《不思議なブーム》アラブで流行する日本食は「寿司」「ラーメン」だけではなく…その意外すぎる食べ物とは――2021年BEST5

《不思議なブーム》アラブで流行する日本食は「寿司」「ラーメン」だけではなく…その意外すぎる食べ物とは――2021年BEST5

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2021年(1月〜12月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。グルメ部門の第4位は、こちら!(初公開日 2021年6月25日)。

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 2013年に無形文化遺産に登録された「和食」は、いまも海外での人気が高まり続けている。その証拠に、2006年時点で約2.4万店だった海外にある日本食レストランは、2019年時点で約15.6万店まで増加しているほどだ(食料産業局調査)。

 “中東きっての有名日本人” 鷹鳥屋明氏によると、アラブでも日本食は人気で、寿司やラーメンはすでにある程度市民権を得ていると語る。しかし、その陰で流行しているその他の食品もあり……。ここでは同氏の著書『 私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか? 』(星海社新書)の一部を抜粋。アラブにおける日本の食文化ブームのリアルを紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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■アラブで大人気の日本風パン屋

 実はいま、アラブでは日本の食文化がちょっとしたブームになっています。

 そのなかですでにある程度市民権を得ている寿司やラーメンについて取り上げるのではなく、ここで取り上げたいのは、本格的な日本式のパンです。いま、ドバイを中心に10店舗以上展開している「YAMANOTE?ATELIER(以下「YAMANOTE」)」というパン屋は人気が高く、日本式パンの知名度が急上昇しています。人気メニューはチーズクリームデニッシュ、キャラクターをデザインした惣菜パンや焼きそばパンなどです。ちなみに焼きそばパンは「YAKISOBA PAN」というそのままの名前で販売されている。この商品、麺とパンという“炭水化物×炭水化物”という構造はハイカロリー大好きなアラブ人にも人気。焼きそばのソースの甘みには中東でよく収穫されるナツメヤシ(デーツ)が使われています。そのため中東の方々の舌に馴染みやすいという要因もあるかもしれません。また、これはヒットの直接的な原因ではないと思いますが、中東の人気アニメである『伊賀野カバ丸』の主人公、カバ丸の好物が焼きそばということもあり、現地の消費者に受け入れられる下地が整っていたのかもしれません。

 この日本式パンですが1個200〜450円、と価格設定としては同じ値段を出せばケバブを食べられる現地の物価から考えるとかなり割高かもしれません。にもかかわらず、人気メニューとして売れているわけですから、それだけ「日本のパンだから買う」という消費者が多いということです。日本でも外資のパン屋さんは少し高めの値段で売られているように、アラブにおける日本式パンも同じような立ち位置なのでしょう。遠くサウジアラビアからわざわざ美味しい「YAMANOTE」の食パンをお土産に買いに来るケースもあります。「YAMANOTE」は中東に展開した日本式の飲食店のなかで成功した事例と言えます。

■きっかけは王族の奥様が始めた小さなパン屋

 この「YAMANOTE」というパン屋は、一見、名前から日本企業のようですが、実は一部に日本資本が入っているだけで実質的にはアラブ人の企業です。そもそも湾岸アラブ諸国において外資100%で事業をするのは一部では可能ですが、業種は限られています。いまでも簡単に外資100%で事業ができるのは中東各国にある「フリー・ゾーン」と呼ばれる経済特区の中などです。これはかつての中国における深センや珠海のような外資導入の窓口となる存在と言っていいでしょう。

「YAMANOTE」の経営権はもちろんアラブ人側にあります。そして「YAMANOTE」の設立に関わり経営権を持っているのはドバイの王族です。

 もともと「YAMANOTE」はスヘイル・アル?マクトゥームというドバイの王族と、奥様ハムダさんの夫婦2人だけで2013年に日本式パン屋のスタンドを開業したことから始まりました。開業のストーリーをスヘイル氏とハムダさん、日本側のオーナー代理に聞いた話によると、最初は奥様のハムダさんの父親の投資会社の支援を受け、合わせて日本の商社の支援も受けて20坪程度の小さなスペースでパンを販売するところからスタートしました。パン作りのノウハウは、日本のサガミベーカリーより指導を受けたそうです。

 実は、初期の計画では、お菓子やケーキ類を作ろうとしたのですが、原材料輸入が規制やコスト面から難しく、パンを作ることに切り替えました。開店当初に販売していたのがチーズクリームデニッシュ、さきほど紹介した焼きそばパン、そして牛肉のソーセージパンだったそうです。

 日本式のパンが徐々に人気になってきた2014年頃から、パンと合わせてOEM(相手先企業の商標をつけて販売される完成品や半成品の受注生産)で日本の製菓メーカーから輸入したラングドシャやクレープロールの販売も始めました。このラングドシャが現地でヒットし、王族の結婚式の引き出物などに使われるようになったのです。この頃はまだラングドシャがアラブでも珍しかったので、そういったタイミングで展開したことがヒットの原因だったと言えます。このラングドシャ、日本で言えば「白い恋人」のようなお菓子が現地で大人気になったと想像していただければわかりやすいと思います。適切な価格設定と食べやすい量で一気にラングドシャを展開できたのは、中東では「YAMANOTE」が初めてでした。

 その後、2016年には世界最大級のショッピングモールである「ドバイモール」に2号店を出店しています。テナントは8人掛けの小さなカフェスペースでしたが、2号店も人気を集め、同じ年にドバイ国際金融センターという日本でいえば日本橋兜町や北浜のような金融街に3号店をオープンします。

■ターニングポイントになった「ガルフ・ジャパン フードファンド」

 とんとん拍子で3号店までオープンした「YAMANOTE」に、ターニングポイントが訪れます。2017年にみずほ銀行と農林中央金庫などが共同で、日本食文化をアラブに広めることを目的とした「ガルフ・ジャパン フードファンド」という400億円規模のファンドを作るのですが、そのなかの投資先のひとつとして「YAMANOTE」が採択されることになったのです。また、みずほ銀行との取引が生まれることによって、様々な日本企業との取引がスムーズに進むようになりました。その後、2018年にはアブダビに4号店をオープン。2020年には8人掛けテーブルとチェアしかないテナントだったドバイモールの店舗を大型店舗に切り替えて、30人以上が入る規模に拡大しました。その勢いのまま様々な場所に店舗を拡大し続け、現在ではドバイを中心にアラブ首長国連邦で11店舗を展開するまでになっています。

 また「YAMANOTE」の拡大に大きく貢献したのが、日本からの人材と材料です。人材で言えば、日本の某大手パンメーカーで長年修業された方が中心となりパンを作る、セントラルキッチン方式を導入しています。その方が現地の職人たちを指導し、どの店舗で食べても美味しいパンを提供できる体制を整備していきました。店舗を拡大していくにあたって、どの店舗でも同じクオリティのパンが食べられるというのは非常に大きなアドバンテージになります。

■「ヒト・モノ・カネ」が揃ってこそビジネスは成功する

 素材について言えば、日本の大手商社出身のゼネラルマネージャーが先導して、ニップン(旧日本製粉)がブレンドした小麦粉を日本から取り寄せていたそうです。現地の小麦粉を使えば販売価格を3分の1に抑えられるのですが、あえて日本製の小麦粉を使うことでふっくらソフトな仕上がりになるのです。これはアラブに限らず、どの国で事業を展開するうえでも当然かつ重要な点ですが、「ヒト・モノ・カネ」の3点がきっちりと整い根気強くやればビジネスは成功します。

「YAMANOTE」の例で言えば、現地の王族が日系の銀行や老舗のパン屋で修業した職人と組み、わざわざ日本から取り寄せた小麦粉やお菓子、アラブ側と日本側双方からの投資とこれら3つが合わさることで、このような大きな成功をおさめることができたと言えるでしょう。「YAMANOTE」が成功できたのは、アラブでは珍しい日本式パンを売り出しただけではなく、「ヒト・モノ・カネ」の3つが揃った盤石のビジネススキームが構築されていたからこそだったということを強調しておきます。

「YAMANOTE」の次の狙いは、湾岸アラブ諸国における更なる事業拡大だそうです。人口3400万人を抱えるサウジアラビアには現在未出店なので、マーケットの大きいサウジアラビアで成功できるかどうかが今後のカギになってきます。さらに言うと中東だけでなく日本に「YAMANOTE」ブランドを逆輸入する野心もあるそうで、今後が楽しみです。

【続きを読む】「なぜわからんのだ!」『スレイヤーズ』が原因で王族と?み合いの喧嘩に…アラブ世界で受容される“日本文化”の実情

(鷹鳥屋 明)

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