みんな大好き「アンパンマン」 最初は友達がいない、孤独なヒーローだった?

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小さな子どものいる家にとって、とんでもなく身近な作品『アンパンマン』。最近改めて気づいたのだが『アンパンマン』が絵本で登場したのは1973年。テレビアニメの『それいけ!アンパンマン』は1988年10月から、途切れることなく放送している。BS日テレの教育番組『それいけ!アンパンマンくらぶ』に至っては、月曜日から金曜日まで毎日放送だ。どんな作品にも好き嫌いはあるが、アンパンマンが嫌いという声はめったに聞かない。だが、繰り返し見ていると、あれこれ疑問が沸いてくるポイントもある。(文:昼間たかし)

■ 初代アンパンマンは冴えないオッサン?

アンパンマンへの疑問は、まず『それいけ!アンパンマン』の冒頭から始まる。慣れ親しんだ主題歌『アンパンマンのマーチ』では「愛と勇気だけが友達さ」と歌われている。ええ、あれだけ仲良くしているのにジャムおじさんもバタコさんも、しょくぱんまんもカレーパンマンも、みんな友達じゃないというのか?

作者であるやなせたかしの著書などを調べても、これに関する言及は見つからない。ただ、もともとアンパンマンは孤独なヒーローだったということはわかる。

彼の短編小説に描かれた「初代アンパンマン」は、空を飛べるだけのオッサンである。それ以外に特に能力もなく、パンを焼いて困っている子供たちに配るしかないオッサンである。とにかくかっこ悪いアンパンマンは、戦地に飛び、アンパンを子供たちに届け、高射砲に打たれて散る……。なるほど「愛と勇気だけが友達さ」を体現しているヒーローだ。

このシュールな短編は、短編童話集『十二の真珠』(1970年)に収録されている。復刊ドットコムから復刻版も出ているので、ぜひ読んでほしい。

■ 永遠に倒されないバイキンマン

そんなアンパンマンの最大の謎は、バイキンマンとの関係だろう。アニメでは、ほぼ毎回、悪さをしたバイキンマンがアンパンチかアンキックで倒されて、空の彼方に飛んでいく。

面白いのは、アンパンマンがいつも諦めずに「やめるんだ、バイキンマン」と、一度は言葉で説得しようとすること。そして、その場ではバイキンマンを退治しても、彼らを徹底的にやっつけるために、バイキン城に攻め込んだりはしないことだ。

バイキンマン陣営の人間?関係も謎だ。ドキンちゃんは時々、バイキンマンと共に空の彼方に飛んでいくのだが、そうならない時も多い。コキンちゃんに至っては、パン工場でみんなと食卓を囲んでいることまである。

こういった点は、やはり多くの人が疑問に感じているのだろう。やなせたかしは著書『オイドル絵っせい 人生、90歳からおもしろい! 』(新潮文庫)で、「生きるということはバイキンとの戦いを避けて通ることは不可能」と語っている。

なぜ、バイキンマンを徹底的に退治してしまわないのか? やなせの答えはこうだ。

「バイキンを全滅させればいいのかといえば、その時は人間そのものも死滅してしまう。パンも酵母菌、イースト菌がなければつくれない。しかしインフルエンザ菌とかいろいろ怖いバイキンもいて戦わなくてはいけない。健康であるということは善玉菌と悪玉菌のバランスが良好な状態」

だから「アンパンマン対バイキンマンの戦いは永久にくりかえされるわけで、そこにバイタリティーが生まれる」と、やなせは語っている。

やなせは、バイキンマンがいなくなった世界は正常ではない。それでは世界が成り立たない、と考えているのだろう。悪さをしほうだいは困るのだけど、根絶やしにするのも逆に良くないということだ。

そういえば、時々アンパンマンとバイキンマンが共闘する回も出てくる。さらに、ミス・マリーネのようにバイキンマンをも翻弄するキャラも登場する。

バイキンマンといえども、「絶対悪」のような、わかりやすい存在ではない。そんな複雑に折り重なった多面性が、長らく愛され続けるバイキンマンというキャラクター、そして長く長く続いている人気シリーズ『アンパンマン』を生み出した、ということなのかもしれない。

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