残業が上司から部下に"遺伝"するメカニズム 「一度こびり付いた残業体質は世代と組織をまたいで再生産される」

残業が上司から部下に"遺伝"するメカニズム 「一度こびり付いた残業体質は世代と組織をまたいで再生産される」

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「残業学」の研究などで知られる立教大学経営学部の中原淳教授が1月28日、都内で「長時間労働の削減」をテーマに講演した。マイクを握った中原教授は

「働き方改革は、個人の努力ではできません。非常に大事なのは、職場ぐるみでの課題解決です」

と会場を埋めた約100人の人事担当者に訴えかけた。

上司が若い頃の働き方を押し付け、残業が"遺伝"してしまう

中原教授はまず、職場に残業が生まれるメカニズムを説明。残業は「感染する」「遺伝する」「麻痺する」といい、このうち周囲への"感染"については「要するに、同僚の働き方を観察するあまり、帰ることが言い出しにくい、帰りにくい職場風土が出来上がっていること」とする。

年代別の調査では「帰りにくい」と感じているのが若い世代に集中していることも指摘。職場の全員が本心では"帰りたい"と思っているにも関わらず、表面上はそれが出てこないので、結果的に、誰も望まない同調行動をしてしまう「多元的無知」状態に陥っていると分析する。

また、こうした"感染"の多くは「上司のマネジメントのまずさが起因している」と述べる。その上で、自ら居残り、朝令暮改、あれこれ細かく指示する「マイクロマネジメント」をする上司は「残業の感染を無駄に広げていく」とした。

"遺伝"については、職場の同僚間を水平移動する"感染"に対し、上司から部下への縦の移動と定義した。

「"遺伝"は、上司が自分が若いころにやってきた働き方を部下に押し付けてしまう」

口に出して言わなくとも、若いころの働き方を「正当」「ルール」などと自然に押し付けることが"遺伝"に当たるという。中原教授は「残業は次の世代に継承される」と言い換え、

「いったんこびり付いた残業体質、職場の慣行は、世代と組織をまたいで再生産される」

と危機感をあおった。

また、"麻痺"については「(残業で)主観的幸福感を感じつつ、一方で健康リスクが増す。その結果、心と体がチグハグになった状態」と説明する。

中原教授は、「残業時間が60時間を超えると、主観的幸福感が微増する」という調査データを紹介。「ランナーズ・ハイ」などと同じように、仕事でもある一つのことに集中した時に"ハイ"の状態になると結論付けた。

一方、残業時間が長引くほど健康リスクが増すというデータも紹介し、

「長期間にわたり労働できず、人生100年時代を完走できないということが生まれてくるのかな」

と話す。残業が60時間を超えると「働く行為そのものが嫌になる」という人の割合が急激に上がるという。

残業削減のためには「時間の"境界"を意識させる」「職場ぐるみの組織開発」

続いて、残業を減らす方法を解説した。「まず経営陣のメッセージングやコミットが必要」とした上で、従業員に就業時間の"境界"を意識させる「外科手術」と、職場の内側から仕事の在り方を見直す「漢方治療」の2種類が必要、とした。

"外科手術"とは、具体的に以下のようなてこ入れを指す。

・厳密な勤怠管理
・残業時間の上限設定
・オフィス消灯
・PCシャットダウン

これらは「就業時間の終わり」と「残業時間の始まり」を意識させる対策だという。中原教授は「こう言うと当たり前だと思われるかもしれないが、残業時間がいつから始まるか意識していない人は意外と多い」と指摘する。

さらに、こうした強制的な対策を導入しても、その瞬間に「4分の1の人は抜け道を探す」という。その2〜3か月後には同僚が従わなくなり、そのうち上司も何も言わなくなり、最後には上司も実施しなくなる、とこれまでの傾向を分析。

その上で「だから、徹底的にやることが大事なのかなと思います」とアドバイスを送り、

「組織変化は何度も繰り返すと体力がなくなってくるんですよ。だから、根本的な解決策は1回で終わらせ、必ずやり切ることが大事だ」

と力を込めた。

だが、これだけで終わってしまうと、仕事の量は減らず、やり方も変わっていないために、働き方改革は上手くいかない。そこで、前述の"外科手術"と併せて、"漢方治療"として職場ぐるみの組織開発が必要になってくるという。

一般的な組織開発には「見える化」「対話」「未来づくり」といった3ステップを踏むのに対し、長時間労働の是正に必要な段階として、以下の8ステップを示した。

・見える化
・コアチームづくり(組織が大きい場合)
・ねぎらう+感謝する
・持続可能性を問う
・ズレを見せる(年代などで区切り、メンバー間のズレを可視化する)
・手がかりを示す
・対話と未来づくり
・フォローアップ

こうした丁寧な段階を踏む理由として、中原教授は「長時間労働是正は、僕は心理戦だと思っています」という。

「今まで子どものために、会社のために長時間労働をいとわず頑張って働いてきた人に『ごめん、働き方改革だからさっさと帰って』って言ったら、自己否定されます。で、何が起こるか。そういう言葉を聞いた瞬間に心のシャッターを閉められる。そうすると、もう絶対に従わないし、絶対にやらないですよね」

同じ内容でも、伝え方を工夫する大切さを説く。では、どういう言い方をすべきなのか。中原教授は、まずは従業員の今までの仕事ぶりに関して、感謝の言葉を伝えることを勧める。

「あらゆる組織開発は、現場への感謝から始まるのではないかと思います。その上で『いいことをやってきてくれているんですよね。頑張ってこられたんですね。ありがとうございます。それを持続可能にしていきませんか?』と聞きます。『見直しませんか?』『やめませんか?』『無駄を探してください』っていきなり言っちゃうと、ムカッてきます。ネガティブワードは絶対に使わない」

「良いことを持続可能にしていきましょう」という姿勢を見せることがあくまでも大切で、こうした聞き方をすることで心のシャッターを閉められることも防げるという。

また、メンバー間では年代や育児、介護の有無ごとに、必ず長時間労働の認識に対するズレが生じる。こうしたズレを可視化して「違う思いを持っている人がいる」と認識させることが前提だと説明し、

「職場の無駄を言い出し合えるようになると前に進む。自分たちの働き方は政府ではなく、自分たちで決めましょうよ」

と呼び掛けた。

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