楽天のプラスワン事業買収はMVNO整理と淘汰への序章だ

楽天のプラスワン事業買収はMVNO整理と淘汰への序章だ

画像提供:マイナビニュース

●発表前には不穏な動きも
9月26日、MVNOとしてモバイル通信サービスを提供する楽天が、「FREETEL」ブランドでスマートフォンや通信サービスを提供するプラスワン・マーケティングの、通信事業を買収すると発表した。楽天がFREETELの通信事業を買収する狙いと、今後のMVNOの動向について探ってみよう。

○経営危機にあったプラスワン・マーケティング

参入障壁が低いことから既に700近い企業が参入し、レッドオーシャン化していると言われて久しい、MVNOによる“格安”のスマートフォン向け通信サービス。そのMVNOの動向を見る上で、非常に大きな出来事といえるのが、9月26日に「楽天モバイル」を展開する楽天が、「FREETEL」ブランドで知られるプラスワン・マーケティングの通信事業を買収すると発表したことだ。

プラスワン・マーケティング、ひいてはFREETELといえば、スマートフォン端末の開発から、MVNOによる通信事業までを自社で一貫して提供するユニークな業態をとる企業で、有名芸能人を起用した大規模なイベントや、テレビCMなどを展開するなど、非常に勢いのある企業として注目を集めていた。

だが4月に消費者庁から、Webサイトでの表記に関して景品表示法の違反があったとして措置命令を受けた。そしてこの辺りから、同社の雲行きが怪しいと感じさせる出来事が相次いで起きていたのだ。

実際、プラスワン・マーケティングは今年に入ってからは一度も新製品や新サービスの発表会を実施していないし、設備投資による高速化施策「増速マラソン」が7月以降不定期となった。さらに独自の実店舗「フリーテルショップ」も、開店して早々に閉店するケースが出てくるなど不穏な動きが相次いでおり、経営を不安視する声も耳にしていた。

今回の買収に合わせて楽天が公開した資料によると、プラスワン・マーケティングの売上高は100億円5900万円だが、営業利益はマイナス53億8800万円と、相当厳しい状況にあったことが分かる。それゆえ同社は資金繰りに相当窮していたと見られ、楽天の買収がなければ経営破たんも十分あり得たと見られる。

ちなみに買収によって、楽天がプラスワン・マーケティングに支払う額は5億2000万円。通信事業の負債が30億9000万円分あり、これも楽天側が引き継ぐことから、実際の買収額は約36億円程度といえるのだが、FCバルセロナとのスポンサー契約のために257億円を支払えるだけの体力がある楽天にとっては“安い買い物”であろう。

●楽天にとってのメリットは?
○楽天のメリットは顧客基盤拡大による収益向上

では、楽天がプラスワン・マーケティングの通信事業を買収することで得られるメリットは何なのだろうか。楽天もプラスワン・マーケティングも共に自社で通信設備を持ち、キャリアから直接ネットワークを借りてサービスを提供している「一次MVNO」であることから、通信設備やサービス拡充を目的とした買収でないことは確かだ。

となると、やはり楽天が得られる最大のメリットは、プラスワン・マーケティングが持つ顧客基盤ということになる。先にも触れた通り、プラスワン・マーケティングは積極的なテレビCMや、量販店やフリーテルショップを活用した販売拡大施策によって、MVNOとしては多くの顧客を獲得している。実際、MM総研が6月15日に発表した、今年3月末時点での国内MVNO市場規模の推移を見ると、プラスワン・マーケティングは昨年9月末時点では7位以下であったのが、3月末時点では5位のシェアを獲得しているとされており、昨年の中ごろから今年の頭にかけて、急速に契約数を伸ばしていたことが分かる。

ちなみにこの調査によると、楽天のシェアはNTTコミュニケーションズ、インターネットイニシアティブ(IIJ)に次ぐ3位にランクしている。あくまでMM総研のデータを基にした評価となるが、それゆえプラスワン・マーケティングのユーザーがそのまま楽天に移るとなると、IIJを追い抜くだけのシェアを獲得する可能性がある訳だ。

そしてMVNOのビジネスの今後を考える上では、この規模こそが重要な意味を持ってくる。サービスやサポートの充実では大手キャリアに敵わないMVNOにとって、最大の武器は通信料金の圧倒的な安さである。だがそれゆえ、MVNOは大手キャリアと比べれば得られる売上も小さく、多くの契約を獲得しなければ利益が出ない“薄利多売”のビジネスだともいえる。

そしてこの薄利多売のビジネスを軌道に乗せるには、いかに多くの契約数を確保するかが重要になってくる。そのための近道として、楽天は経営危機にあったプラスワン・マーケティングの通信事業を買収し、顧客基盤を拡大するに至ったといえそうだ。

○撤退するMVNOを狙うのは楽天だけではない

もっとも、楽天モバイルとFREETEL、それぞれの通信サービスには多くの違いがある。買収が完了する11月1日後もFREETELの通信サービスは変わらず提供されるとのことだが、2つのブランドが並立し、2社の設備が混在してサービスを提供している状況は、プロモーションや設備投資などの面でも効率が悪い。いずれ何らかの形でブランドやサービスの統合がなされると考えるのが自然だろう。

だがその時、既存のFREETELユーザーが統合したサービスに移行してくれるかどうかは、統合されるサービスの内容や、移行時のキャンペーン施策などにもよってくるだろう。もしこの移行策で失敗すれば、FREETELの顧客が流出し、買収が無駄になってしまうだけに、楽天には慎重な対応が求められる。

●整理・淘汰が進む段階へ
しかし一方で、もし楽天モバイルとFREETELのサービス統合が成功し、大規模な会員流出が起きなかった場合、楽天は今後、買収によってMVNOとしての規模拡大に力を入れるようになるかもしれない。

多くのMVNOは契約数を増やすため、赤字覚悟の先行投資でユーザー獲得を進めているが、現在は楽天のような大手MVNOや、大手キャリアのサブブランドが大規模な資金を投下して積極的にプロモーションを仕掛けるパワーゲームとなっており、競争環境は非常に厳しい。それゆえ今後、体力的に敵わず撤退するMVNOは増えていくと見られ、MVNOの中では企業体力があり、なおかつ通信事業の拡大に積極的な楽天が、今回の買収で実績を作り上げることができれば、そうしたMVNOの受け皿となると考えられそうだ。

だが撤退するMVNOに目を付けているのは、楽天だけではない可能性もある。例えば大手キャリアの一角を占めるKDDIは、“格安”市場への取り組みの出遅れから苦戦を強いられており、今年にはMVNO大手の一角を占めるビッグローブを買収している。それだけに、比較的規模の大きなMVNOを買収によって“仲間”とすることで巻き返しを図ろうとする可能性も、ないとは言い切れないだろう。

今回の楽天によるプラスワン・マーケティングの通信事業買収劇は、MVNOが参入企業を増やし育てる段階から、整理・淘汰が進む段階へと入りつつあることを、まさに表しているといえよう。MVNOへの流出に危機感を強めたキャリアとの争いも激しくなるだけに、今後はキャリアと大手MVNOを交えた再編劇が、注目されることになるかもしれない。
(佐野正弘)