実用化は世界初、マツダ新エンジン「SKYACTIV-X」の革新性とは

実用化は世界初、マツダ新エンジン「SKYACTIV-X」の革新性とは

画像提供:マイナビニュース

●ディーゼルエンジンの利点をガソリン車に活用
マツダが8月8日に公表した技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」。その中で、技術の目玉として紹介されたのが新しいエンジン「SKYACTIV-X」だ。マツダが「世界初の実用化」に成功したという新エンジンだが、どこが画期的なのか。

○まずはエンジンの基本をおさらい

SKYACTIV-Xは、ガソリンを燃料としながら、従来からのスパークプラグによる火花点火と、軽油を燃料とするディーゼルエンジンで行われている圧縮着火を組み合わせることにより、排ガス浄化と燃費向上、そして動力性能の向上を同時に実現する新しいエンジンだ。

まず、技術の理解を深めるため、根本的な話からはじめる。

ガソリンエンジンでの火花点火は、ガソリンと空気の混合気をピストンが圧縮したところで、スパークプラグの電気的火花によって着火し、その火炎が燃焼室内を伝播していく(燃え広がる)ことでガソリンの燃焼が完了する。

ディーゼルエンジンの圧縮着火は、空気をシリンダー内に入れておき、ピストンが空気を圧縮したところで軽油を燃焼室内へ噴射して、圧縮された空気の温度上昇によって軽油に火が付くことを利用する。例えば、自転車のタイヤの空気入れを使うと、空気入れが熱くなってくるのは、空気が圧縮されることによって熱を帯びるからだ。その熱を使って軽油を燃やすのがディーゼルエンジンである。人工的に着火せず、燃焼室全体の圧縮と温度上昇でいっぺんに軽油に火が付くので、短時間に燃え尽きるという利点がある。

○エンジンによって異なる圧縮比に注目

圧縮着火を実現するため、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンの2倍ほど高い圧縮比を利用している。一般的に、ガソリンエンジンの圧縮比が10程度であるのに対し、ディーゼルエンジンは20とされている。

また、空気を採り入れる吸気管に、シリンダーへの流入を調節するスロットルバルブが無いので、ピストンが空気を吸い込むときの抵抗がなく、「ポンピングロス」と呼ばれる損失が無いことも、ディーゼルエンジンの燃費の良さに貢献している。ポンピングロスとは、たとえば注射器や水鉄砲の出口を指でふさぐと、ピストンを手前に引きにくくなるが、指を離せばスッと引けることから想像してほしい。

こうしたディーゼルエンジンの利点を、ガソリンエンジンでも実現できないかと考えたのが、予混合圧縮着火(HCCI)と呼ばれる技術だ。つまり、ガソリンでもスパークプラグ無しで、ピストンの圧縮だけで着火できないかという研究・開発である。

●ガソリン消費が半分に? 自動車業界が追求した新たな燃焼方式
○実用化を阻んでいた課題とは

今回、マツダのSKYACTIV-Xの技術説明を行った藤原清志専務執行役員によれば、ガソリンと空気の混合気を、理論空燃比(理想的な空気とガソリンの混合比率)より2倍の薄さにしても燃焼できる可能性を秘めているのがHCCIだという。つまり、ガソリン消費を半分にできるということだ。

そこで世界の主要な自動車メーカーは、ガソリンエンジンの効率を飛躍的に高めるため、すなわち燃費をいま以上に向上させるため、HCCIの研究を進めてきた。だが、実用化され、市販量産車に採用された例はない。

その理由は、HCCIではエンジンを稼働させられる領域が狭く、一般的なクルマの使用範囲の全てを補うことができないことだ。それを補うため、従来通りの火花点火を併用するとしても、圧縮着火と火花点火を、クルマの走行中に自然に切り替えるには技術的な難しさがあったと藤原専務は話す。

○発想の転換が新エンジン実用化の鍵に

マツダのSKYACTIV-Xは、完全なHCCIではないものの、従来からの火花点火と併用する形でHCCIの考えを採り入れ、ガソリンエンジンの効率向上を一歩前へ進めたことになる。では、マツダはどうやって課題を解決し、実用化への道筋をつけたのか。藤原専務は2つの策を紹介した。

現状、完全なHCCIの実現が不可能で、火花点火を併用する場合、そこにはスパークプラグが存在することになる。これを活用し、スパークプラグで始まる燃焼を、もう1つの圧縮行程に利用するというのが、1つ目の策だ。

火花点火は、ガソリンと空気の混合気をピストンが圧縮したところで、スパークプラグの電気的火花によって着火し、その火炎が燃焼室内を燃え広がっていくと、先に説明した。その火炎伝播は、燃え盛る熱の圧力波であるため、まだ燃えていない混合気を急速に圧迫し、圧力を高め、温度を上昇させる。それによって、ガソリンが自ら燃えだすのを促すというわけだ。

実は、この現象は一般にノッキングと呼ばれ、ガソリンエンジンにおいては異常な燃焼であるため、いかに起こさせないかが、これまでのガソリンエンジン開発の胆であった。スパークプラグで最適な時期に着火する以外のタイミングで、不測の燃え方をしてほしくないというのがこれまでの常識だったのだ。それを逆手にとり、圧縮着火にいかそうとしたところに、実用化へ向けた突破口があったのではないかと想像する。

また、ピストンによって圧縮され、高い圧力となったシリンダー内へ空気を送り込む、高応答エア供給機というものをSKYACTIV-Xは装備するとの説明もあった。これが策の2つ目だ。これによって、圧縮着火に必要な最適な圧力と温度が、クルマの走行状況に応じて随時調整されるのではないだろうかとも考えられる。

●原理原則のガソリンエンジン開発がマツダの強みに
より多くの空気をエンジン内へ送り込む装置としては、これまでもターボチャージャーやスーパーチャージャーといった過給装置が、いわゆるダウンサイジングのガソリンエンジンや、ディーゼルエンジンでも利用されている。マツダでは他に、「プレッシャーウェーブスーパーチャージャー」といって、排気を利用した過給装置を開発・量産化した経験を過去に持つ。マツダは現行のガソリンエンジン「SKYACTIV-G」で自然吸気にこだわったが、過去には過給の知見を多く持っているのである。

その上で、SKYACTIV-Xの完成には、最終的にそれらの技術要素をいかに制御でまとめ上げるかが重要になったはずだ。それは、世界の自動車メーカーが苦労した部分でもある。

○ダウンサイジングターボとは違うマツダの考え方

私が推測するに、マツダはSKYACTIV-Gで、ガソリンエンジンの圧縮比を高める苦労をし、そこで得た経験を、SKYACTIV-Xの制御を開発するうえで役立てたのではないだろうか。

そもそも、ガソリンエンジンの圧縮比を高め、ディーゼルエンジンの水準に近づけること自体、難問だったのだ。それをマツダは、SKYACTIV-Gで解決してみせた。マツダがSKYACTIV-Gで高圧縮比化に成功したあと、他の自動車メーカーもガソリンエンジンの高圧縮比化を始めたが、まだマツダほど圧縮比を高められていないのが実情だ。

その差が、今回の世界初となる火花着火と圧縮着火の両立、つまりSKYACTIV-Xに結びついたのだと思う。まさにそれは、究極のガソリンエンジンとは何かという原理原則に立ち、根本を追求するマツダの開発姿勢に負うところが大きい。

燃費を上げるため排気量を小さくし、それで不足する出力は過給で補うという、組み合わせ技術でしのいだダウンサイジングターボとは、そもそも技術開発の志が違うのである。

さて、近々そのSKYACTIV-Xに試乗する機会が設けられるという。その実力はいかに。また、開発の鍵はどこにあったのか。技術者に直接話を聞く機会もあるだろう。世界初のガソリンエンジンとの対面が待ち遠しい。
(御堀直嗣)

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