東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門 (8) 融資を受ける資金の使途

東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門 (8) 融資を受ける資金の使途

画像提供:マイナビニュース

前回は、融資を申し込む金融機関とコンタクトを取る方法について解説しました。今回は、融資を申し込む際に金融機関側へ伝える資金の使途(融資の目的)について、説明の難易度を含めて整理をします。

企業が返済できる範囲内で、使途が明確に決まっている資金をムダなく貸すのが金融機関です。「念のために」「保険として」使途が決まっていない資金を上積みすることはありません。余計な金利負担は企業の収支に影響して返済可能性を低くしてしまうことを、金融機関はよく理解しています。ただ現金を手元に置いておきたい、という気持ちだけで借りられる世界ではないのです。例を挙げながら話を進めます。

○借りやすい使途

プロジェクトの着手から完了までの期間が長いケースでは、月々の人件費・外注費・原材料費等の支払いが先に発生し、入金が納品後となります。手元に資金がなければ、活動を継続することができなくなります。もちろん、発注元と交渉して着手金(前金)をお支払いいただく努力は必要ですが、要望が通らなかった場合の対抗手段も講じなければなりません。

「紐付き」融資と呼ばれる借り方があります。運転資金の借入方法の一種です。信用力の高い企業と交わした受託契約書や発注書を提示して、将来の入金で返済することを条件に融資を受ける方法です。融資期間が数か月のケースでも対応していただけるので、返済実績を積むという意味合いでも、使い勝手の良い手法といえます。

注意点として、返済原資となる将来の入金が貸し手の口座に届く必要があります。A銀行から紐付きで借りて売掛金がB銀行へ着金するのは、望ましくありません。融資を受ける銀行が決済銀行と異なる際は、振込口座の変更を発注元へ依頼できる関係にあるか否かが重要なポイントとなります。融資申込前の発注元への事前確認と、事務の段取りに留意しましょう。

申込時の説明資料は、受託したプロジェクトの概要・スケジュール・収支計画・人員計画等を準備して、仕事を完遂できることと赤字とならないことを示します。入金遅れが発生しないこと、返済に支障がないことを、金融機関へ伝えます。

商品の生産やサービスの提供に不可欠な設備を購入する資金も、借りやすい部類に入ります。将来の利益を生み出す源泉となり、設備が稼働することで返済原資が蓄積していくというストーリーが描きやすいためです。融資の申込時に購入したい設備の見積書を提示するとともに、購入の前後で収支構造がどのように改善するのか金融機関へ説明します。

一風変わった借り方としては、オフィスを増床移転する際の保証金(敷金)を融資で賄う手法があります。オフィス移転の見積もりを提示して融資を申し込み、移転後に分割返済していくイメージです。事業が拡大していくことを示す必要はありますが、財務的な負担を平準化することができます。

また、先述の紐付き融資と似た形態になりますが、運転資金を融資で調達することも一般的です。紐付き融資は単独のプロジェクトに対して資金を手当てしますが、運転資金は受注した業務を積み上げた上で借ります。

例えば毎月月末締め翌月末日払いの業務があった場合、仕事を終えてから1ヵ月間入金を待つ必要があります。着金するまで事業を継続するために、1ヵ月分の資金が必要となります。事業継続のための資金がいくらになるのかを見積もり、融資の申し込みをします。

上記の使途に共通する点は、貸借対照表に載る項目であることです。紐付き融資は例えば仕掛品・売掛金として、設備資金は固定資産として、保証金は敷金として、運転資金は売掛金と未払費用・買掛金等の差額として認識されます。いずれ現預金へ還流して、返済原資になりやすいと言えます。

○借りにくい使途

人件費・広告宣伝費・研究開発費といった目的で資金を使うことは、経営上将来に向けての投資と解されますが、回収可能性が読みにくいため、融資で資金を賄うことは非常に難しいです。上記の投資は、損益計算書上損失が出ない範囲内で取り組むことが基本です。実績値を積み上げて、将来の業績の予測精度を向上させてから、ようやく融資にチャレンジできるレベルの資金使途だと考えます。

融資を受ける資金の使途に関する説明は以上です。次回は、融資を受ける資金の使途について解説します。

※写真と本文は関係ありません

○執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)
株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)
ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。
(千保理)

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