アップルやソフトバンク参戦も? 混迷極める「東芝メモリ争奪戦」の背景

アップルやソフトバンク参戦も? 混迷極める「東芝メモリ争奪戦」の背景

画像提供:マイナビニュース

●買収目指すグループは大きく3、4つ
東芝のフラッシュメモリ事業である「東芝メモリ」の売却交渉が大詰めを迎えている。その背景を整理しつつ、いま東芝とフラッシュメモリ業界で何が起きているのか、今後の状況を占っていこう。

○買収交渉に望む企業連合

現在、東芝を巡って繰り広げられている一連の騒動は、「東芝メモリ」の売却先について、後に日米間連合と呼ばれる米BainCapitalを中心としたコンソーシアム、iPhone製造などで知られる台湾Hon Hai Precision Industry (鴻海精密工業)、東芝とパートナーを組んでフラッシュメモリ開発や製造を続けてきた米SanDiskを買収した米Western Digital (WD)の3つの交渉先との間での決着を巡って繰り広げられているものだ。

もともと東芝メモリ売却の発端となったのは、同社が米Westinghouse買収に絡む原発事業における巨額損失に起因する。2017年3月期の連結決算で5400億円超の債務超過が確定し、倒産回避のために2018年3月のリミットまでに資金を確保する必要があった。

売却資金を基に債務超過を解消するというシナリオが順当とも考えられるが、実際にはいくつかのオプションがあり、完全売却以外に東芝メモリへの外部資本参画なども手段となる。最終的には東芝本体の事業継続に必要なつなぎ融資枠を銀行団に承諾してもらえれば倒産は回避できるため、東芝メモリの売却というのはその手段の1つというわけだ。

売却交渉の成立から資金を確保するというタイミングを最終リミットから逆算し、東芝が内部的に設定していた交渉期限が8月31日だった。しかし、交渉が難航していることを受けて結論は9月に持ち越されることになった。本稿を執筆している9月8日時点で、この最終決定は9月13日が見込まれている。

東芝メモリ売却の話が具体化した4月以降、さまざまな企業が交渉に手を挙げている。代表的なものでいえば、日本からは産業革新機構や日本政策投資銀行といった政府系機関、投資ファンドの米BainCapital、米KKR、同業者の韓国SK Hynix、台湾Hon Hai、米Broadcomと米Silver Lake Partners連合といった具合だ。

このほか、Hon Haiのグループにはシャープやソフトバンク、Appleといった企業の名前も見られ、BainCapitalと組んだSK Hynixと合わせて、おおよそ3-4グループによる争奪戦の様相を見せるようになった。

●WDが本命の理由
だが、こうした状況に異を唱えたのは交渉に名乗りを上げた1社である米WDだ。

同社は5月に東芝によるメモリ事業売却阻止のため国際仲裁裁判所に訴えを起こしたが、これは交渉の過程で他社がメモリ事業売却先に選ばれることを嫌ったためだ。同社が買収したSanDiskは、もともと2000年から東芝と共同でNANDフラッシュの共同開発を続けている。多くの知的財産を所有する一方で、製造関連設備などのアセットを東芝の工場に置いている。

人的交流も密に行われており、東芝の事業所にはいまだ多くのWD(元SanDisk)社員が常駐している。そのため東芝が事業を売却する相手によっては、これら資産の多くが意味のないものとなってしまう可能性がある。

このほか、Samsung対抗という意味合いも強い。NANDフラッシュメモリの世界では業界2位の東芝だが、大きな利益の源泉となるデータセンター向け製品などのコア市場をSamsung側では確保しており、今後WDが既存のHDD会社の殻を破って成長を続けるには、どうしてもこの領域に食い込む必要がある。

そのため、東芝との共有資産であるNANDフラッシュメモリ事業を手元に置いておくことはWDにとって必須事項だ。そもそもSanDisk買収の理由がここにあるわけで、東芝メモリをそのまま他社に取られてしまうとSanDisk買収が失敗ということで株主らの反発は避けられず、是が非でも自ら交渉を進めたいと考えるわけだ。

さまざまな意見や報道があるが、この買収交渉に最も社運をかけており、かつ本命なのがWDなのだと筆者は考えている。

○最後は買収後の経営関与の割合で決定

売却交渉が本格化した当初、その最有力とされて優先交渉が行われていたのが日米韓連合といわれるグループだ。BainCapitalとSK Hynixのグループに産業革新機構と日本政策投資銀行が加わり、日米韓の資本が組み合わさった形となる。この日米韓連合の交渉は6月中を目処に行われるという話だったが、最終的にまとまることはなかった。

もともと買収によってBainCapital、産業革新機構、日本政策投資銀行の3社が議決権を握る形態を模索していたが、本来は融資のみということで参加していたSK Hynixが議決権要求へと傾いたため交渉が難航しているという話が、7月に入ってから聞こえてきた。

SK HynixはNANDフラッシュ業界で東芝のライバルにあたるものの、目下の最大の共通のライバルはSamsungであり、これを機会に何らかの影響力を行使できるかと考えたのかもしれない。

後に交渉が停滞したのを受けてSK Hynixが軟化姿勢を見せたようだが、8月後半に入って東芝が交渉先をWDに切り替えたという話が入ってきた。おそらく、当初決着予定から2ヶ月が過ぎて交渉が長引く気配が強まったため、係争中のWDを巻き込んでリミットまでの交渉を一気に進めようと考えたのだと思われる。

WDは当初からKKRと組んで交渉に望んでおり、最終的に産業革新機構と日本政策投資銀行がこのグループへと鞍替えして新しい日米連合を組織して東芝との交渉に臨むことになった。

執筆時点でこの"日米新連合"を軸に話が進んでいるようだが、最終的にWDがどのような形で関与するのかが鍵になっているようだ。

●WDで決定的……のはずも、逆転あるか
一部報道では、KKRと産業革新機構、日本政策投資銀行の3組織が総額約2兆円を拠出して東芝メモリを買収し、WDはこの時点で資金拠出を含む買収行為には直接関与しない。一方で、将来に東芝メモリが上場した際には新規発行分の16%程度の株式を取得して議決権を得るという手法だ。

これは、東芝メモリ買収に際して世界の関連機関の承認を得やすくするためのもので、早期決着を必要とする東芝に一定の配慮を行った結果だ。なお、買収における資金拠出の代替案として四日市工場の(かつて東芝がSanDiskから買い取った)製造設備の買い戻しの提案もあるといい、いずれにせよ、最終的にWDの提案がどう判断されるかがポイントのようだ。

Wall Street Journalの報道によれば、こうした状況でも東芝経営陣の一部が、WD以外の交渉相手を望んでいるという声もあるようだ。実際、Bloombergなどは「(WDが組んでいる)銀行団やファンドは買収後のキャッシュアウトが狙い」というHon Hai側の声を紹介しており、Samsung対抗となるNANDフラッシュメモリ供給元の東芝を救済してサプライを安定させたいAppleなどの企業との連合で、いまもなお交渉の余地があることをアピールしている。

いずれにせよ、時間がない東芝にとっては現在最も有力な交渉をまとめることが最善であり、ほとんど選択肢がない状態だ。この行方は、9月13日の同社の正式発表に注目していてほしい。
(Junya Suzuki)

関連記事(外部サイト)