「鬼滅の刃」のパワハラ会議をブラック企業専門家が分析 「鬼舞辻無惨のセリフは21世紀の職場でも十分ありえる」

「鬼滅の刃」のパワハラ会議をブラック企業専門家が分析 「鬼舞辻無惨のセリフは21世紀の職場でも十分ありえる」

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人気漫画『鬼滅の刃』(作:吾峠呼世晴)に登場する数々の名シーンのうち、ネット上で"パワハラ会議"と呼ばれているシーンがあるのをご存知だろうか。コミックス6巻、アニメでは26話で、鬼たちを統率する鬼舞辻無惨が配下の「下弦の鬼」たちを解体、処刑するために行った理不尽な粛清会議のことだ。

同シーンでは、訳も分からず無限城に集められた下弦の5体に対して、鬼舞辻が「頭を垂れて蹲(つくば)え 平伏せよ」と土下座を命じるセリフから始まる。そこで、今回はブラック企業アナリストの肩書を持つ新田龍氏にアニメを見てもらい、”パワハラ”会議を専門的観点から分析してもらった。(取材・文:谷本拓也)

「記憶の奥底に追いやったブラック企業の思い出が鮮やかに蘇るシーン」

"パワハラ会議"というワードは、作中に登場せず、鬼舞辻の言動や行動がまるで「現代のパワハラ上司みたい」ということから付けられた異名だ。鬼舞辻は実際に、下弦の肆・零余子が頭を下げるのが遅れたことを「申し訳ございません」と謝罪したところ、

「誰が喋って良いと言った? 貴様共のくだらぬ意思で物を言うな 私に聞かれた事にのみ答えよ」

と突き放す。その後、部下にあたる下弦の鬼たちは、鬼舞辻に思考を読まれたり、問いを否定したり、逃亡を図ったり、指図したりしたことで、次々に殺されていく。

このシーンについて新田氏は「『ブラック企業就職偏差値ランキング』ワースト企業出身者としては、実に懐かしい、記憶の奥底に追いやった忌まわしき思い出が昨日今日のことかのように鮮やかに蘇るシーンでした」と印象を語る。漫画の世界だけでなく、現実のブラック企業にも通ずる部分が多いという。

鬼舞辻は、部下の鬼に対して「黙れ 何も違わない 私は何も間違えない」「全ての決定権は私に有り、私の言うことは絶対である」「お前に拒否する権利はない 私が"正しい"と言ったことが"正しい"のだ」といったセリフを怒涛の如く浴びせる。ひょっとしたら、現実でも、これらに近いことを言われた経験のある人はいるのではないだろうか。

「おそらく、過去のトラウマが怒涛のように押し寄せ、善逸の霹靂一閃を受けたようなフラッシュバックを起こしてしまったブラック企業経験者も多いことでしょう」(新田氏)

「もう少し猶予を頂ければ…」下弦の鬼たちの言動も現代の社畜と似通う

作中に登場する鬼舞辻のセリフを現代風にアレンジすると、こんなところだろうか。

「なんでお前たちはそんなにデキが悪いのか」
「役職付になったからといって終わりじゃない そこからがスタートだ」
「何がコンプラ違反なんだ 言ってみろ」
「目の前の数字から逃げるのか」
「お前はどうやって会社に貢献するんだ」
「私が正しいといえば正しい。お前に拒否権はない。YES or ハイだ」

新田氏は「こうすれば、このまま21世紀のブラック企業でも通用するでしょう」と語る。確かに現実の世界にも、無意識のうちに同様のセリフを使ってしまっている"ブラック上司"たちは多そうだ。

一方、新田氏は「下弦の鬼たちの振る舞いもまた社畜のようです」と指摘する。実際に、下弦の鬼たちの鬼舞辻に対する返答を置き換えるならば、

「そんなこと俺達に言われても…」
「もう少し猶予を頂ければ…」
「給与アップしてもらえれば頑張れます」

といったところだろう。また、怒られているのに内心で反発したり、失敗を続けていながら根拠もなしに「次はやれる」と返答したり、上司の機嫌を取ろうと饒舌になったり…など、こうした部下側の態度もまたパワハラを助長する要因になっている可能性があるという。

パワハラ加害者、多くのケースで「無意識」「悪意なし」

作中の鬼舞辻は、気に入らない下弦の鬼たちを次々に殺していた。現実の会社でも、成績が振るわない部下に対して問答無用で詰め寄り、後先考えずに文字通り「クビ」にできるならまだ楽かもしれない。

だが、現実はそうはいかない。どんな部下でも機嫌を害さないよう、またハラスメントと言われないように注意しながらコミュニケーションを取る必要がある。万一「クビだ」と口走ろうものなら、会社ごと訴えられかねないだろう。新田氏は

「その点では、従業員にとって良い時代、パワハラ的なマネジメントしかできない上司にとっては受難の時代と言えるでしょう」

と述べる。現実には、鬼舞辻のように思い切った粛清をすることは難しく、上司にとってはパワハラに頼らないマネジメント能力が求められる時代になった、としている。

ところが、近年でも鬼舞辻まがいのパワハラが明るみになった例は確かに存在する。昨年、ヤマト運輸の営業所で上司が部下に対して「馬鹿かお前」「お前何もわかってねぇやろ」「殺すぞお前」などと罵声を浴びせたり、足蹴りしたりする映像が拡散したのは記憶に新しい。

また、日本郵便では、朝礼で部下に土下座を強要した事案が裁判に発展し、パワハラ認定された後に損害賠償支払の命令が出た。暴行の経緯についてはその後詳しい報道がないものの、暴行罪と脅迫罪の成立を認める内容だった。

これまで多くのパワハラ事案に関わってきた新田氏は「『相手をいじめたい』『憎らしい』といった明確な目的意識や悪意を持ってパワハラしている人はさほど多くなく、逆に『無意識のうちに』『悪意なく』ハラスメントが行われているケースが多い」と印象を語る。

鬼舞辻もまさにケースに当てはまり、漫画やアニメを見ても、本人に悪意があるような描写は特にない。むしろ、理不尽な粛清をさも当然であるかのように、敢行している。新田氏は「普段からのコミュニケーション不足もハラスメントの元凶の一つ」とした上で、

「現代の職場では、普段から『この上司/先輩は、自分に対して関心を持ち、ケアしてくれている』と相手から感じられるような言動、行動を意識することが肝要です。上司による指導の目的は『相手を畏怖させて支配すること』ではなく、『部下の行動が主体的に変わること』なのです」

とアドバイスしている。鬼舞辻も下弦の鬼たちに血を分け与えるだけでなく、普段からのコミュニケーションを密にしていれば、パワハラ会議はやや違った結末を迎えていたかもしれない。

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