飲食店のドタキャン問題、ダイナースの新サービスが救うか

飲食店のドタキャン問題、ダイナースの新サービスが救うか

画像提供:マイナビニュース

●社会問題化する飲食店のドタキャン
ダイナースクラブカードを発行する三井住友トラストクラブとLINE、ポケットメニューは共同で、昨今飲食業界で大きな問題となっている直前キャンセルやNo Show(無断キャンセル)を解消する新サービス「ごひいき予約」を開始した。問題解決の一助となることが期待されるが、市場全体への普及にはまだ課題もありそうだ。

○キャンセルによる被害額はもはや社会問題

インターネットやスマートフォンの普及により、飲食店の予約が容易に行えるようになった反面、直前キャンセルや、予約しておきながら無断で来店しない「No Show」といった事態も増えている。予約が簡単なだけに、キャンセルもボタン一つで気軽に、という感覚なのかもしれないが、食材を用意したり、ほかの客を受け入れる機会や収入を失う飲食店側としてはたまったものではない。

一部の店舗ではキャンセル料を取る、悪質なキャンセル客のブラックリストを複数店舗で共有する、といった対策も取られているが、三井住友トラストクラブでは、キャンセル席を買い取ってダイナースクラブの会員に転売するサービス「ごひいき予約」を展開する。

システムとしては、「ごひいき予約」の協力店舗で直前キャンセルが出た場合、ダイナースクラブがその席を買い取り、ダイナースクラブのLINE公式アカウントを通じてダイナースクラブカード会員に告知。購入したい会員はポケットメニューが運営する「ポケットコンシェルジュ」を通じて予約と決済(決済はダイナースクラブカードのみ)をする、という流れになる。

もし複数の会員が予約を希望し、希望通りに席を購入できなかった場合でも、ポケットコンシェルジュを通じて同等の候補をリコメンドすることも行われるという。直前/無断キャンセルは「起きてしまうこと」と割り切って、次善策としての買い取りなわけだ。

席の買い取りをするだけに、当然転売が失敗すればダイナース側の損失となってしまう。サービスの成否は利用率がいかに高くなるかにかかっているが、ダイナースクラブカードは著名なクオリティカードの一つであり、「ダイナー」(diner:食事をする人)という名前のとおり、食関連に関心の深い会員を多く抱えたクレジットカードだ。有名レストランに会員向けの予約席をキープしていたり、食に関するイベントやサービスも多い。

さらに、今回「ごひいき予約」の対象となった18店舗は、いずれも予約が困難といわれる超のつく一流店・人気店ばかり。こうした組み合わせから、会員のサービスに対する興味も、需要も十分に高いと予測される。

もっとも、ダイナースクラブとしてはこのサービスを利益目的に行うのではなく、あくまで会員に対するサービスと、社会問題となっている直前/無断キャンセルに対する社会貢献として挑戦したいとのこと。店舗からの席の買い取りは本来の提供価格に近い形であり、「ポケットコンシェルジュ」の利用料など、運営にかかるコストを店にも負担させるという仕組みになっている。対象となる店舗は、スタート時は都内の16店舗のみだが、1年後を目標に100店舗程度、東京以外に大阪・京都、また他の地方都市にも広げたいとしているが、いずれも人気店が中心となるのは間違いない。

●「ごひいき予約」の勝算
○メッセージングサービスが可能にした新サービス

今回のサービスを支えるインフラは、メールではなくLINEが担当する。「ごひいき予約」は直前キャンセルが対象となるため、数時間後には店に入らねばならない、そんな即時性が必要とされるサービスだ。数年前であればメールで通知しているところだろうが、メールは約半数が読むまでに6時間以上かかるとも言われており、また個別のユーザーに向けたカスタマイズも難しい。

その点、LINE公式アカウントとLINEビジネスコネクトを使った仕組みであれば、ユーザー個別にリアルタイムにメッセージを送信できる。サービス側がデータを持っていれば、居住地や料理の好みでフィルタリングすることもできそうだ。また、LINEの場合はメッセージを送ってから10〜15分程度で90%近いユーザーがチェックするという傾向があり、即時性という意味でも電子メールより有利だ。逆に言えば、メッセージングサービスがここまで普及しており、企業の公式アカウントという仕組みがなければ、「ごひいき予約」のようなサービスは成立し得なかったとも言える。

筆者はダイナースクラブの会員プロファイル的に、LINEのユーザーはさほど多くないのではないかと思っていたのだが、さすがに7000万会員を抱えるだけあって、実際の年齢分布も日本人の年齢分布に近いのだという。高齢者はさすがに少ないが、50代、60代のLINEユーザーは他の年齢層と変わらないという。

また、ダイナースクラブ会員でも、特に富裕層向けのダイナースプレミアムカード会員では、30代、40代の会員比率が比較的高いという。こうした層はそのままスマートフォンの利用層、LINEの利用層と直接重なるため、全体としては30代〜60代までの幅広い層をターゲットにできていることになる。きちんと勝算があると計算の上でのサービスインなわけだ。

○より広い市場への適用は可能か

庶民にはなかなか縁のないような高級店にターゲットを絞り込んでいる「ごひいき予約」だが、ニッチではあるが顧客のニーズと供給されるサービスのバランスはいいため、筆者としてはサービスは成功するだろうと見ている。

ただし、直前/無断キャンセルは飲食業界全体に関わる問題なため、もっと庶民的な居酒屋などもこうしたサービスを求めているはずだ。特にSNS上では、小さな飲食店が貸切をドタキャンされて経営に大きな影響が出た例なども多く報告されているだけに、死活問題となるキャンセル枠の転売には大きな期待をしているだろう。

●飲食店のドタキャン問題はなくせるか
それでは同様のサービスが、もっと庶民的な店にも適用できるかというと、これは単純な問題ではない。サービスの規模が大きくなれば、バックボーンとなるシステムも大規模なものが必要になり、開発・維持のコストも大きくなる。ダイナースクラブの場合、会員向けサービスということで採算性をある程度度外視している面も大きいし、バックボーンである「ポケットコンシェルジュ」は全部で500店前後、高級店中心というニッチ市場に絞り込むことで採算性を出している面があるが、これが仮に5万店になれば、店側に求める負担も大きくなる。また決済手段としてクレジットカードを選ぶと、中小の飲食店ではカードの手数料も負担になってしまう。するとキャンセル枠を売っても採算に見合わなくなる、という負のスパイラルも考えうるわけだ。

また、配信システムであるLINEについても、個人向けにカスタマイズしたメッセージを送るにはLINEビジネスコネクトの利用が必要であり、これはLINE公式アカウントでなければ利用できない。LINEビジネスコネクトの利用料は月額250万円〜と、大企業向けの設定で、個人経営の飲食店などが気軽に利用できるものではない。

こうして考えると、キャンセル問題を広く一般の飲食店向けにも解決する手段というのはなかなか難しいように思えてくる。既存のグルメサイトなどがそのネットワークを活用して参入してくるというのが一番あり得るシナリオのように思えるが、四方うまく納めてくれるサービスは登場するのだろうか。筆者の予想を覆すような画期的サービスが現れてくれることを期待したい。
(海老原昭)

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