バルサにマンC、アーセナルも…大クラブが“超インテリ”を続々登用 AI vs 代理人「仁義なき戦い」

バルサにマンC、アーセナルも…大クラブが“超インテリ”を続々登用 AI vs 代理人「仁義なき戦い」

バルセロナは人工知能の博士号を持ったアナリストを採用 ©文藝春秋

リバプール躍進の陰に天才学者? 大儲けの“悪徳代理人”に現れた天敵とは から続く

 トラッキングデータを数理モデルに入力して「チームに本当に必要な選手」を見つけだし、獲得することで、リバプールは現代最強のサッカークラブとしての地位を確立していった。

 そして近年、そんなリバプールの成功を受け、他のビッグクラブでもAIを使ってデータ分析ができるデータサイエンティストの雇用がブームになりつつある。

■データ分析に力を入れるビッグクラブたち

 バルセロナは2016年1月、カタルーニャ工科大学で人工知能の博士号を取ったハビエル・フェルナンデスをスポーツアナリティクス責任者に抜擢。最近フェルナンデスは、NBAのサクラメント・キングス副会長も務め、サイモンフレーザー大学教授のルーク・ボルンと共同で、「その攻撃でボールを失うまでにゴールする確率」を予測するモデルを発展させている。

 ベンフィカは2017年7月、マイクロソフト社でプログラムマネージャーだったスダルシャン・ゴパラデシカンをスポーツデータサイエンス責任者に採用。マンチェスター・ユナイテッドは今年、データサイエンティストのチームを立ち上げたいと考えており、そのリーダーになれる専門家を探している。

 マンチェスター・シティを所有するシティ・グループでは、デロイトでコンサルだったリー・ムーニーが2014年からデータ活用に取り組んできたが、自身の起業のため昨夏に退任。ボルトンの分析部門で約8年半活躍したブライアン・プレスティッジが責任者に昇格した。資金豊かな彼らも、立ち止まれば時代に取り残される。ここまで書いてきたように、時代は「いかにAIを使うか」というフェーズに突入している。シティは2019年6月に初めてデータサイエンティストを募集し、マンチェスター大学との連携にも取り組み始めた。

■アーセナルは『Candy Crush』制作者を獲得

 イギリスの人気クラブであるアーセナルもこの分野の先駆者だ。

 もとともアーセナルは2012年にアーセン・ベンゲル監督のゴーサインを受け、アメリカのStatDNA社を買収。同社のシステムをクラブ内に組み入れ、パフォーマンスの数値化に挑んできた歴史がある。?そして2018年、ミハイル・ジルキンとスザンナ・フエレラスという“超一流”データサイエンティストを補強した。

  ジルキンはモスクワ物理工科大学在学中に、『ロードランナー』など古典ゲームのリメイクを販売するサイトを立ち上げて大成功した有名人。のちに大手ゲーム会社の制作リーダーとして世界的ヒットゲーム『Candy Crush』を生み出した。応用物理・数学の修士号を持っている。

  スザンナ・フエレラスはスペイン国立通信教育大学で人工知能の修士号を取り、大手通信業者のテレフォニカやボーダフォンでデータサイエンティストを歴任してきた。2人がいれば、数年後にリバプールとは異なる形でイノベーションが起こるかもしれない。

 ドイツサッカー協会は2018年2月、フラウンホーファー研究機構・実験ソフトウェアエンジニアリング研究所のパスカル・バウアーを、アカデミーのデータサイエンス&機械学習のマネージャーに招き入れた。バウアーはドイツ6部クラブの監督経験があり、UEFA指導者Aライセンスを持っている。新時代の文武両道ともいえるだろう。

 自前では立ち上げられないクラブのために、データサイエンスを提供する会社も出てきた。

 チェルシーの元アカデミーコーチが創設したAnalytics FCは、リバプールのモデルを参考にアルゴリズムを構築し、数理的に選手を評価できるようにしている。リーズ、ウェストハム、ウェスト・ブロムウィッチなどが使用中だ。

■AIを活用して選手がフィットするチームを発見

 オランダのSciSports社は異なる機械学習の使い方をしている。

 複雑なデータはあえて使わず、各国で行われる試合の「先発メンバー」、「交代選手」、「試合タイプ(リーグ、カップ戦、代表戦)」、「スコア」、「レッドカード」、「試合レベル」だけをアルゴリズムに入力する。

 試合当日、先発が発表されたら、「SciSkill」と呼ぶその選手たちの能力値を元に、機械学習で構築したモデルで試合のスコアを予測。試合後、予測と実際のスコアの差を元に、各選手の能力値を計算し直す。

 SciSkillを多くのリーグでカバーすることで、似たキャリアを辿った選手のデータを機械学習し、選手の成長曲線を予測できるようになった。クラブは欲しいタイプの選手を設定しておけば、同社から毎週オススメの選手を自動的に教えてもらえる。リヨン、アヤックス、バーゼル、フランクフルト、ボルフスブルク、パーダーボーンなど、すでに50クラブが使っている。

 AIが代理人から奪うのは「スカウト」の仕事だけではない。「転職仲介」においても代理人を凌駕する例が出てきた。

 イギリスのメディア『The Athletic』が「サッカーの改造:移籍、スカウト、指導の現場でデータが溢れている」という記事で、象徴的なエピソードを紹介している。

 オランダ代表FWのメンフィス・デパイが、マンチェスター・ユナイテッドでジョゼ・モウリーニョ監督の戦術に馴染めず、出番が減っていたときのことだ。デパイの代理人はSciSports社に相談。三者面談の結果、デパイは「左からドリブルでき、試合のテンポが早く、前にスペースがあるときに力を発揮できる」と考えていることがわかった。

 同社はそれらの情報を元に、どのクラブに移籍すべきかを彼らのシステムで検索にかけた。5クラブが候補に上がり、その最上位に示されたのはフランスのリヨンだった。AIが、「リヨンこそがデパイが一番活躍できるチームだ」と予想したのである。

 そして、その予想は的中する。

 デパイはリヨンで復活し、昨季のCLではベスト4進出の原動力になった。

 デパイの例は短期的には代理人とAIの幸せなコラボレーションのように見えるが、長期的には代理人の仕事が侵食される第一歩になったと言える。AIの登場によって、確実にクラブの代理人依存度は減って行くだろう。

 悪徳代理人の横暴には、ついにFIFAも規制に乗り出している。

 FIFAは2015年に代理人のライセンス制度を廃止し、ここ数年間は業界の自浄作用に委ねていたが、『フットボールリークス』の暴露によって重い腰を上げざるを得なくなったのだ。

 現在、2021年にライセンス制に戻し、規制を強化することが濃厚になっている。たとえば、移籍において「売り手クラブ」、「買い手クラブ」、「選手」の代理人を複数担当することは禁止される見込みだ(買い手クラブと選手の代理人だけ兼任可能)。

 手数料にもメスを入れ、売り手クラブの代理人を務めた場合は移籍金の10%、買い手クラブの代理人を務めた場合は選手給与の3%、選手の代理人を務めた場合は同じく給与の3%が上限になる。

 もはやこれまでのような天文学的な金額を稼ぎだすことは不可能になった。代理人にかつてない逆風が吹き始めている。

■“悪徳代理人”はAIに駆逐されてしまうのか

 だが、これまで業界を牛耳ってきた「フットボールマフィア」が大人しく裏舞台から去るわけがない。すぐに抜け道を見つけるはずだ。たとえば、選手の肖像権使用料に紛れ込ませ、“追加報酬”をタックスヘイブンにある子会社に送金させる――といったように。

 多くの一般企業と同じように、クラブによっては上層部にテクノロジーアレルギーが根強くある。

『The Athletic』によれば、バルセロナは前述のフェルナンデスがいるにも関わらず、その知見を選手獲得に生かせておらず、内部から「特定の代理人に頼りすぎている」という批判があがっているという。結局どんなにAIが発達しても、最終決定をするのは人間なのだ。

 AI vs 代理人。

 どちらが勝つにせよ、サッカーという劇にとって個性豊かな演者が多いほど盛り上がるのは間違いない。ピッチ外で始まった新たな頭脳戦が、サッカーのエンターテイメント性をさらに高めていくだろう。

『 フットボールアルケミスト 』(木崎伸也(原作)/12Log(漫画))は、2019年11月より「ヤングアニマル」(白泉社)にて連載開始。選手の代わりにクラブと交渉し、よりよい条件を提案するサッカー代理人をテーマに、敏腕代理人の先崎とインターンとして採用されたリサの活躍と成長を描く。2020年10月に第2巻が発売。

サッカー代理人はなぜ「悪魔」と呼ばれるのか? へ続く

(木崎 伸也)

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