可能性に満ちた「VR」。でも… 日本のソフトウェア企業が弱いたった一つの理由

可能性に満ちた「VR」。でも… 日本のソフトウェア企業が弱いたった一つの理由

『VRインパクト――知らないではすまされないバーチャルリアリティの凄い世界』(ダイヤモンド社刊)

■ビジネスや生活に貢献するさまざまな「VR」

「VR(バーチャルリアリティ)」という言葉を聞くと、多くの人はゲームを連想するだろう。しかし、「VR」の技術にはもっと幅広い可能性がある。

すでに建築、自動車、環境問題などのビジネスや事業、地震や津波などの防災シミュレーションといった幅広い分野に導入されているのだ。

そんな「VR」の最先端と将来的な可能性を教えてくれるのが『VRインパクト――知らないではすまされないバーチャルリアリティの凄い世界』(伊藤裕二著、ダイヤモンド社刊)だ。

著者の伊藤氏が代表取締役を務める株式会社フォーラムエイトは、日本のみならず海外での事業にも数多く参画するソフトウェア会社だ。
同社では、構造物設計や土木・建築設計を支援するソフトウェア・技術サービスを提供しているが、近年では、特に「VR」の開発が進められている。

表立って「VR」がビジネスや社会に貢献しているところを見聞きする機会は少ないが、じつは、さまざまな事業や活動に用いられている。

「VR」の最大の利点は、物事を可視化できるところにある。

例えば、フォーラムエイトのVRは、高速道路建設にも応用されている。

東京都内の大橋ジャンクションの建設工事では、設計段階で完成後の高速道路やトンネル内の状態をVR映像で再現し、ドライビング・シミュレータを用いた詳細な検証が行なわれた。そのVR映像を製作したのが著者の会社だ。

平面の設計図だけでは気づけないことでも、「VR」によって完成された道路を見ることで、さまざまな改善点を事前に確認できる。

3DCGで映像化された仮想の高速道路を、VR走行することで、「どこに、どのような標識が必要か?」、「この部分の構造はこうしたほうが良い」といった検証を行なうことができる。そして、標識の設置箇所を含む設計デザインのデータを、元の設計図にフィードバックすることで、より完成度を高めることができたのだ。

また、VR映像によって、数千万円に及ぶ標識の設計費を削減できたことも大きなメリットと言えよう。

他にも、VRの技術が活用されている事例がある。
興味深いところでは「風」を可視化できる「VR風解析ソフト」。新しいビルを建設するとき、高さや大きさ、建物の材質や形状によって、強いビル風が吹いてしまうことがある。
しかし、この「VR風解析ソフト」を使えば、着工する前にビル風の影響を把握でき、環境に配慮した建設ができるようになるのだ。

さらに、防災シミュレーションでも「VR」は大いに役立っている。
津波や河川の増水の危険を示す防災マップを見たことがある人は多いだろう。ただ、地図だけでは、いざ地震や水害が起きたときのことを想定しにくい。
しかし、「VR」によってその状況が可視化されると、実際にどのくらいの高さまで水が来るのか、どの方向に逃げるのが良いかといったことが事前にわかるのだ。

■なぜ、日本のソフトウェア企業は弱いのか?

本書ではフォーラムエイトの歩みとともにVRやソフトウェアの世界の最先端を知ることができる。
しかし、本書最大のテーマは、最先端情報の発信ではなく、日本のソフトウェア企業の飛躍と地位向上を目指すことにある。

アップル、オラクル、グーグル、マイクロソフトなど、海外には錚々たるソフトウェア企業がある。しかし、日本にはそれら世界的企業と肩を並べるほどのソフトウェア企業がないのが実情だ。

その理由は日本に優秀な技術者がいないからでも、独創的な経営者がいないからでもない。日本におけるソフトウェアの地位が決定的に低いからだと著者は述べる。

バブル期、ソフトウェアエンジニアは「3K」(きつい、汚い、危険)を超える「5K」、「6K」とさえ言われるほど待遇が悪かった。さすがに近年は改善されているが、それを踏まえても、未だにソフトウェア業界の社会的地位は低いままだという。

「モノづくり大国ニッポン」と言われるだけあって、日本では形あるもの(モノ、機械などのハードウェア)には惜しみなくお金をかける一方、形のないもの(アイデアやソフトウェア)にはお金を惜しむ性質がある。
ソフトウェアやソリューションの開発は、日本人の気質として根底に「ラクな仕事をしている」というイメージがあるせいなのだろう。

また、日本の若者の多くがソフトウェアエンジニアの仕事に魅力を感じていないのではないかと著者は語る。

その証拠に、日本で学生向けのプログラミングコンペを開催しても、応募してくるのはアジア諸国の学生や留学生ばかりだという。自動運転、AI(人工知能)、ビッグデータなど、ソフトウェアを活用する機器は今後ますます増えていく。

ソフトウェアエンジニアが活躍しなければ、日本は世界に置いていかれることになる。今、日本は窮地に立たされているのだ。

■ソフトウェアが新たなテクノロジーを切り拓く

今、自動車業界では、ソフトウェアの側面から事故防止を促進する取り組みや自動運転システムの開発が進められていることも本書で語られている。

トヨタ自動車では「交通死傷者ゼロ」の実現を目指す取り組みが行なわれている。

見通しの悪い交差点で左右から車が接近している。そんなとき、自分と相手の車が通信によってお互いの位置情報をやり取りしていれば、出会い頭の事故は回避できるはず。また、交差点で、右折先の横断歩道を渡ろうとしている歩行者を、交差点に設置したセンサーが検知し、通信で車に知らせれば、歩行者との事故も回避しやすくなる。

このように、車と車、車とインフラの双方向通信で安全運転を支援する「協調型ITS」というシステムが構築されているが、これはエアバッグやブレーキ制御システムといったハードウェアだけでは実現できない取り組みだ。

2020年頃には高速道路や自動車専用道路で、さらに、2025年頃には一般道路も含め、「自動運転」の試用開始が見込まれている。

日本のソフトウェア産業は海外市場にほとんど輸出されていない。
海外で売れているのはゲームソフトくらいだが、それさえも近年ではジリ貧気味という話もある。

そうした中、世界で日本の技術の存在感を強めていくためには、より多く分野でソフトウェアの力を伸ばしていくことが必要なのかもしれない。

(新刊JP編集部)

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