高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 給与引き上げは「夢のまた夢」...最低賃金31円増が「上げすぎ」である理由

最低賃金は過去最大の31円引き上げとなった。それに対し、日本商工会議所の三村明夫会頭は、「企業物価の高騰を十分に価格転嫁出来ていない企業にとっては、非常に厳しい結果」とした。

■最低賃金を上げるには、まず雇用の確保が先決

最低賃金については、どのような伸び率にするか、マクロ経済雇用の観点から合理的に考えられる。マクロ経済で総供給と総需要の差であるGDPギャップが分かれば、その半年先の失業率はある程度予測できる。失業率が分かれば、雇用状況を反映した賃金も分かる。こうした関係を整理すると、最低賃金の上昇率は、5.5%から前年の失業率を差し引いた程度だ。

これで分かると思うが、最低賃金を上げるには、まず雇用の確保が先決だ。雇用の確保のためには、GDPギャップを縮小させなければいけない。これがマクロ経済学からの基本である。

旧民主党政権は最低賃金で失敗した。2010年の最低賃金は引き上げるべきでなかったが、左派政権であることの気負いと経済政策音痴から、引き上げ額17円、前年比で2.4%も最低賃金を引き上げてしまった。前年の失業率が5.1%だったので、それから導かれる無理のない引き上げ率はせいぜい0.4%程度だった。

今回はどうか。2021年の失業率は2.8%、これを単純に当てはめると、最低賃金は2.7%増、金額では25円引き上げがギリギリのところだ。

しかも、失業率2.8%は実力より低い可能性がある。というのは、コロナ対策で雇用の確保を最優先したため、雇用調整助成金を充実させたので本来の失業率はもっと高い可能性もある。となると、20円程度の引き上げなので、今回は上げすぎだ。

■雇用確保し、経済成長に比し相対的に人手不足になってから賃金上昇

まず最低賃金を政策的に引き上げて、全体の賃金引き上げに繋げるというのは、政策的に間違いだ。雇用の確保を行った後、経済成長に比し相対的に人手不足になってから、賃金は上昇していくものだ。

学者の中には、労働生産性を上げることが賃金上昇という人もいるが、それはミクロ的な見方だ。相対的に労働生産性の高い人ほど高い賃金が得られるが、マクロとして全体の底上げにならず、マクロ経済成長の下で人手不足が賃上げには必要だ。これは、いわゆる「合成の誤謬」と言われるもので、ミクロでは正しいが、マクロでは思わぬ逆効果をもたらすものだ。

いずれにしても、岸田政権はマクロ経済の意識が欠けていて、最低賃金を実力以上に引き上げた。適切な補正予算を打たずにGDPギャップを放置しているのは、ウクライナ情勢を受けてのエネルギー価格や原材料価格の転嫁もできず、賃上げに向けての大きな懸念だ。これでは、成長も不十分で雇用の確保もまともにできず、ひいては給与の引き上げは夢のまた夢の話だ。

冒頭に述べたが、三村会頭は、政府に環境整備を要請している。それは秋の大型補正だが、岸田政権でできるだろうか。それが出来れば、多くが好転する。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。


関連記事(外部サイト)