小川賢太郎(国民生活産業・消費者団体連合会会長) 【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

■小川賢太郎 国民生活産業・消費者団体連合会会長(ゼンショーホールディングス代表取締役会長兼社長)


 生団連の会長として政府にさまざまな政策提言を行う一方、一代で築き上げた「すき家」のゼンショーを外食産業で売り上げ日本一に育て上げ、発展途上国とはフェアトレードを行って貧困撲滅を目指す――東大全共闘の闘士は、今もまったく違う形で社会変革に取り組んでいた。

佐藤 「伝説の経営者」にお目にかかるのを楽しみにしていました。小川さんは、東大全共闘で革命を目指して闘ったのち大学を中退され、港湾荷役会社などを経て「すき家」のゼンショーを創業、外食産業で日本一の売り上げを誇る企業を一代で築き上げられた。

小川 ははは。まだ現役ですよ。伝説に入れないでください(笑)。

佐藤 いや、現役でも伝説になりますから。そして小川さんはもう一つ、国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)という、政策を提言する団体の会長も務めている。本日はこちらを中心にお話をうかがうことになりますが、資料を読むと非常にユニークな団体ですね。

小川 会長を引き継いで2年になります。もともとは食品スーパー「ライフ」の創業者である清水信次(のぶつぐ)さんが、東日本大震災が起きた2011年の12月に設立したものです。清水さんは、言ってみれば「最後の兵隊」です。帝国陸軍の一員として、アメリカが九十九里浜に上陸してきたら爆弾を持って飛び込めという訓練をやっていたところで終戦となった。そんな原体験を持つ実業家が、21世紀まで生き永らえ日本を振り返ってみると、国民の生命、生活に拠り所がない、と強く感じられた。大震災の後ということもありますが、政権次第では日本がどうなってしまうかわからない。そこで日本チェーンストア協会を母体として呼びかけを行ったんですね。

佐藤 加盟団体がとても興味深い。

小川 約550団体が集まりましたが、消費者団体と、生活用品や食品メーカーなどの生活産業メーカー、流通サービス産業などが網羅されています。キリンビールや味の素、花王などのメーカーとともに、消費者団体を入れたところが清水さんのこだわりです。

佐藤 清水さんには何度かお目にかかったことがあります。二度と戦争を繰り返さないという信念と、生活者のネットワークを作っていくとおっしゃっていたことが印象に残っています。

小川 理念があるから、生団連という国民組織を作った。ただ、政治に働きかけるなど、まさにこれからというときに、突然、次は小川さん、頼むと言われたんですよ。何の根回しもなかった(笑)。

佐藤 清水さんは2010年に、民主党から参議院議員選挙に出られたことがある。この時も独断専行だったと聞いています。

小川 戦中派というか、帝国陸軍ですからね。

佐藤 その清水さんから引き継がれて、今は小川さんのカラーが強く出ているようですね。

小川 まず理論武装からやった。事務局の職員を集め、学習会を始めたんです。そのテキストが、アレクシ・ド・トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』。

佐藤 それは面白いですね。

小川 私は旧制高校以来の伝統であるデカンショ(デカルト、カント、ショーペンハウエル)の系譜のもとで教育を受けてきましたが、そこにトクヴィルは入っていない。でも読んでみると非常に面白い。彼はフランスの貴族出身ですが、アメリカに渡って民主主義の研究をする。当時、民主主義発祥の地のヨーロッパよりアメリカの方が進んでいたんですね。トクヴィルは地べたを這ってという感じで、何々川の西は奴隷制が残っているが東は残っていないとか、奴隷依存の白人は働かないから歩く速度が遅いとか、「現地現物」をつぶさに見てくる。その中で彼は、デモクラシー発達の理由の一つとして、アメリカにはいろんな結社があることを指摘した。

佐藤 コミュニティとは異なるアソシエーションのことですね。

小川 そう。アソシエーションが数多くあるのが、アメリカのデモクラシーの重要な根幹だと言う。

■国家に影響を与える


佐藤 私が生団連を知って最初に感じたのは、これは中間団体だということです。私企業でもなければ国家の出先機関でもない。モンテスキューが『法の精神』で言っているところの中間団体です。哲学者の柄谷行人氏も、民主主義を担保するのは「中間団体」だと言っていますが、同じ指摘ですね。

小川 上流下流、その中間みたいな印象を与えるから、中間という言い方は好きではないけども、まあそうです。私は生団連を引き継ぐにあたって「国民の結社」という位置付けをした。政府と個人の間に入って政策提言をしていく組織にする。

佐藤 生団連をNPOとか財団にしないで、任意団体にしておくのがいい。法人格上はゲートボールの会や囲碁クラブと一緒です。

小川 ゲートボールやるよりは、国家の行く末を案じましょうということですよ。ノンガバメント(非政府)とか、ノンプロフィット(非営利)にしたら、自由に活動できなくなる。

佐藤 そうした組織は結局、国家に取り込まれていきますから。国家に影響されない任意団体であり続けるには、相当の知恵と戦略とお金が必要です。電気事業連合会もそんな任意団体の一つですけども。

小川 本来は政党だって、国民の結社のはずなんですよ。でも選挙で議席を得ることによって、上部構造たる政治に組み込まれてしまう。

佐藤 しかもパーティ(政党)は部分の代表であるはずなのに、全体の代表のようになっている。

小川 そう。パーティはイデオロギーに基づいた結社ですが、どこも国民を代表していると言う。おかしなことです。一方で下部構造には経済があり、その代表的存在は経団連ですが、これは中間団体じゃない。

佐藤 違います。資本家の団体です。

小川 生団連の流通サービス企業の一部は経団連にも所属しています。ただその意見はほとんど活動に反映されない。でもGDPの72%は流通サービス業(第3次産業)が担っているんですよ。それなのに、その立場から国家はこうあるべし、法律はこうあるべし、という提言が反映されないのはおかしい。だからそうした声を反映させる仕組みも作っていかなければならない。

佐藤 でもまとまりますか。経営者の考えはバラバラじゃないですか。

小川 「万国の労働者、団結せよ」って誰かが言っていましたが(笑)、「日本の経営者、団結しろ」ですよ。

佐藤 具体的にはどんな提言や要望を出しているのですか。

小川 2019年度は次の四つのテーマにフォーカスしています。

1「国家財政の見える化」の実現に向けて

2「生活者としての外国人」の受け入れ体制の構築に向けて

3「エネルギー・原発問題」の国民的議論に向けて

4「生団連災害情報ネットワーク」の構築に向けて

 国家財政の透明化については、ずっと言い続けている。上部構造を考えるにあたって、その根幹にあるのは税金とその使い方です。それを国民にきちんとわかるようにしなければならない。国家予算は一般会計の約100兆円のほか、特別会計などもあって、連結では240兆円にのぼる。それがどう使われているか、わからない。だから第1段階としては、上場企業には年4回も義務付けられている決算開示を、国もせめて年2回はやるようにさせたい。そして第2段階としては、予算を単年度で決めないようにする。現在の単年度予算編成は、仕組みとして「減らない構造」です。余っても単年度で予算を使いきらないと、来年度予算が減らされるから。

佐藤 年度末の3月には予算消化の工事が多くなるという話ですね。

小川 そうです。単年度予算だと、使わないと損だという発想になる。だからそれをやめて、3年程度でシーリング(上限設定)を設けて予算を作る。例えば300兆円を3年で使うとなると、教育にはこれだけ使って、防衛にはこれだけ、あとは新たな投資に回そうなど、どう予算を使ったら有効なのか、議論の生まれる構造ができる。これは1990年代には破綻寸前までいったスウェーデンが導入しています。このおかげで、今ではOECD加盟国の中では財政透明度も財政バランスも一番いい。

佐藤 国民に税金の使い方がわかるようになった。

小川 それとともに、議論が生まれる構造を作ることが重要です。

佐藤 こうしてお話を伺っていると、全共闘時代からの首尾一貫した意志が感じられますね。やり方は違うけども、国家について考え、国家に影響を与えていくんだ、という思いを強く感じる。

小川 民主主義を前提にするなら、当たり前の話だと思いますけどね。

佐藤 こうした提言を持って、政治に乗り出すつもりはないんですか。

小川 乗り出すも何も、我々は主権者ですよ。政治は外在的なものではない。代議士に委任はするけれども、あくまで主権者は我々です。問題は国民の主権が発動される仕組みが選挙しかないことです。政党も上部構造にビルトインされているから、言いたいことが言えない。だから生団連が国民の結社としてロビイングをして政策を実現させていく。

佐藤 政治団体にはならない?

小川 なりません。

佐藤 どこかの政党を支持するということはありますか。

小川 政党云々というのはないですね。価値観を共有して汗をかいてくれる個人としての政治家には支持もありうる。


■株式会社の可能性


佐藤 対談前にアフリカ・ルワンダでのフェアトレードのビデオを見せていただきました。フェアトレードは、途上国の生産者と公正な価格で取引を行い、彼らに正当な収入をもたらす。ゼンショーはルワンダでコーヒー豆のフェアトレードを行い、現地で水道を引くなどの活動もされている。生団連のお話とあのビデオを合わせて考えると、小川さんには何かもっと大きな社会改革の計画があるような気がする。

小川 まあ、そうとも言えるかな。この世界で、株式会社ができることは何か、ということを考えています。17世紀初めに世界初の株式会社、東インド会社が誕生しますね。この会社は国境を越え、広く人材もお金も集めて、莫大な利益を得た。株式会社というのは、やり方によってはグローバルに活動し、国家を超え、どこまでも拡大することができる。しかし東インド会社の利益は、アジア・アフリカ地域で収奪型の植民地経営を進めることによって得たもの。ゼンショーの目指すものは違う。フェアトレードにしても、こうした悲惨な歴史に対する一つのアンチテーゼでもあるわけです。

佐藤 マルクスは『資本論』の第3巻で、株式会社は資本主義システムを超える可能性がある、と言っています。

小川 そうですね。まあ東インド会社の場合は、グローバルでも、ロンドンの意思によって設計され、ネーションステイト(国民国家)の枠を越えるのが難しかった。でも株式会社の意思次第ではいろいろやりようがあるし、マルクスが理想とした社会の一つのツールにもなり得る。

佐藤 いわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などを見ていると、資本と世界革命の思想はこういう形で結びつくのかと思いますね。一方で軍事力と世界革命の思想が結びつくとネオコンになるんじゃないか。

小川 世界革命という概念が適当かはわからないけども、GAFAの展開の仕方は株式会社の一つの可能性を示すものだね。

佐藤 でも小川さんの考えているのはそちらではない。ルワンダが一つのモデルですね。そこでアメリカやヨーロッパがやっているようなことをしても無理だと考えている。ルワンダでは何よりもまず共同水道を作らなきゃいけない。各戸に水道を引く以前に、共同水道の段階から始めるという貧困がある。

小川 問題はなぜそういう状態にあるのかですよ。ルワンダでは部族抗争で100万人が虐殺されました。これはヨーロッパによる支配の一つの結果です。

佐藤 宗主国による分割統治が原因ですよ。

小川 そう。ルワンダは宗主国がベルギーだけども、典型的な分割統治をやり、少数派のツチ族を使って多数派のフツ族を抑えた。

佐藤 シリアも同じです。フランスがアラウィー派という人口の12%くらいの少数派に治安を担当させた。

小川 これはヨーロッパの世界支配方程式ですよ。中東やアフリカではまだ50年とか60年前のことで、そこから脱却しようしても、まだまだ混乱の中にある。この世界史の構造を転換するにはどうすればいいか。僕は実業家だから、株式会社を使って世界の構造を変革していこうと考えているんですよ。

佐藤 その一つがフェアトレードなんですね。


■世界最大の株式会社にする


小川 ビデオにルワンダの小学生の女の子が感謝するシーンがあったでしょう。何に感謝しているかというと、水を引いてくれたことじゃなくて、あなたたちと私のお父さんが一緒に汗をかいて水を引き、コーヒー豆を作ってくれたことに感謝しているんです。

佐藤 同じ立場で一緒に作ったことが重要だった。

小川 ただお金を出すとか、ただ水道を引くのではなく、一緒に汗をかいた。このやり方、考え方が、ヨーロッパ帝国主義的な世界支配を打ち破る基盤になると思う。

佐藤 なるほど。それを世界各地で展開していく。

小川 ゼンショーのフェアトレードは東ティモールから始まって今は世界18カ国で行っています。

佐藤 コーヒーが一番進んでいますね。だからフェアトレードを強調するコーヒー店が増えている。

小川 コーヒー豆の適地は、緯度が南北とも23度以内で、標高が1500メートルくらいの場所です。そこが世界の最貧困地帯とも重なるわけですよ。必然的にコーヒー、紅茶、カカオといった、そうした地帯に向いている作物がフェアトレードの商品として出てくる。

佐藤 イギリスでは、かつてカカオ、コーヒー、紅茶と流行して、それぞれチョコレートハウス、コーヒーハウス、そしてティーハウスが誕生しました。そこは社交場となり、世論形成の場として機能した。それが民主主義を育んだのは、歴史の皮肉ですが、でも今、それがフェアトレードで再び脚光を浴びるのは面白い巡り合わせです。

小川 ゼンショーは、世界から飢餓と貧困をなくすことをミッションに創業した会社です。世界の飢餓人口は8億2100万人とされていますが、食料の絶対量が足りないわけではない。世界人口77億人を十分に養えるだけの量はある。

佐藤 ただし先進国に集中している。

小川 こうした偏在はヨーロッパの帝国主義に端を発しているわけです。これを株式会社として変えていく。日本で牛丼を提供するだけじゃなく、地の果て海の果つるところまで、どこにいても安全な水、安全な食品を食べられるようにしたい。そのためには、原材料の調達から製造、加工、物流、販売まで一貫した仕組みづくりをしていかなければならない。これには技術がいるし、膨大な人材、資金力を含めた企業力が必要です。ゼンショーにはそうした理念に共鳴した人に入ってもらっている。

佐藤 なるほど。

小川 今ゼンショーグループは、売上高が6千億円あまりで、年間7億食くらいを提供しています。世界人口は日本の約60倍だから、まずは400億食以上を世界で提供したい。それでも世界中の人が3食ずつ食べたら2日分でしかないですよ。だからまだまだ企業規模が足りない。

佐藤 今後もさらに拡大させていくのですか。

小川 世界を見渡すと、株式会社は今のところ売上高60兆円ぐらいが上限です。象が5トンを超えられないのと同じで、規模の限界がある。それは基本構造の限界ですよ。だからその基本構造を変える。今はAIやIoTなどの第4次産業革命が起きて、それが技術的に可能になってきた。だからそのうちゼンショーは世界最大の株式会社になりますよ。

佐藤 小川さんの本質はやっぱり革命家ですね。目指すところは株式会社による革命です。

小川 拡大すると独占企業的になるから、政商にはならない、というのが私たちの戒めですね。

佐藤 ここに至るまでには、全共闘時代に対する誠実な総括があったんじゃないですか。

小川 総括という感じじゃないけどね。一日一日最大限前に進むということで、それは過去にやったことを踏まえてしかできない。もっともそれは総括でなく「科学的反省」と呼んでいますけどね。

佐藤 全共闘時代の高揚が不完全燃焼の形で終わって、多くの人は普通の企業でそれなりに出世して定年を迎え、今はしょぼくれてしまっている。その中でいまも一貫した理念を持ち、そこに資本家的な発想と生産という視点を加えて、世の中を変えようとしている。やはり小川さん、伝説を作っていますよ。

小川 旧民主党の幹部たちと会うと、もうイデオロギーの時代は終わった、みたいな認識なんだよね。違うんだよ。今こそ必要なのに。

佐藤 イデオロギーの時代が終わったというのは勘違いです。例えばここに1万円札がある。これを作るのに22〜23円しかかからないけど、1万円のものが買える。これだってイデオロギーですから。まあでもイデオロギーなんていうと今はびっくりする人もいる。別の言葉が必要かもしれませんけどね。

小川 理念でいいですよ、理念。ただ何をやるにしても世界を変えようと思ったら、その理念が必要ですよ。

小川賢太郎(おがわけんたろう) 国民生活産業・消費者団体連合会会長(ゼンショーホールディングス代表取締役会長兼社長)
1948年石川県生まれ。都立新宿高校から東京大学に進むが、全共闘運動に参加して、大学は中退する。その後、港湾荷役会社などを経て、1982年ゼンショー(現ゼンショーホールディングス)創業。2012年より日本チェーンストア協会副会長を務め、17年から国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)会長に就任した。

「週刊新潮」2019年11月21日号 掲載

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