盛り上がらない日本の「ライブコマース」 “35兆円市場”中国との3つの違い

 インターネット上で活動し、大きな影響力をもつとされる「インフルエンサー」。お隣の中国では、彼らを起用したライブ配信販売(ライブコマース)が盛況で、数億円単位の金が動くことも珍しくない。一方、日本での盛り上がりはいまいち欠ける……なぜなのか。

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 日本貿易振興機構(ジェトロ)のレポートによると、2019年に4338億元だった中国のライブコマースの市場規模は、20年には1兆5000億元、21年には2兆元規模に拡大するという。日本円にして35兆円である。

 ライブコマースとは、簡単にいってしまうと、通販番組「ジャパネットたかた」のネット版のようなもの。配信者は、ネットの画像や文字情報だけではわかりにくい商品の使用感などをリアルタイムの動画で視聴者に伝え、ときに視聴者からのコメントに答えまがら購買を促す。

 中国のライブコマースで最大の規模を誇るのが淘宝直播 (タオバオライブ)というサービスで、業界の売り上げの5割ほどを占める。オンラインショッピングサイトの淘宝(タオバオ)から派生したプラットフォームだ。中国ではKOL(キー・オピニオン・リーダー)と呼ばれる、特定のジャンルに強いインフルエンサーがおり、彼ら彼女らの「おすすめ」を観て、視聴者は購入するか否かを決める。

 タオバオライブで最も影響力をもつとひとりが、薇?(viya)という2016年から活動する女性だ。1児の母である経歴を活かして、コスメを中心とした生活用品を扱う。このほか、昨年はおよそ6億円の小型ロケットをライブコマースで売ったことも話題になった。

■日本では奮わないライブコマース


 翻って日本はどうか。実は、先に名前を挙げた「ジャパネットたかた」も9月にライブコマースを始めるなど、徐々に導入の広がりを見せつつある。が、まだまだ中国レベルだとは言い難い。マーケティングアナリストの渡辺広明氏がいう。

「ライブコマースは今後は力を入れるべき販売戦略だと思っています。なぜなら、今後さらに情報が多様化していくと、これまでのように大々的に広告打つ方法ではモノが売れなくなるからです。広告よりも口コミを信頼する消費者も少なくありませんが、より“信頼できる口コミ”として、中国ではインフルエンサーおよびライブコマースが受け入れられています。また、若い人たちの間では、テレビや雑誌を差し置いて、スマホで視聴する『ネット動画』が情報を仕入れる手段のメインになりつつある。アメリカの調査会社のデータでは、1分間の動画はWEBサイトの3600ページ分の情報量があるといわれています。商品紹介には動画が圧倒的に向いている。そういう意味でも今後ライブコマースは重要なわけですが、日本企業での成功例はあまり聞きませんね」

 流通事情に詳しいさるジャーナリストも、こう語る。

「メルカリの『メルカリチャンネル』や、楽天市場の『楽天ライブショッピング』など、日本でもライブコマースの取り組みがないわけではありません。が、いずれも奮わずにサービスは終了しています。いわゆる『インフルエンサー』も、中国のKOLのような存在は育っていない印象です。強いていうなら『ゆうこす』こと菅本裕子(27)がそうかもしれませんが、自分の美容ブランドを立ち上げてしまったのは悪手でしたね。今後、彼女が美容系のインフルエンサーとして商品を紹介しても『じゃあ、自分のブランドの商品と比べてどうなのか』と視聴者はなってしまう。彼女としても、ライブコマースで活躍するインフルエンサーというよりは、タレント路線を考えているのでしょう」


■中国と日本、違いは


 なぜ、中国で盛んなライブコマースが日本では奮わないのか。中国のようなインフルエンサーが現れないのか――。ライブコマースのコンサルタント事業を手がける株式会社Tailor Appの松村夏海氏は、次のように分析する。

「中国と日本の違いには、ひとつには買い物における“信用度”の違いがあると思います。買い物環境が日本ほど整っていない中国では、インターネットショッピングが盛んですが、偽物や粗悪品を掴まされるリスクも日本よりはるかに高い。そのため、自分が信頼する人、つまりインフルエンサーを“信用”して買い物をする習慣が根付いたと考えられます。美容や家電など、そのジャンルに詳しい人物がお勧めするとなれば、なおさらです。」

 そうして生まれたインフルエンサーという立ち位置にも、中国独自のものがあるという。

「中国のKOLたちは、商品の紹介のみならず、自分の紹介先から購入すれば定価より安く買えることもPRします。いわばバイヤーのような立ち位置も果たしているのです。そうして商品が売れると、企業やメーカーからインセンティブを受け取れるという仕組み。ならば企業からのオファーで粗悪品を売ることもあると思われるかもしれませんが、彼らも彼らで自分の信用度で商売している以上、下手な商品を紹介すると、看板に傷がついてしまうわけです」

 日本の「テレビショッピング」に出演するタレントがモノを売ることもある。しかしその懐に入るのは、広告代理店、そして所属事務所の取り分を引かれての「ギャラ」だ。売り上げに応じてその額が変動することもなく、ゆえに「モノを売るコンテンツ」としての魅力も、ライブコマースのそれには及ばない。

「中国との違いでいうと、日本には、“おもてなし”という言葉に象徴されるような、接客文化が根付いていることがあると思います。リアル店舗に価値を見出す店を訪れて、店員さんの説明を受けて、購入を決める。一定の年齢以上の方にはこうした購買習慣がおなじみです。弊社ではライブコマースをつかった販促の方法をいくつか提案してきていますが、中国のようなやり方をそのまま日本にもってきても上手くいく可能性は低いと考えています。日本でとるべき戦略のひとつには、日本の特長を生かし、ネット上ではなく店舗に足を運んでもらうためにライブコマースを活用する手法ですね。ライブ動画を通じて商品やお店の魅力をPRし、来店を促す形です。日本ではライブ配信後の購入先の5割がネット通販ですが、同時に4割が店舗に足を運んでの購入なのです。この方法は、いくつかのショッピングモールなどでご活用いただいています。ゆくゆくは、ライブコマースの販売を専門とする、“コマーサー”育成の事業もやってみたいと思っています」

デイリー新潮取材班

2021年10月14日 掲載

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