理美容業界が新たな市場として狙う「LGBT層」 商品や売り場を工夫する各社の戦略

理美容業界が新たな市場として狙う「LGBT層」 商品や売り場を工夫する各社の戦略

オープン当初のスギ薬局原宿店の様子。同店には男性のビューティアドバイザーが接客に立つ(国際商業撮影)

 近年、理美容業界では、LGBTの消費者に向けた取り組みが世界的に行われている。もちろん日本でも例外ではない。だが、単に商品を“LGBT向け”として開発・販売すればいいかといえば、そうではない。化粧品・日用品の専門誌『国際商業』(https://kokusaishogyo-online.jp)が、日本企業の取り組みについて解説する。

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 LGBTとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイ(両性愛者)、トランスジェンダー(性別越境者・出生時に割り当てられた性別と自認する性別が異なっている人)の頭文字をとった言葉で、シスジェンダー(割り当てられた性別と自認する性別に違和感がない人)かつ異性愛者以外の人、いわゆるセクシュアル・マイノリティ全体を指す総称として使用されている。

 この言葉の認知率は、急速に高まっており、2018年の電通ダイバーシティ・ラボの調査によれば、LGBTという言葉の認知率は68・5%にまで上昇。また、自身がLGBTであると認識している人の割合は同調査で8・9%。また、LGBT総合研究所の19年調査によれば実に10・0%にのぼり、左利きの人や血液型がAB型の人と同程度の比率であることが分かっている。

 LGBTとはそもそも総称であり、また一つのカテゴリーに括られる中にも当然多様な考え、スタンスを持つ人がいるため一言で“LGBTの層”として表現することは適当ではない。しかし、それを踏まえたうえで、ここではあえて、さまざまな調査結果を通して見えた、いくつかの特長や消費傾向について触れたいと思う。

 まずLGBT層は、非LGBT層と比べ、匿名性の高いインターネット上でのコミュニケーションが活発である。そして出産、結婚、育児という考えを持つことが少ないことから、自身の生活や自己投資に積極的であることなどの特徴が挙げられる。また、情報感度が高く、新製品は積極的に試すなど新しいものへの関心も高い。

 LGBT総合研究所による意識調査によれば、「新製品はすぐに試してみる方だ」という質問に対して、「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人の比率は、非LGBT層に比べて4.9ポイントも高く、「新しく見聞きしたことをよく話題にする」についても同程度高い。さらに情報発信する意欲も高いため、インフルエンサーとして活躍する人も多い。また、同調査によれば、同性愛者・両性愛者の男性は異性愛者の男性に比べ基礎化粧品の使用率が高く、美容への関心も高い。

 こうしたLGBT層の特徴を考えると、化粧品業界にとって魅力的な消費者であり、大きな市場として期待できる。しかし、LGBT層をコアターゲットにしてアプローチするには、当事者に対する正しい理解と工夫が必要だ。

 例えば、LGBTの当事者に「LGBT向けに開発された商品があれば買いたいか」と問えば「絶対に買わない」と口をそろえる。理由は単純で、もしそのような広告を打っている商品を持っていれば、それ自体がカミングアウト(自身のセクシュアリティを明らかにすること)になるからだ。LGBTの半数以上は、たとえ今よりも偏見や差別が少ない社会になったとしても、カミングアウトは望まない。だからこそ、企業側は、そうした安易なコミュニケーションや発信は避けるべきなのだ。

 本当に求められるのは、LGBT層にのみ焦点を当てた商品ではなく、そうしたマイノリティを含む多くの人が買いたいと思える商品とそれを売るためのコミュニケーションではないだろうか。その先駆けとして成功を収めた例が、2016年にパナソニックメンズグルーミングが発売した男性用体毛処理のグルーミングシリーズだ。

 特徴は“Oゾーン”にもアプローチしやすいV字ヘッドを採用した点。これは商品開発のためのグループインタビューで出た「一般的なT字型では体毛処理の際に臀部や脇下などのすき間まで届かず剃りにくい」というゲイの方の意見に基づくもので、当事者ならではの高い美容意識が、マス向けの商品作りに大いに貢献した。その後の販促活動でも、スタイリッシュな広告、パッケージなど、その多様な感性を生かしたクリエイティブを開発。結果LGBT当事者だけでなく、多くの男性の支持を得た。LGBT層をターゲットにするだけに留まらず、より洗練されたセンスを持つ人たちとして、その感性をマスマーケティングに生かした好事例で、多様化が進む社会において、学ぶことの多かった取り組みだと言える。


■誰もが買いやすくをキーワードに変化する売り場


 LGBT層へのアプローチは、「製品」そのものだけではなく、「売り場」や「イメージの改革」も重要で、それが新たな市場活性化策につながる可能性を秘めている。店頭は消費者に最も近いコミュニケーションの場だが、例えばショッピング施設であれば、レディースフロア、メンズフロアのように階層を完全に分断しているのが現状だ。だが、カミングアウトを避けたいLGBT層からすれば、こうした売り場の“わかりやすさ”は大きな障壁になる。

 美容意識の高いゲイの消費者にアプローチするために、従来のコスメ売り場にメンズコスメのコーナーを新設すればいい、という話でもない。確かに男性客は入りやすくなるが、「本来、コスメやメイクは女性のものだ」という既成概念からは抜け出しきれないからだ。

 ジェンダーフリーを意識した店頭に、化粧人口の拡大を促す可能性があることはいうまでもない。新たな試みはすでに行われていて、2019年4月に東京・竹下通りの入り口にオープンしたスギ薬局原宿店で、同社初の男性のビューティアドバイザーが接客にあたっているのは、その一例である。自身もきれいにメイクアップし丁寧にカウンセリングを行う姿は、性別を問わず美を求めるお客を広く受け入れることを明らかにし、誰もが足を踏み入れやすい雰囲気を作り出している。

 また昨年11月には、マツモトキヨシも池袋のサンシャイン通り沿いの池袋Part2店を、ヘルス&ビューティケアを強化した都市型店としてリニューアル。地下1階に新たに独立した空間として男性用化粧品専用コーナーを設け、ヘアケア、スキンケア、さらにはBBクリームなどのメイク品を取りそろえた。また、2階のメイクサービスのコーナーでは、対象を女性に限定しないメイクサービスを実施。こちらは改装前から実施していたが、「眉を整えたい、にきびを目立たなくしたいなど、毎日のように男性の利用がある」(店舗スタッフ)という人気ぶり。ヘルス&ビューティを強化した店舗としてリニューアルしたことで、さらに利用者は増加しそうだ。メンズコスメ売り場をつくるだけに留まらず、このような性別の垣根を超えたサービスを広げて行くことで、ドラッグストアは店頭から消費者の意識をも変えることができるというわけだ。

 また、ドン・キホーテの美容関連の売り場は、以前から男性客が多い傾向がある。その理由をLGBT当事者に聞いてみると「売り場が雑然としているから、周りの目を気にしないで買える」や「他の人がどんな買い物をしているのか誰も気にしていない雰囲気がいい」と言った声が上がった。ある意味、前出のスギ薬局やマツモトキヨシとは反対とも言える店作りだが、結果として「すべての人が買い物を楽しめる」という同様の売り場作りの効用が見て取れることは非常に興味深い。

 同性愛者・両性愛者の男性が非LGBTの男性よりも基礎化粧品使用率が高いのは先に述べた通りだ。一方、同性愛者・両性愛者の女性は異性愛者の女性よりもむしろ使用率が低いという調査結果もある。さまざまな理由があるにせよ、関係者は「同性愛・両性愛者の女性の中には中性的な人物像を求める人が多いのが一つの理由ではないか」と推測する。つまり、しっかりとしたスキンケアに取り組む姿は“女性的”だというイメージから、生活に取り入れにくいものになってしまうのではないかという指摘だ。化粧品とLGBT消費者の関係でいえば、今後の市場はこうした層を開拓する必要があるのではないか。

 健やかで美しくありたいと願う気持ちに性差はないはずである。これまで化粧品メーカーや販売店が築き上げてきたコスメへのイメージが、LGBT層の購入と使用へのハードルとなっているのであれば、じつにもったいない機会損失だと言えよう。昨今、成長が著しい市場として注目を集める“メンズコスメ”の伸長を推し進める上でも、性差を超えた取組みとジェンダーと結びついたイメージからの脱却は非常に重要だ。そしてLGBTは、もはやCSR(企業の社会的責任)活動の一環やダイバーシティへの取り組みの一つとして語られるだけのトピックではない。こうしたマイノリティへの理解を通して、自身の原体験や既成概念を超えた領域に視野を広げることで、さまざまな市場の可能性と改革の機会を見出すことができるのではないだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2020年2月4日 掲載

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