BRI なでしこプロジェクト 代表幹事 板垣香里氏
「女性活躍推進」を次のステージへ
BRANDPRESS編集部
2019/12/05

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存の市場を一変させる挑戦や、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります。今回紹介するのは、大手眼科薬メーカーの参天製薬に勤める板垣香里氏。企画本部IR室室長として働くかたわら、女性たちのキャリアアップをサポートする 「BRI なでしこプロジェクト」の代表幹事を務めています。板垣氏に女性活躍推進への思いをお聞きしました。


女性は一般職が当たり前という時代

わたしが大学を卒業して社会人になったのは、1990年代前半。当時は、「女性は結婚したら家庭に入るのがあたりまえ」という時代でした。総合職の女性も少しずつ増えてはいましたが、まだまだ少数派でした。そのため、特に疑問を持つこともなく、電機メーカーに一般職で入社しました。みんなと同じように、きっと数年で会社を辞めるだろうと思っていたんです。その一方で、当時ニュースキャスターとして活躍していた小宮悦子さんのように第一線で働き、やりがいのある仕事をしていきたいという憧れもありました。

そんな中途半端な気持ちで入った会社でしたが、いざ仕事を始めると、すごくおもしろかったんです。上司は「やりたいことをやれ」という方針だったので、一般職にもかかわらず責任ある仕事を任せてもらえました。プロダクトマネージャーとして、製品のプロモーションやプロダクトデザインを担当しました。

仕事への本気度が年々高まっていき、5年目を迎えるころには、「総合職に転換してもっと大きな仕事をしたい」と思うようになっていました。その後、社内のいくつかの部署を経験したあと、直近の10年間で担当したIRの領域をもっと究めたいと思い、2019年10月に転職しました。

「赤ちゃんがいるのに、なんで働くの?」という周囲の気遣い

これまでのキャリアを振り返ったとき、最大の転機となったのは出産です。2001年に長男を出産する際、出産休暇・育児休暇の制度を利用して会社を休んだものの、「復職時に自分の居場所がなくなってしまうのでは」という不安でいっぱいでした。そのため、復職時に役に立てばという思いから、休職中も会計などの勉強を必死にしていました。

ところが、いざ職場に復帰すると、周りから「子どもを生んだのに、どうして働く必要があるの?」「赤ちゃんといっしょにいてあげなくていいの?」「旦那さんに食べさせてもらえばいいのに」と言われるんです。今の時代では信じられないかもしれませんが、皆さん親切心で言ってくださるんです。でも、あまりにも同じようなことを言われるので、「子どもを持った女性は働いてはいけないの?」という気持ちも芽生えてきました。

その反動もあり、2006年に娘を出産したときは、育児休暇を取らずに、出産後すぐに仕事を再開しました。しかし、案の定、肉体的にも精神的にも辛い生活が待っていました。朝7時前に家を出て、会社に向かいます。夜は1、2時間ほど残業していたので、家に着くのは20時半すぎ。子どもを寝かしつけたあとは、再び仕事をします。それでも上司から「みんな深夜まで働いているんだから、もうちょっとがんばれない?」と言われるんです。

互いが互いのメンターに

育児も仕事も体力勝負なところがありますが、もう一つ大事なのは精神的な安定です。特に女性は、だれかに話を聞いてもらうことで元気が出たりしますよね。しかし、社内や家庭で聞いてもらうには限界があります。男性の上司や先輩に相談することも考えたのですが、それ自体がネガティブにとらえられてしまうのではないかという不安もありました。

そのときの思いが具体化したのが、「BRI なでしこプロジェクト」です。わたしが参画していた一般社団法人 企業研究会で、 2015年に 「BRI なでしこサミット」を開催したことがそもそものきっかけでした。わたしはパネラーの1人として、150名を超える参加者の前で女性活躍推進への思いなどをお話する機会をいただいたのですが、すごく反響が大きかったんです。

「このようなシンポジウムを1回で終わらせるのはもったいない」ということになり、わたしを含め5人のパネラーが発起人となって、継続的なプロジェクトとして発足しました。

当時はアベノミクスの真っ只中。政府が打ち出した「女性が輝く日本」を実現しようと、各企業が独自の展開を打ち出し始めた時期でした。しかし、企業が個別に女性活躍を推進しても限界があります。それなら、企業の垣根を越えたつながりを作り、“束”になって世の中を変えていこう、登用される女性を支えていこうというのが、「BRI なでしこプロジェクト」の目的の一つとなりました。ただし、すべての女性が出世につながる活躍を望んでいるわけではありません。活躍にもいろいろな形があり、ニーズも千差万別なので、どんな取り組みが必要なのかをわたしたちは常に考えています。

現在は年に3回ほど勉強会を開き、年に一度、大きなサミットを開催しています。2019年9月に開催したサミットでは、アムンディ・ジャパン 運用本部ESGリサーチ部長の近江静子氏と、ファザーリング・ジャパン 代表理事の安藤哲也氏をゲストに迎え、対談していただきました。

なでしこプロジェクトには、これまでに延べ1,000人を超える方々が参加しています。今後も男女関係なく、より多くの人に参加してもらえるプロジェクトにしていきたいと思っています。

「ママは働きなさい」という娘の一言がエネルギーに

「働くお母さん」に対する理解、そして支える制度は、わたしの出産当時に比べてかなり充実してきました。とはいえ、働く当人たちの多くは、まだ不安や悩みを抱えています。時短勤務をすれば引け目を感じてしまうし、子どもがインフルエンザになれば、1週間は出勤できません。そのたびに悩んだり、不安になったりします。

わたしが今こうして、本業だけでなく「BRI なでしこプロジェクト」でも精力的に活動できるのは、家族の支えがあるからです。特に、娘が4歳のときに言った「ママは働きなさい」という一言は、わたしにエネルギーを与えてくれました。「ママが働いているから、おいしいものも食べられるし、旅行にも行ける」という無邪気な一言だったのですが、不思議な安心感で働くわたしの背中を押してくれました。

各国の男女の格差を分析した「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数 2018」において、日本は調査対象となった149カ国のうち110位であり、G7の中では最下位です。わたしの娘も、あと10年もすれば社会に出ます。そのときに、世界で110位なんて残念な未来にしたくありません。それはほかの方も同じ。自分の娘や孫が、辛い思いをしながらフラフラになって働くのがうれしいはずがありません。「BRI なでしこプロジェクト」の活動を通じて 、「女性活躍推進」を次のステージへ進めたいと思っています。