夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 (9) なぜうちの会社にはよくわからない行事がいろいろあるの?

夏目幸明の"スッキリする"カイシャの話 (9) なぜうちの会社にはよくわからない行事がいろいろあるの?

画像提供:マイナビニュース

経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

○「席替え」で生まれた大ヒット商品があった!?

アサヒビールは悩んでいました。若い人に「スーパードライ」をもっと飲んでもらうにはどうしたらいいだろう――。歴史と伝統ある商品だけに、味を変えたら長年のファンを逃してしまいます。しかし目新しさもなければ新規ファンの獲得ができません。そんななか同社は「スーパードライのシマ」をつくりました。それまで「販促」「開発」など別々の部署の人たちがスーパードライを担当していたのですが、これを改め、スーパードライの担当者だけで席をかためたのです。

そんななかマーケティング担当者は、ビールサーバーの担当者の電話を耳にします。「安定してマイナス2度を保てるサーバーができそう」という内容でした。ビールを、凍る寸前まで冷やすと、飲む人は「苦み」を感じにくくなります。そして若者は生物学的に「苦み」が苦手な人が多いのです。マーケティング担当者は「これだ!」と直感し、マイナス2度のサーバーで注ぐ「エクストラコールド」を開発しました。同じスーパードライだから長年のファンにも喜ばれ、かつ、若いファンの獲得も可能になる、と読んだのです。

○「謎行事」から生まれる「謎人間関係」は意外といいもの!?

このように「席」は重要です。そこで、コクヨ、カルビー、コニカミノルタなど様々な企業が「フリーアドレス」(=自由な居場所)制度を導入しています。「デスクトップパソコンが必要」など、特定の部門以外の社員は、まるで図書館や学食のように、決まった席がない。すると隣同士で会話が生まれ、新しい発想が生まれる、というわけ。たしかに「〇〇部がこうしてくれたらいいのに」といった要望があっても、わざわざ言いに行くのはハードルが高いもの。また、他部署の同期から「最近こんなプロジェクトが……」と聞かされ「へえー!」となることも多いはず。他部署の人と話すことにより、いわゆる「社内の風通し」がよくなるのです。

でも「席」だけでいいんでしょうか? ――ここでやっと本題です。そう、会社に様々な行事があるのは、ほとんどが「社内の風通しをよくする」ためにあるんですね。

例えば月に1度「誕生日会」を行う企業があります。3月生まれ、4月生まれ、などで部署横断型の謎の結束が生まれます。部活を推奨する企業も多い。スキーが上手い人、野球が上手い人、といった謎の結束が生まれるでしょう。すると、こんなことが起きます。高級フルーツジャムを製造・販売するセゾンファクトリーの社長は、取材でこんな話をしていました。

「社員同士の関係がいいと“三遊間のヒットゾーンが狭くなる”のです。たとえば初めて直営店を出したとき、ショップマネジメントの部署とデザインの担当部署が『販促ツールやプライスカードはどっちがつくるの?』と譲り合った場面がありました。しかし、お互いが親しいと『じゃあ私が』と、みんなが進んで『抜けそうなゴロを捕りにいく』のです。

○スタバがカウンター前でお客様を待たせるわけ

そんなわけで「鬱陶しい飲み会」や「なぜか休日にある部活」などは、経営側からみると、大きな意味があるのです。そしてこれは、職場の人間関係改善にも役立ちます。じつは、会社を辞める理由の多くは「人間関係の悩み」。行事や飲み会で「親しみが湧かなかった上司と家族の話をしたら距離が縮まった」とか「別の部署に相談相手ができた」といったことも起き、社員の定着率向上に効果があるのです。

こういった施策は社員同士にとどまりません。たとえばスターバックスコーヒーをはじめとするシアトル系のカフェに行くと、ドリンクができるまで待たされます。これ、スタバ本部の中の人いわく「店員とお客様の間に会話が生まれる仕掛けでもあるんです。また黒いエプロンの店員は『バリスタ』というコーヒーに関する知識が豊富な人。淹れ方や味をきっかけにお客さまとの会話が弾めば、と考えてやっていることです」と言います。また吉野家に食券がないのも、店員が「ありがとうございました」と挨拶をするためだったりします。

たしかに、平日は会社でギューギュー言わされ休日も行事じゃ、ちょっと気分は下がります。でも会社によっては、慰安旅行のお金を出したり、飲み会に補助金を支給したり、身銭を切っている場合もあるはず。あなたもいつかは若者をマネジメントする立場になるのだから、たまになら乗ってあげてもよいのでは……?
(夏目幸明)

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