ヤクザとは無関係なのに銀行通帳が作れない…テキヤが“不人気商売”になった2つの理由
2023年01月12日 18時00分文春オンライン

テキヤはなぜ不人気商売になってしまったのか? ©getty
ヤクザの親分の誕生会には30万円、襲名披露式には100万円…副業がないとやりくりできないほど厳しい「テキヤ」の金銭事情 から続く
「世の中の人たちは、テキヤを暴力団とは思っていないと思う。でも、当局はそういう目で見るから、段々と肩身が狭い思いをしないといけなくなっている」
今、テキヤが直面する危機とは? テキヤ文化に詳しい社会学者の廣末登氏の新刊『 テキヤの掟 』(角川新書)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
◆◆◆
■不人気商売ゆえの苦労
2022年5月3日、筆者は東京の下町に足を運んだ。そこで、現役の東山氏(仮名)と会い、テキヤの今後について話を伺った。以下は東山氏の証言である。
「テキヤには、歴史上、増えた時代があります。ひとつは、大正の関東大震災のとき。失業者が増えたため、行政と警察が相談して、一般の人たちが露天商になることを奨励した。もともと露天商は、親方一人に若い者一人という程度だったのが、この政策によって若い衆が増えたのです。
次は、戦後の混乱期。闇市が出た地区は、テキヤが大きくなった。闇市がない地方では、テキヤは増えなかった。幸い東京は闇市だらけでしたから、テキヤの人材には事欠かなかった。
こうした流れが、現在のテキヤに至るわけですが、いまは、若い人がテキヤに入門することは無くなりました。コンビニに行っても分かると思いますが、いつも求人の紙が貼ってある。どこの業界も人が足りない。私が考えるに、これは、会社も店舗も増えすぎたからだと思うんです。コンビニは外国人技能実習生などを受け入れて何とか回せるかもしれませんが、テキヤは無理だと思う。とりわけ、まともに日本に来ている人は難しい。テキヤは個人事業主ですから、労災や保険という問題がある。だから、外国人は難しいんです。
一方、日本人の若者はどうかというと、テキヤは彼らの憧れの職業ではない。現代の若者は拘束されるのが嫌だというようになった。若い子の職業トレンドも変化している。一昔前は美容師に憧れたのが、現在はユーチューバーに憧れる若者が多いじゃないですか。
まあ、私の感覚からすると、世の中が豊かになり過ぎた感はありますね。43年前くらいですか。当時、私の若いころなんか、テキヤの事務所にゴロゴロしていて、1杯の牛丼を仲間と分けて食べていた時代ですよ。何でもいいから仕事しないと食えない時代だった。いまの若い人は、取り敢えず食えるし、自分の理想的な生き方を求める時代。それがテキヤじゃないことは確かですね。だから、テキヤが直面している問題は、人的問題、なり手不足が第一です。
■年々、商売も難しくなっている
次の問題は、テキヤの商売ができる場所が少なくなっている。昔は、あるお寺は100本付けられたのが、今じゃ20本しか付けられないなんてザラですよ(本とは、三寸=露店の数)。これは、庭場のお寺さんのお達しだから、どうしようもない。あと、道路沿いの商売はもうダメというケースが多くなった。警察(機動隊や交通課)の指導に加えて、保健所も力が強くなっています。食品衛生法を盾に指導が入ったら、商売も難しくなる。
キッチンカーは営業許可が取りやすいみたいです。彼らは料理の質で勝負している。不味いと売れないわけです。だから、企業努力を怠らない。日々、切磋琢磨するわけですよ。テキヤからキッチンカーに移行した者もいるけど、業界全体から見ると少ないと思います。キッチンカーやっている人は、基本チョウコウ(素人)ですね。初期費用が安いから、店舗を持てない人がやっているんじゃないかな。素人だから、保健所の許可も取りやすい。
テキヤはショバがあればどうにかなると思っているが、それは昔の話。不味くても雰囲気で売れるとか、そういう時代ではないんです。売れてる同業者は、やはり企業努力をしています。
ちなみに、観光地のキッチンカー、商売のスペースは、イベント企画会社が管理しているようです。この管理会社は、誰でも聞いたことのある人材派遣会社とかですね。
いま、テキヤで管理しているニワにしても、うかうかしていたら、この管理会社が入ってくる可能性がある。彼らは、パソコンでテイタを割る(出店場所を割り振る)でしょう。寺としては、カスリ(使用料)さえ取れれば誰がやってもいい。しかし、テキヤは管理されるのが嫌。マトモに仕事したくない。ペナルティ制に馴染まないから、人材派遣会社が管理することはできないと思います。
あと、一部だけど、やはりテキヤの商売に入っている人は、前科がある人もいる。罰金以上の刑だと記載される犯罪人名簿を市区町村は保管しているんですよ。これは、出生地の自治体に電話で問い合わせないと分からなかった。現在は、データベース化されているから、簡単に調べられる。そうなると、道路使用許可も出にくくなるわけです。
昔は、警察も寛容だった。テキヤの事務所に四課の人間(暴力団対策課の刑事)がお茶飲みに来て雑談する。いろいろと街の情報収集をして帰っていったもんですが、今じゃ、そんな光景も見られなくなった。上の意向ですかね、警察とは溝が出来てしまいました。
だから、テキヤが直面している2つ目の問題は、世間のまなざしです。世の中の人たちは、テキヤを暴力団とは思っていないと思う。でも、当局はそういう目で見るから、段々と肩身が狭い思いをしないといけなくなっている。実際、テキヤでも銀行通帳が作れなくなっているんですよ。
■必要なのは「テキヤのホワイト化」
私が考えるに、これからのテキヤは、真っ当な人しか入れないようにするべきでしょうね。そして、テキヤの組合や団体を「ホワイト化」してゆく必要があるでしょう。これは、官から言われてやるのではなく、テキヤ側が率先して取り組むべき課題と認識しています。
たとえば、最近、ある組織の親分が亡くなられた。私は、若者1人連れて電車でお悔やみに行きました。しかし、そこに車数台で、大人数でもって乗り込んでくる組織もいるわけですよ。普通の住居用マンションへそんなに大人数で押しかけるというようなことは、時代に相応しくない。こういう意識を変えていかなければ、テキヤは生き残れない。人から言われて変えるのではなく、生き残るためには、テキヤが自らの組織を省みて、主体的に変えていくホワイト化への努力が、求められていると思います。
あれだけのニワ(お寺)、先代から受け継いできたもの。無くしてはいけない。大事にして欲しい。だから、我々が現代社会にあわせ、変わる努力をしていく必要があるのです」(2022年5月3日に聴取)
(廣末 登)
記事にコメントを書いてみませんか?