「IoTの雄」ソラコム、通信大手の中でKDDI傘下の道を選んだ理由

「IoTの雄」ソラコム、通信大手の中でKDDI傘下の道を選んだ理由

画像提供:マイナビニュース

●順風満帆に見えたソラコムがなぜ
設立3年目のベンチャーながら、独自の技術によりIoT向けネットワークの分野で大きな注目を集め、急成長を遂げてきたソラコム。そのソラコムが8月にKDDIの子会社となることが発表されたのだが、なぜソラコムは独自路線を貫くのではなく、たった3年で大手通信会社、しかもその中からKDDIを選んで子会社になったのだろうか。

○事業拡大だけでないソラコムの狙い

去る8月2日、国内通信大手のKDDIが、通信系ベンチャー企業のソラコムを子会社化すると発表し、大きな驚きをもたらした。しかも一部報道によれば、その買収額は200億円規模とも伝えられており、もしこの数字が本当だとするならば、国内ベンチャー企業のM&Aとしてはかなり大規模な買収劇となる。

2014年の設立と、まだ歴史が浅いソラコムに、KDDIが大規模な資金を費やして傘下に収めたのはなぜかというと、モバイル通信のコアネットワークをクラウド上に構築した「SORACOM vConnect Air」と、それを活用したIoT向け通信サービス「SORACOM Air」の存在にある。SORACOM Airはクラウドを活用したことで低価格かつ柔軟性のあるサービスを実現。それがまだIoTの実績に乏しく、小さい規模で事業をスタートさせたい企業のニーズにうまくマッチし、事業拡大を続けているのだ。

だがソラコムは、既に大企業の顧客を抱えるなど豊富な実績を持ち、単独で海外進出も果たすなど、順風満帆にビジネスを進めていた。それだけに、なぜこのタイミングでKDDIの傘下に入る道を選んだのか、疑問を抱く人も多いようだ。

8月8日に実施されたKDDIとソラコムの共同説明会において、ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏は「ソラコム単独ではチャレンジだと感じた」点として、いくつかの課題を挙げている。その中には資金調達やグローバルでの事業拡大なども含まれているが、これらは急成長する多くのベンチャー企業が抱える課題でもある。

確かにKDDIの子会社となることで、それらの課題を一気に解消し、事業拡大に弾みをつけたい狙いは大きい。だがこの点はKDDIからの小規模出資による提携でもある程度補えたはずだ。あえて子会社化の道を選ぶには、それだけにとどまらない理由があるものと考えられる。

●MVNOの限界
○将来を見越すとMVNOの立場では限界も

それは事業の将来を考えた場合、MVNOという立場には限界があるということだ。実際玉川氏は課題の1つとして、「NB-IoT」など携帯電話のネットワークを活用したLPWAや、次世代通信の「5G」を用いたサービスを、素早く展開できないことを挙げていた。

これらのサービスをMVNOが利用するには、まず大手通信会社が対応するネットワークを整備し、さらにMVNOに貸し出す許可を下すまで待たなければならず、時間がかかってしまう。NB-IoTや5GなどはIoTを支えるネットワークの“本命”とも言われるだけに、いち早くそれらを利用するには大手の傘下に入るのが近道と判断したようだ。

そしてもう1つ、MVNOの限界点として挙げられるのが、携帯電話のコアネットワークのうち自社で構築できるのはごく一部にとどまり、大部分は携帯電話会社のネットワークに依存せざるを得ないことだ。ソラコムのクラウド技術をネットワークのより広い範囲で生かすには、MVNOに回線を貸す携帯電話会社の側に入る必要があったわけだ。

実際KDDIは今後、同社の次世代コアネットワークの構築に、ソラコムの技術や知見を生かす考えを示している。ソラコムの技術は、ネットワークの仮想化など最近のネットワーク技術のトレンドに通じる部分があるだけに、KDDIとしてもクラウドの技術に強みを持つソラコムを存分に生かしたい狙いがあるようだ。

○KDDIとの接点にトヨタの存在あり

だがそうした狙いを実現するには、KDDIだけでなくNTTドコモやソフトバンクの傘下に入るという選択肢もあったはずだ。なぜソラコムは、数ある通信会社の中からKDDIを選ぶこととなったのだろうか。そこに大きく影響しているのは「未来創生ファンド」の存在であろう。

●なぜKDDIを選んだのか
これは投資会社のスパークス・グループと、三井住友銀行、そしてトヨタ自動車が設立したファンドであり、ソラコムは2016年7月に、このファンドから出資を受けている。そしてソラコムはこの出資を受けた際、トヨタ自動車とKDDIが進めているコネクテッドカー向けのグローバル通信プラットフォームに技術やサービスを提供するとしていた。この出資を起点として、ソラコムとKDDIとの関係が生まれたわけだ。

その後両社はKDDI IoTコネクト Airでの協業によって一層関係を深めることとなる。この協業で、KDDIの技術部門とソラコムがコミュニケーションを取り合う中、KDDI側がソラコムの実力を高く評価したことが買収へつながっていったと、KDDIは説明している。

KDDIは現在、IoTビジネス拡大のため、自社ネットワークを用いたIoTプラットフォームの拡大に力を入れており、ソラコムの買収によってそのプラットフォームが一層強化されることとなる。では他の2社は、そのKDDIとIoTの分野でどのように戦っていく考えなのだろうか。

自前主義で対抗する姿勢を見せるのがソフトバンクだ。同社は7月20日、独自の法人向けIoTプラットフォームを発表している。これはNB-IoTなどの携帯電話網を活用したLPWAだけでなく、LoRaWANなど幅広いネットワークに対応し、IoTデバイスや、そこから得られたデータを管理し、APIの開放によってほかのアプリケーションからも利用しやすい仕組みを作るとしている。

一方NTTドコモは、外部の企業と組むことでIoTプラットフォームの拡大を進めていく考えのようだ。その一例として、同社はコマツやSAPジャパン、オプティムと合弁会社を設立し、建設業界向けIoTプラットフォーム「LANDLOG」の提供を発表している。

ソラコムを買収したKDDIが、IoT向けネットワークの分野で優位性を獲得できたのは確かだ。だがその優位性を今後も継続していくためには、KDDIとソラコムの事業をうまくリンクさせ、いかに相乗効果を上げられるかが求められる。KDDIのIoTビジネスにソラコムがどの程度関与し、ビジネス拡大に貢献できるかは、今後の大きな注目ポイントになるといえそうだ。
(佐野正弘)

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