ケイ・オプティコム 事業開発推進室 山下慶太氏
アナログレコード復活の狼煙 仕掛け人は電気通信事業者の異端児
2019/03/15
BRAND PRESS編集部

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリーの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回話を伺ったのは、アナログレコード売買アプリ「REVINYL(リバイナル)」を生み出した山下慶太氏。関西を拠点とする電気通信事業者ケイ・オプティコムの事業開発推進室に所属する同氏が、異色とも言える新規事業を立ち上げた理由に迫ります。

 

学生時代に“商い”の楽しさを知る

中学時代は、当時全盛だったBRAHMANやHi-STANDARDのコピーバンドを結成して、音楽に夢中になっていました。バンドを始めた理由は単にモテたかったから。思春期真っただ中の中学生男子としては当たり前の動機ですね(笑)。大学に入ってからは「ミュージシャンを目指したい」と親に宣言したほど、本気で音楽に打ち込むようになりました。

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バンド活動と同じくらい夢中になっていたのが、アナログレコードの収集です。高校生のとき、有名なレコードショップのロゴ入り袋が欲しくてレコードを買ったのがきっかけでした。大学生になるとなじみのレコードショップに通って、ブラックミュージックを買い揃えるようになりました。レコードを集めるうちに、日本ではプレミアがついているレコードが海外では安く売られていることを知り、個人輸入もしていました。

やがてバンド活動の熱は冷めたのですが、アナログレコードへの興味はその後もさらに強くなり、ついに小規模ながら輸入レコードを販売する事業を立ち上げました。当然、学業よりも“商い”に夢中になってしまいました。しだいに大学に通う回数が減り、ついに留年。最終的には卒業できましたが、しばらく親には頭が上がりませんでしたね(笑)。

 

活躍の場を移しながらビジネススキルを習得

ケイ・オプティコムを志望した理由は、光ファイバー網を持つ通信事業者の将来性に魅力を感じたことと、もともと同社が提供する個人向けの光ファイバー回線「eo光」のユーザーだったことが影響しています。また、大きな会社に入ることで親を安心させたいという気持ちもありました。

最初に配属されたのは、提案営業の部署でした。マンションなどの集合住宅の設計セクションに回線の導入を提案する、いわゆるBtoBの営業です。自由気ままな学生時代を過ごしてきたこともあり、営業活動の中で社会の厳しさを痛感する日々が続きましたが、嫌なことがあっても引きずらない自分の性格に助けられたように思います。

入社して3年後には、人事部への異動が決まりました。自分のような人間がお堅いイメージの人事部に異動するとは予想していなかったので、とても驚きました。

わたしに割り当てられた役割は、採用業務でした。担当するようになって、すぐに疑問に感じたことがありました。就活イベントの開催、応募用Webサイトの開設、面接といったように、新卒採用業務はルーチンワークが多いのですが、これでは多様化する学生に対して自社の魅力を十分に伝えることができず、学生一人ひとりの個性も把握できません。そこで、採用のスキームを大きく変更しました。面接の回数や質問の内容を学生ごとに変えるとともに、アフターフォローも学生ごとに企画してみたんです。その結果はすぐに現れ、内定辞退率を大幅に減少させることに成功しました。

 

既存事業とは異なる新事業の立ち上げに挑戦

人事部で3年間働いたあと、コンシューマー向けサービスの企画部門に異動しました。その部門のミッションは、主軸事業である光ファイバー網の顧客獲得につながる新サービスの企画開発でしたが、わたしはその当時から既存事業とは異なる新機軸を作ることを目的に活動していました。新しい企画を考えては地方自治体やパートナー各社に提案し、事業化を模索する日々が続きました。

2014年には、メガネ型ウェアラブル端末と連動したアプリ「グラッソン」の開発に携わりました。グラッソンは、マラソンランナー向けに開発したもので、メガネ型ウェアラブル端末を装着したランナーのレンズに5kmごとに通過時刻や平均タイムなどの走行関連情報を表示するほか、ファンからの応援メッセージやコース沿道周辺の観光情報を自動的に配信することができます。

2014年10月に開催された「大阪マラソン」では、透過式メガネ型端末を提供するソニーをはじめとするパートナーといっしょに実証実験を行いました。紆余曲折もあり商品化には至りませんでしたが、こうした新しい取り組みにはやりがいを感じていました。「試してみよう、やってみよう」という社風が自分に合っていたのだと思います。

 

「趣味を仕事に持ち込むな」という批判

2016年に新規事業を専任で検討する部門に異動し、2017年10月にはアナログレコードの取引を活性化させるためのプラットフォーム「REVINYL(リバイナル)」を新規事業として立ち上げました。きっかけは、米国でレコードショップ巡りをしていたときに、若い女性が大量のレコードを購入する姿を何軒ものショップで見かけたことでした。米国では、若年層を中心にレコードブームが再燃していたのです。「この潮流は、まちがいなく日本にもやって来る。一過性のブームで終わらせないために、市場を活性化させる事業を立ち上げたい」。レコード愛好家としての血が騒ぎ始めました。

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すぐに企画書を作成しましたが、社内では「個人の趣味を仕事に持ち込むな」という手厳しい意見もありました。確かにアナログレコードの収集が趣味ではありますが、新規事業としてふさわしいかどうかは冷静に検討しました。財産として価値があり、価格が変動しやすいこと。コレクターやマニアが多いニッチな商材であること。音楽配信アプリで簡単に音楽が聞ける現代において、特別な体験を提供できる商材であること。そして、自分自身が折れない心を持ち続け、事業の成功に邁進できること。これらの条件が揃った結果としてたどり着いたのが、アナログレコードを取り扱うビジネス領域でマーケットプレイスやメディアを展開するREVINYLだったのです。

このアプリは、単にアナログレコードを売買したり、ユーザーどうしが情報交換したりできるだけでなく、アナログレコードを収集するマニア向けの機能を搭載しています。例えば、レコードのジャケットをスマートフォンで撮影するだけで市場価格などの情報を確認でき、また他人のコレクションを閲覧して直接連絡を取ることもできます。アナログレコードの取引や情報交換が活発になることで、さらに多くの人にアナログレコードの魅力を感じてもらえると考えたからです。

ダウンロード件数はすでに1万件を突破し、ユーザーどうしの情報交換も活発になってきました。中には数千枚単位のアナログレコードを所有しているコレクターもおり、コアなレコードファンを中心にユーザーが増え続けています。目下の悩みは、コレクターが多いため、買い手に比べて売り手が少ないことです。今後は、アナログレコードを扱う事業者との連携を強めて取り扱い枚数を増やし、“買える”プラットフォームにしていきたいですね。

現時点ではREVINYLは認知度が低く、改善しなければならない点もたくさんあります。アナログレコード市場の再興とREVINYLの収益化の2つを実現するために、挑戦はまだ始まったばかりです。

 

■会社概要:株式会社ケイ・オプティコム
(2019年4月1日より、株式会社オプテージに社名変更します)
本社所在地:大阪府大阪市
設立:1988(昭和63)年4月
代表者:代表取締役社長 荒木誠
資本金:330億円(関西電力100%出資)
売上高:2,111億円(2018年3月期)
従業員:1,463名(2018年4月1日現在)
事業概要:電気通信事業、有線一般放送事業、小売電気事業、電気通信および有線一般放送に関する機械器具および設備の設計、設置、販売、割賦販売、賃貸および保守、運用

■プロフィール:山下慶太(ヤマシタ・ケイタ)
株式会社ケイ・オプティコム 事業開発室 REINYLディレクター。2007年に入社後、営業、人事業務に従事。その後、コンシューマー向けサービスの企画部門でさまざまな商品開発に携わるとともに、新規事業の検討を並行で進める。現在はアナログレコードの再興を目指すプラットフォームサービス「REVINYL」のプロデュース全般を担う。