「いきなり!ステーキ」はラーメン「幸楽苑」の救世主 なりふり構わぬ奇策が大当たり

幸楽苑、いきなり!ステーキが救世主 「焼肉ライク」ともフランチャイズ契約の奇策

記事まとめ

  • 幸楽苑というラーメンチェーンが一時は危機説が報じられたが、35社の2月売上高で2位に
  • 幸楽苑はペッパーフードサービスとフランチャイズ契約、いきなり!ステーキを16店経営
  • 18年に焼肉ライクとフランチャイズ契約を締結、ライバルの2社を"二股"する奇策だそう

「いきなり!ステーキ」はラーメン「幸楽苑」の救世主 なりふり構わぬ奇策が大当たり

■実は上場企業


幸楽苑というラーメンチェーン」――こう記事を書き出しても、「?」マークが浮かぶ人は決して少なくないだろう。公式サイトを見てみれば、47都道府県のうち22都府県にしか進出していない。

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 本社は福島県郡山市。店舗網が偏っているのは、幸楽苑が“ドミナント戦略”を採用しているからだ。辞書『大辞林』は「一定の地域に集中的に出店して認知度などを上げ、類似する競合他社に対する優位性を保とうとする出店戦略」と定義している。

 北海道や九州では無名でも、東北や関東では、おなじみのラーメン店だ。「極上中華そば」は421円、「餃子『極」』は237円、「絶品半チャーハン」は334円。アルコールもある。「生ビール中ジョッキ」は496円、「冷酒」は453円。いずれも税込みだ。

 つまりは「日高屋」や「バーミヤン」のライバルと言えば分かりやすいだろう。経済担当記者が解説する。

「1954年、会津若松市に開店した食堂が原点ということです。現在の同社会長が64年に東京の中華料理店で修行。数年して会津へ戻ると、チェーン化を目指して法人化や工場建設などに着手しました。地元で地盤を固め、70年代から東北、北関東、都内などへの進出に成功します。そして2003年には東証一部へ上場を果たしました」

 この幸楽苑、一時期は危機説が報じられていたのだが、ユニークな手段で業績を急速回復。関係者の間で注目を集めている。

 例えば株価だが、昨年7月は1500円台まで落ちこんでいたのを、4月12日の時点で3160円まで戻している。

日経MJは3月27日、「外食6割 20社が減収 35社2月既存店 客足なお鈍く」の記事を掲載した。同紙が外食産業の有名35社を独自調査。2月の売上高をまとめたものだ。

 記事では調査結果を《35社のうち21社が前年実績を下回った》と報告。原因として《野菜の価格が安値で推移している》ことを指摘し、外食・中食産業では《相対的に割高感》が感じられているとした。庶民の財布は、依然として紐が固いようだ。

 では、日経MJが発表した35社の2月売上高の一覧から、前年同月比のベスト5とワースト5を抽出してご紹介しよう。表にまとめた。

 幸楽苑が2位にランクイン。つまり外食産業では数少ない“勝ち組”なのだ。もっとも、つい最近まで危機説が報じられていたのは、冒頭でご紹介した通りだ。

 日経は18年10月31日(電子版)、「幸楽苑、赤字脱却メド 再成長探る 社長に新井田昇氏」と報じた。一部を引用させていただく。

《幸楽苑ホールディングスは31日、新井田傳社長が11月1日付で会長に就き、長男の新井田昇副社長が社長に昇格する人事を発表した。2019年3月期は2期ぶりに赤字から脱却する見通しとなるなど業績不振から脱却するメドがたったと判断し、経営の若返りを進める。新社長は再成長策を探ることになる。
新井田昇氏は三菱商事を経て幸楽苑(現幸楽苑ホールディングス)に入社。その後楽天に出向するなど社内外で経験を積み、早くから後継者候補とみられていた。
幸楽苑は過去の大量出店で採算管理が甘くなっていたところに16年10月のラーメンへの異物混入事故が発生。客離れが起き前期は32億円の当期赤字を計上した。監査法人からは事業継続のリスクを指摘された》

 同社の08年から19年にかけての売上高を折れ線グラフにしてみた。ご覧いただこう。

 山あり谷あり。決して平坦な道のりではなかったことが分かる。経済担当記者が言う。

「幸楽苑の大きな危機は、これまでに3回ありました。最初は11年の東日本大震災。震災による営業停止店舗は最大184店に達し、グラフでも大きく下がっていることが分かります。翌年から業績を回復させますが、長く続くデフレ経済で、安売り競争が過熱。低価格路線の幸楽苑には追い風だったにもかかわらず、コンビニ業界が強力なライバルとして立ちはだかりました。コンビニとの激しい顧客獲得競争で疲弊したのが、第2の危機でした」

 それでも幸楽苑は組織改革を行い、新メニューの提供により客単価の上昇を目指した。グラフがじわじわと上昇しているのが分かる。


■他社とFC契約を結ぶ荒技


 ところが16年9月、静岡市内の店舗で、ラーメンにチャーシュースライサーで誤って切断した従業員の左手の親指の先端部分が混入していたことが発覚する。これで一気に客が離れた。第3の危機だ。

「更に経済マインドの変化にも苦しめられます。12年に第2次安倍政権が発足すると、単に安いだけでは消費者が満足しなくなりました。材料費や人件費の高騰も加わり、幸楽苑は異物混入のマイナスイメージを払拭する機会を失います。18年5月には赤字転落を発表、純損失は約32億円で、役員報酬の減額などを実施するまでに追い詰められました」(同・経済担当記者)

 フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏は、幸楽苑のドミナント戦略、つまり「一定地域への集中出店」に問題があったと指摘する。

「幸楽苑の基本戦略は、『街の中華料理屋の半額、300円台のラーメンと100円台の餃子で、圧倒的なシェアを獲得する』でした。これ自体は正しい方針だと思います。しかし少子高齢化に伴い、日本経済は消費者と働き手が同時に減少しています。顧客が減っているにもかかわらず、1つの地域に集中出店するというのは、やはりリスクのほうが大きかった。狭いエリアに2店舗、3店舗と積極進出したところで、幸楽苑同士が客を食い合って終わってしまったのです」

 こうなると、不採算店舗の整理が経営の常道だ。もちろん幸楽苑も実行した。だが、空き店舗を単に潰すだけでなく利活用を図った。その方法が極めて独特だったのだ。

 17年10月、ペッパーフードサービスが「幸楽苑とフランチャイズ契約を締結」と発表し、外食業界は驚愕した。幸楽苑の不採算店舗を「いきなり!ステーキ」にする計画が明るみになったのだ。

「19年3月末現在、幸楽苑は『いきなり!ステーキ』を16店舗経営しています。この結果、18年3月期に赤字だった業績が大きく回復しています。もちろん『いきステ』の人気も寄与しましたが、注目すべきは自社店舗が競合することがなくなり、幸楽苑の既存店客数も大幅に増加したことです。例えば静岡県の店舗を『いきステ』に変えたところ、3キロ離れた幸楽苑の客数が前年比で38%増加したそうです」(前出・千葉氏)

 さらに18年12月、幸楽苑は「焼肉ライク」ともフランチャイズ契約を締結したと発表した。「焼肉ライク」は「いきステ」ほどの知名度はないが、やはり低価格の“1人焼肉チェーン店”として注目を集めており、「いきステ」のライバルと目されている。

 これがどれだけ珍しいことかは誰でも分かる。先に紹介した日経MJの表を例に取るならば、2月の売上が不振だったモスフードサービスが不採算店舗を整理する際、業績が好調なスシローと元気寿司に業態を切り替えてしまうようなものだからだ。

 ある意味では掟破りとも言える経営戦略について、前出の千葉氏は「新井田昇社長が、社内に向けてメッセージを発したという側面もあるのではないでしょうか」と分析する。

「少子高齢化で、自社だけで成長戦略を描きにくい時代なのは事実です。新井田社長が『いきなり!ステーキ』だけでなく『焼肉ライク』ともFC契約を結んだ“剛腕”も評価すべきでしょう」

 確かに、ライバル関係にある2社と“二股”をかけてしまったようなものだ。とんでもない“奇策”だ。凡庸な経営者では無理だろう。

「その上で、幸楽苑社内での“教育効果”を狙っているのではないでしょうか。社員に『人気の“いきステ”を見習え』と単に呼びかけるだけでは、なかなか組織というものは変革しないものです。ところが、“いきステ”のFCを自社で請け負えば、話は別です。具体的な数字を社員に見せることができます。『“いきステ”はこれだけ儲かっている。幸楽苑も負けないように頑張れ』と発破をかければ、社員も奮起せざるを得ません。そんな効果も、新井田社長は計算しておられると思います」(同・千葉氏)

 批判的な向きは「そうはいっても、他人の褌で相撲を取っているのは事実」と考えるかもしれない。幸楽苑は「自社単独の成長を諦めた」可能性があるのだろうか?

「幸楽苑は更なる成長を成し遂げる潜在能力が充分にあると考えます。外食業界では現在、ロードサイド店舗に大きな注目が集まっています。例えば居酒屋チェーンの『串カツ田中』は3月、前橋市内に初となるロードサイド店をオープンさせました。交通量の多い国道や県道沿いの店は、居酒屋であってもファミリー層の来客が見込めるため、客数と客単価の上昇が狙えるのです。そして幸楽苑が、ロードサイド店に関する豊富なノウハウを持っているのは、自他共に認めるところでしょう。ラーメン、ステーキ、焼肉の3本柱で、更に業績を伸ばしていくのではないでしょうか」(同・千葉氏)

 幸楽苑は今後の経営方針に「売上ではなく利益を重視する経営」と掲げる。5月から令和が始まり、11月に第2四半期決算短信や中間報告書が発表される。果たして、どんな数字が記載されているのだろうか?

週刊新潮WEB取材班

2019年4月15日 掲載

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