守り抜いた。上場から3年後、先行投資してきた新規事業が花開き黒字化を達成、株価も上昇しました。あの時を振り返ってみると、私にとって耐えることが勝ち筋でした。

サイバーエージェント社長・藤田晋氏が“管理職は実績より人格”と断言する真意 へ続く

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2022年5月号)

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