相次ぐベトナム人犯罪のなぜ? 「ひとり月500円」「性接待も日常的」……実習生送り出し機関の“悪質な手口”

ベトナム人による犯罪が相次ぐ背景を分析 悪質な実習生送り出し機関も

記事まとめ

  • ベトナム人による犯罪が相次ぐ背景には労働環境の劣悪さがあるという
  • 実習生を送り出してくるベトナム現地機関にも悪質なものが多いそう
  • 悪質なブローカーが寄生していることが多く、「性接待」も日常的だとか

相次ぐベトナム人犯罪のなぜ? 「ひとり月500円」「性接待も日常的」……実習生送り出し機関の“悪質な手口”

相次ぐベトナム人犯罪のなぜ? 「ひとり月500円」「性接待も日常的」……実習生送り出し機関の“悪質な手口”

ベトナム側の送り出し機関は首都ハノイにとりわけ多い

 ベトナム人による犯罪が相次いでいる。その背景だと語られるのは彼らの労働環境の劣悪さだ。しかしもうひとつ、実習生を送り出してくるベトナム現地機関にも悪質なものが多いことはあまり知られていない。ベトナム人経営の送り出し機関が、同じベトナム人を搾取し、そこに日本人が寄生しているという図式があるのだ。

◆ ◆ ◆

「まず一度、ベトナムに行ってみませんか?」

 人手不足に悩む地方の中小零細企業、とくに建設関連の会社を回っているブローカーは、まずこう切り出すという。

「技能実習生の候補生たちが日本語を学んでいる現場を見てから、彼らを雇うかどうか決めてはいかがでしょう。もちろん渡航費用はこちらでお出しします」

 そう誘われて、企業の担当者はそれまで縁もなかったベトナムに向かうことになる。同行するのは営業をかけてきた「紹介会社」などと称する日本人ブローカー、それに地域にある実習生受け入れの組合(監理団体)の日本人担当者だ。

 監理団体は英語でいうとアクセプト・オーガナイザー、つまり受け入れ機関だ。この団体が、ベトナム側にあるセンド・オーガナイザー、つまり送り出し機関を通じて、技能実習生を受け入れ、各企業が雇う。送り出し機関はベトナム人の経営だ。

 技能実習制度は「海外の送り出し」と「日本の受け入れ」双方があって成り立つものなのだが、そこに悪質なブローカーが寄生していることがベトナムの場合、非常に多い。

 そんなブローカーの営業を受けて実習生の導入を検討し始めた企業の担当者は、ベトナムに到着すると、流暢に日本語を話す送り出し機関のベトナム人に出迎えられる。クルマはたいてい、アルファードかヴェルファイア。まず向かうのは「日本語センター」などと呼ばれる学校だ。送り出し機関はたいてい日本語学校を兼ねているが、やはり悪質なところもかなり混じっているという。

■「性接待」も日常的…送り出し機関“ベトナムツアー”の実態

 教室をのぞいてみれば生徒たちがいっせいに立ち上がり、

「ようこそお越しくださいました! いらっしゃいませ! 私たちは日本の技術を学びたいです! 一生懸命がんばります!」

 などと、日本語で声を合わせて唱和する。異様な光景だが、

「もちろん事前に、客が来るからピシッとしとけ、と言いつけられています」

 と語るのは送り出し機関の関係者で、この手の“ツアー”にたびたび同行している日本人Tさん。校内を回った一行が、校長室や応接室で次に見せられるのは、山のような日本語検定の合格証の束だ。日本語能力試験(JLPT)、日本語NAT-TEST……どれも高得点で生徒たちの優秀さをアピールするが、

「詳しい人が見れば、このテストはサインの位置がおかしい、役所の印鑑が異なる、点数配分が違うといったことがわかります」(Tさん)

 偽造である。ろくに日本語を教えず、書類だけ偽造している送り出し機関が多いのだが、それに気づかず企業の担当者はいたく感心して宿泊先のホテルへと案内される。そこにベトナムの美女たちが待っているのもよくある手口だ。

「好きな子を選んでください」

 と迫られ、きっぱり断れる企業担当者はあまりいないという。こうして夕食まで2時間ほど、計算されたように空いた時間を部屋で楽しむことになる。その後の夕食や飲みの席は、女性がかいがいしく担当者を世話する。

■「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」

 旅程はたいてい、2泊3日。最後の最後に契約の話となる。

 実習生を受け入れる企業は、監理費という形で、実習生ひとり当たり毎月2〜5万円を組合に払う必要がある。このうち一部は送り出し機関にも還流されていく。もちろん話を仲介したブローカーも「分け前」にあずかるのだが、

「うちはひとりアタマ月500円でいいですよ」

 などと、極めて良心的なことを言う。監理費や、実習生来日後の研修費などを含めても、日本人を雇うよりはるかに安い。

 こうして大満足の視察を終えた担当者は、社長に報告をするのだ。ベトナム人は失踪や犯罪のイメージがあるかもしれないが、私が行った学校の生徒はとても優秀であいさつもしっかりしていて、費用も安いし……。

「じゃあ、20人ばかり入れてみるか」

 こうして、送り出し機関とブローカーの巧みな連携で、日本語能力の低い実習生たちが次々と入国してくることになる。

■親の土地や田畑を担保に借金を負う実習生たち

 ブローカーはもちろん、実習生ひとり当たり月500円の利益で満足しているわけではない。

 ベトナム人実習生が日本に旅立つまでの費用は、健全な送り出し機関の場合60〜70万円といわれる。日本語学習や、そのための寮生活、食費、パスポートの取得代金、役所での書類手続きといった費用だ。ちなみにインドネシアやラオスの場合は30万円ほど、ネパールは50万円前後といわれる。物価や、その国の役所の「取り分」によってもさまざまだ。

 しかしベトナムでブローカーが絡んだ場合、その額におよそ80〜100万円が上乗せされて、送り出し機関から実習生へと請求される。

「実習生を目指すのはほとんどが、地方の農村の子たちです。もちろんそんなお金は払えない。そこで借金ということになるのですが、送り出し機関を経営するベトナム人は、元銀行員など金融関連の職歴を持った人が多いのです」(Tさん)

 彼らのツテでブローカーの利益も含めた150〜200万円ほどの借金を負うことになるのだが、その場合に担保となるのは実習生の実家の土地や家、田畑、それに両親の生命保険だ。

「加えて高額な金利が課されます。まともな送り出し機関であれば年利5%ほどですが、悪質な送り出し機関は20%を超える年利を要求してくる」(Tさん)

 ほかに借りる当てもないし、そもそも地方の農村で暮らしていた実習生もその家族も、あまり知識を持ち合わせていない。スマホは持っていてもSNSと動画サイトくらいで、なにかを検索して調べようというリテラシーにも乏しい。そういう層にあえて営業をかけて「人買い」をしているわけだが、そのため実習生も「なにかおかしい」と薄々感じていながらも、借金の契約を交わしてしまえばもう日本へ行くしかなくなる。

■失踪、犯罪へと追い込む仕組み

 ベトナム人実習生を受け入れた担当者は、はじめの1か月ほどは彼らの真面目な働きぶりに安心して、胸をなでおろすのだ。

 ところが、2か月目には休みがちになる。無断欠勤が目立つようになる。3か月も経つとそれが常態化し、パチンコを覚えて入り浸る者も出てくる。やがて寮の部屋はもぬけの殻となり、失踪してしまう。典型的なパターンだが、実習生は担当者の陰で送り出し機関の金利がどれほどにきついものか、日本で働き返済を始めてようやく気がつき、絶望するのだ。

 もちろん日本側の企業が、残業代の不払いや寮費のピンハネなどあの手この手で最低賃金の実習生を食い物にしている実態もあるのだが、加えて送り出し機関の金利が彼らを圧迫する。これはちょっと返せないと感じ、無気力になり、労働意欲を失う。逃亡する。

 焦った担当者は送り出し機関の窓口ともなっているブローカーに連絡をするが、親切だった態度は一変し、

「うちは500円しかもらってないんですよ。それでどうしろって言うんですか。それより、まだまだ生徒はいますから、次の入れましょうよ。何人ですか」

 とあしらわれるのだ。それならこちらは組合や警察、入管にも相談をすると返すと、スマホに送られてくるのは、あのとき一夜をともにしたベトナム女性との密会の様子、いわゆる「ハメ撮り」の写真だ。

 愕然とした担当者は、社長や組合、入管に頭を下げ、自分の管理不行き届きだと謝罪し、話はうやむやとなり、もうベトナム人は懲り懲りだ、となる。ブローカーや送り出し機関に累が及ぶことはない。

「それでもまた別のブローカーがこういう会社を訪れます。そしてまたベトナムに視察に行き、同じことを繰り返す人も多いのです」(Tさん)

■借金を背負った実習生のリストが出回っている

 実習生たちは、あてもなく逃げるわけではない。

 日本で知り合ったベトナム人や、同じ元実習生に誘われて、さまざまな仕事に就いていく。在留カードを偽造して、ベトナム人経営の会社に潜り込んでいるケースもあるし、いま問題になっているように窃盗団や薬物売買の組織に取り込まれることもある。

 というのも、実習生が日本に着いたときから、いやベトナムで借金をしたときからすでに「これだけの額を借りている人間が、この県のこの会社で来月から働く」といった情報、リストが出回るのだ。これは送り出し機関のベトナム人から、日本に住みグレーあるいはブラックな仕事をしているベトナム人に流され、活用される。

「来日間もないうちから、金利と低待遇にあえぐ実習生に近づき、親密になるベトナム人が必ずいるものです。仕事を放棄し、失踪する実習生はほとんど、こうした連中の誘いに乗ったものです」(Tさん)

 借金を背負わされ、犯罪へと追い立てられ、分かり切った結末に追い込まれていく。ベトナム人の犯罪が多発している要因はここにある。その絵図を描いているのは同胞のベトナム人と、実習生を奴隷としか見ていない日本人だ。

■自らを搾取した送り出し機関に就職する実習生も

「ベトナムには300〜400の送り出し機関があると言われますが、そのうち半数くらいは悪質なブローカーが関与しているように思います」(Tさん)

 こうした厳しい搾取を乗り越えて、借金を返済し、3年間の技能実習を無事に終えて帰国する優秀なベトナム人もいる。日本語や日本で学んだ技術を活かしてステップアップしていくケースもあるのだが、

「目立つのは送り出し機関に就職するパターンです」(Tさん)

 今度は自分が流暢な日本語で、日本の中小企業の人事担当者を出迎える立場になるのだ。借金を背負わされた側が、借金を背負わせる側へと回る。そんな負のスパイラルがある。

 技能実習制度という制度そのものを根本から見直し、悪質な送り出し機関やブローカーを排除する仕組みを作る必要がある。でなければ、ベトナム人による犯罪が日本ではこれからも増えるし、搾取されるベトナム人も減ることはないだろう。

(室橋 裕和)

関連記事(外部サイト)