後ろ向き経営の三越伊勢丹にコロナ禍が容赦なく追い打ち【緊急リポート 百貨店の断末魔】

後ろ向き経営の三越伊勢丹にコロナ禍が容赦なく追い打ち【緊急リポート 百貨店の断末魔】

首都圏の6店舗は今も全館休業中(C)日刊ゲンダイ

【緊急リポート 百貨店の断末魔】三越伊勢丹HD

「3月決算がアダになった」とぼやくのは百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)の中堅社員。5月11日に発表された20年3月期(19年度)の業績は売上高1兆1191億円(6.5%減)、営業利益156億円(46.4%減)、そして最終損益は111億円の赤字だった。各マスコミは「百貨店大手で唯一赤字に転落」と報じた。

「新型コロナウイルスの影響を大きく受けた3月の数字が入っているか、入っていないかで明暗が分かれた」(中堅社員)

 百貨店大手5社のうち、高島屋、J・フロントリテイリング(大丸松坂屋)、セブン&アイHD(そごう・西武)が2月決算。三越伊勢丹HDとエイチ・ツー・オーリテイリング(阪急阪神)が3月決算だ。なお、阪急阪神は5月12日に決算発表の予定だったが、25日に延期している。

 たしかに3月の業績が決算数字に反映されているかどうかは小さくない問題だ。が、5社の中でもっとも冴えないのが三越伊勢丹であるのはまぎれもない事実。4月の売上高は前年同月比90.2%減と、大手5社の中で唯一、マイナス幅が90%を超えてしまった。4月の数字が他社より著しく悪い理由ははっきりしていると、中堅社員は説明する。

「伊勢丹新宿店、日本橋三越本店、銀座三越の基幹3店舗が緊急事態宣言の翌日の4月8日から食品売場も含め全館休業していることが響いた。この3店で三越伊勢丹直営店の売上高の8割以上を占めているのです」

 ライバルの高島屋は4月8日以降も大半の店舗で食品売場だけは営業を続けたのと対照的だ。

■「何のために早期退職募集に応じたのか」と悔しがるOB

「業界の盟主としての気概がまったく感じられない」と憤るのは三越伊勢丹のOB。数年前に早期退職募集に応じた。

「辞めたくはなかったが、会社の窮状を考えると、決断せざるを得なかった。実質的にはクビですよ。こうして屍になった我々の気持ちを踏みにじるような状況に陥っているのは残念というより、腹立たしい。何のために辞めたのかと思ってしまう」

 39県における緊急事態宣言解除を受け、5月16日、仙台三越、福岡三越など4店舗、18日には静岡伊勢丹など3店舗が営業を再開した。だが、基幹3店舗など首都圏の6店舗はいまだ、食品売場を含め全館が休業を続けている。

「そもそも、現経営陣が委縮するばかりで、守りしか考えていない。たとえ新型コロナ禍がなくてもジリ貧なのに、冒険する気がまったくないんです」(OB)

 赤字に陥った19年度決算についても、経営陣の言い訳ばかりが目立つという。

「株主向けの決算資料では、業績が悪いのはすべてコロナのせいみたいな言い方になっている。訪日外国人減少、外出自粛による消費低迷、感染防止のための臨時休業、コロナ対策コスト増…。ごく当たり前の理由を並べて、自分たちは悪くないんだと、子どもじみた言い訳をしているだけなんです」

 元凶は杉江俊彦社長の後ろ向きの経営姿勢にあると、このOBは糾弾する。

「3年前に杉江さんが社長に就任した経緯を考えると、致し方ない面もあるのですが、それにしてもひどい」

 杉江社長誕生はイレギュラー的な事態がもたらしたものだった。陰りが見え始めた経営を立て直すべく、前社長の大西洋氏が打ち出した方針は事業の多角化。百貨店だけでは今後は厳しいと判断したのだ。

■多角化で社員が疲弊

 だが、新規事業への急ピッチでの取り組みを求められ、社員たちは心身ともに疲労。不満が限界点を越え、労働組合は石塚邦雄会長(当時)に直談判した。これでは会社組織がもたないと判断した石塚氏は大西氏に辞任を迫り、その後釜に杉江氏を据えたのだった。

 杉江氏は社長に就くと、大西氏による新規事業を次々に凍結。一方、百貨店事業の見直しも進めた。

「杉江さんは本業がなおざりになっていたと大西さんを批判していたのに、フタを開けてみれば、その路線を踏襲しただけだった。不採算の地方店をどんどん閉鎖していき、百貨店事業はますます縮小。その一方で早期退職制度をより強化したんです」

 今や、こうしたリストラ策に反発する社員も減っている。早期退職制度は大幅増額が効を奏し、応じる社員が増えているのだという。

 こうして見ていくと、杉江社長体制のもとでは、前向きな方針がほとんど打ち出されなかったことがわかる。ただ、前出の中堅社員は杉江社長の功績もあると反論する。

「EC(電子商取引)に力を入れたのは正解だったと思います。新型コロナのせいで店舗での販売が見込めない中、今後を左右するアイテムです」

 杉江社長は昨年度から3年間で200億円を投じ、EC事業の拡充を図っている。しかし、周囲の見方は冷ややかだ。

「すでに他の百貨店も力を入れている分野で、遅ればせながらという感が強い。三越伊勢丹のクレジットカード会員には富裕層が多いので、それなりの強みはあるものの、年齢層が高く、先細りが見えている」(カード会社役員)

 前向きな事業といえば、もうひとつある。今年2月、日本橋三越本店新館にビックカメラがオープンしたのだ。

「ビックカメラの宮嶋宏幸社長から杉江社長に話があり、決まったものです」(中堅社員)

 安売りのイメージが強いビックカメラだが、三越で扱うのは富裕層をターゲットにした高級家電。欧米の百貨店では近年、高級家電のフロアを設けるのがブームになっている。それにならったもので、期待は大きかったが、「新型コロナのせいで、春の家電商戦も飛んでしまった」と中堅社員は嘆く。

 業界の盟主はおろか、大手の中で復活が一番、遅そうな雲行きである。

(田中幾太郎/ジャーナリスト)

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