江上剛が語る 日本の製造業・ものづくりの進むべき道/町工場見本市

江上剛が語る 日本の製造業・ものづくりの進むべき道/町工場見本市

「今、消費者に目を向けて物作りをしている日本の製造業はほとんどなくなっている。外国製品にとって代わられ、大いなる『下請け国家』『部品国家』になってしまった」と語る、作家・江上剛氏

 中小製造業のメッカのひとつである東京の葛飾区。その葛飾区を中心に近隣地域の中小製造業者が集結し、下町の町工場が持つ技術力や製品を発信する『町工場見本市2018』が2018年2月8日・9日の期間、東京国際フォーラムで開催された。さまざまな機械をはじめ、金属加工製品やプラスチック、紙、繊維などの製品が展示された『町工場見本市』だが、今回で第4回を重ね、認知も高まってきている。葛飾区の中小製造業の特徴である「高い技術」のプレゼンテーションの場であり、また「連携」という未来志向も感じ取れるイベントになった。

 会場内で行われたセミナーは、多様な講師陣を迎え、非常にユニークで興味深い内容となった。今日お届けするのは、作家・江上剛氏による『これからの日本経済と企業の進むべき道』だ。『非常銀行』で作家デビューした江上氏が元銀行マンであることはよく知られているが、現在では小説やビジネス書だけでなくテレビのコメンテーターとしても活躍、日本のビジネスのあり方に警鐘を鳴らす"ご意見番"としての存在も大きい。セミナーでは、日本の中小企業が誇りとする職人的技術を過去に遡って検証し、現在的な意義へとつなげた。

■日本は大いなる「下請け国家」「部品国家」になっている

 冒頭、江上氏はビットコイン等の仮想通貨を例に挙げ、「今の日本はものづくりよりも金が金を生むような、『金持ちになりたがる時代』になっている」と切り出した。「日本はものづくりの国だと言われている。これは以前から何度も言われているからみんなその気になっているが、実際はそうではなくなってきている。ものづくりの現場では不祥事のニュースが絶えない。またかつてはアジアや中国で日本製品はひとつのステータスであったが、今は外国製品に取って代わられている。消費者に目を向けて作っている企業はほとんどなくなり、大いなる『下請け国家』『部品国家』になっている」と語気を強めた。

 かつてはどの企業も消費者のニーズに応える製品を作っていたが、今は海外企業の動向を気にして製品を作っているところが多いのだという。そのことについて江上氏は、かつて自身の小説(『断固として進め』)でも取り上げた富士フイルムを例に挙げた。

 「富士フイルムはカメラのフィルムを作っている。化粧品を作っている。カメラも事務機器も作っている。BtoC、つまり消費者の立場に立ったものづくりを続けている。そこに魅力を感じ作品に取り上げた」と語り、富士フイルムのものづくりにおける6つのポイントを具体的に分析した。

■日本の企業は本業から離れると失敗する

 まず1つ目のポイントは「危機感の共有」。富士フイルムでは2000年頃までカメラ用のフィルムが売上の6〜7割を占めていたが、デジタルカメラの登場によって2000年以降はフィルムの売上は3割程度にまで落ち込んだ。しかし従業員もマスコミも「フィルムはまだ海外で売れている」と危機感を持たなかったという。

 そのとき社長に就任した古森重隆氏(現会長)は「今後フィルムがなくなる」ということをいち早く認識し、会社の主力商品がなくなるという危機感の共有を社内で進めたという。

 2つ目は「本業からの発想」。自社の技術を棚卸しして、本業からどんな技術が活かせるかを考える必要があるという。このことについて江上氏は「海外の企業は本業から離れるほど成功するが、日本の企業は本業から離れると失敗する」と話し、買収に買収を重ねて最終的に倒産したコダックを例に挙げた。

 ここでいう棚卸しとは決して最先端の技術である必要はなく、自社で埋もれている技術を見直すということだ。富士フイルムの例で言うとフィルムの製造にはナノ化、コラーゲン、抗酸化、乳化などの技術が使われる。

 これらの技術を応用して新製品を作るために必要なのが3つ目のポイントとなる「市場の声を聞く」。自社の持っている技術はどんなところで応用できるかということで富士フイルムが出した答えが化粧品だ。特に基礎化粧品は2兆円の市場規模があり、基礎化粧品を作れば自分たちに関わりのある裾野産業(原材料や瓶などのメーカー)が助かる。

 このことについて江上氏は「イノベーションというのはゼロから新しいものを作るだけではなく、今あるものを右から左に移すだけでも市場を作りだすことができる」と強調した。



■引き算で過剰なサービスを減らす

 4つ目のポイントは「引き算」。いわゆる"ガラパゴス化"と言われるように、お客様の声を聞きすぎて過剰なサービスをつけることが付加価値だと思っている日本の企業は多い。江上氏は「日本には俳句に代表されるような引き算の文化がある。自分たちの持っている機能の一番重要なものを取り払えば新しいものが生まれる」と歴史から参照することでの効用を語った。

 その良い事例として江上氏が挙げたのがキッコーマンだ。キッコーマンの「生醤油『いつでも新鮮』」は、醤油づくりの最終工程である"火入れ"をしていない生の醤油を提供するために新パッケージを開発したところ、人気商品となったのだ。醤油製造にとって重要な「火入れ」を引き算したことによって生まれた成功と言えるだろう。

 5つ目は「人材の活用」。富士フイルムではリストラされたナノ化の技術者を呼び戻してプロジェクトに参画させることで、化粧品や医療品の開発に成功している。このようにベテランを活用することも必要であるが、一方で若い人材の意見を聞くことも重要だと江上氏は語る。

 例えばあるホテルの調理場では若い人がどんどん辞めているという。これは分業が進みすぎて自分の仕事の意義ややりがいを感じられなくなっているのが理由のひとつだという。人手不足が社会的な課題となっている今、中小企業の特長である「人を大切にする」という文化がもっと見直されてもいいのではないだろうか。

 最後のポイントとなるのが「リスクテイク」。例えばホンダのスーパーカブは最初から売れたわけでなく、レースに参入してホンダの名前を世界に知らしめるというリスクを取るところから始まったという。またある消しゴム会社では売れると見込んで作った果物の形の消しゴムが全く売れなかったが、時代が進んだ今では日本を代表するお土産の一つになっている。このように新しいことをするにはリスクを取りに行く必要があることも、江上氏は大切なポイントして付け加えた。

 「日本の職人技術や一見非効率と思えるひと手間は大きな付加価値となり、他の企業や外国企業の参入障壁にもなる」と中小企業へのエールを贈って、江上氏は講演を締めくくった。




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