「送料無料」なんてとんでもない 元トラックドライバーの切実な訴え

 大手通販サイト楽天の打ち出した「送料無料」という方針については、楽天と出店者に加えて公正取引委員会まで介入し、その是非が問われる騒動となっているのはご存じの通り。顧客のためには無料化が最適だと考える楽天に対して、そのコストを負わされてはたまらないという出店者が声を上げ、さらに行政が目を光らせようとしている、というのが簡単な構図ということになる。

 が、ここで重要な役割を担う存在についてはあまり伝えられていない。

 販売側と顧客をつなぐ、物流業界である。

 そもそも言うまでもなく、すでに無料を謳っているサイト、業者にしたところで、送料を支払っていないわけではない。何らかの形で運送業者などに対価は支払われている。ただし、そのコストを極力下げ、無料と見えるようにしているだけのことだ。

 この「送料無料」という言葉に強い反発をおぼえる、と語るのはフリーライターの橋本愛喜さんだ。橋本さんは、かつて父親の経営する工場を継いで、自身も商品を運ぶトラックドライバーとして働いた経験を持つ。20代前半から断続的に約10年間、大型トラックを操り、全国を納品に回っていた。走行距離は1日500キロ、繁忙期には千キロに及ぶこともあったという。

 3月14日、橋本さんは著書『トラックドライバーにも言わせて』の刊行に合わせて、ラジオ番組「久米宏 ラジオなんですけど」(TBSラジオ・土曜日午後1時〜)に出演。その際にも、久米さん相手に語ったのがこの送料無料問題への憤りだった。

「運賃を安易にコストという言い方をするので、減らせるものだと皆さん思っている。商品の原価よりも運賃ならば容易に減らせるという勘違いがあるのでは」というのが橋本さんの指摘。

 その背景にはそもそも世界でも稀な配送サービスを支えているドライバーたちを軽視しているのではないか、という思いがあるようだ。橋本さんは、少しでもドライバーの過酷な状況を知って欲しい、と語っている(以下、引用は『トラックドライバーにも言わせて』より)。

■「時間帯指定」で数分遅れるだけで浴びせられるクレーム


「国土交通省が発表した『平成30年度宅配便取扱実績について』によると、同年の宅配便取扱個数は43億701万個。そのうちトラック運送は約98.9%にあたる42億6061万個で、日本の経済はトラックによる物流が支えていると言って間違いない。

 そんなトラックの配達員1人が担当する荷物の個数は、ネットショッピングが普及した現在、多い時で1日200個を超える。さらに日本には中元や歳暮など、他の国にはない『贈り物』についての習慣が多く、1年の間に幾度となくピークがやってくる。(略)

 周知の通り昨今の配達は、時間帯指定や再配達などのサービスが当然のように提供されている。そのほとんどが無料で行われるにも拘わらず、受取人からは数分遅れるだけで『何のための時間帯指定だ』というクレームが浴びせられる。中には、『午後5時〜7時』の時間帯指定で、『5時1分』にチャイムを鳴らしても『早いだろ』とクレームを付けてくる受取人もいるため、配達員の苦労は我々の想像以上だ」

 こんな緻密なシステムを実現できているのは、世界でも日本くらいだろう。


■「犠牲」の上に成り立つ「高品質なサービス」


 橋本さんはアメリカで生活していた時期があるが、現地では郵便局に預けられた荷物を受け取るには小一時間並ぶのが普通だったという。また、本人不在の場合には戸外に荷物を放置されることも珍しくはない。一時期、宅配の荷物を乱暴に扱うドライバーの動画が話題になったが、それはほとんどのドライバーがそういうことをしない、というのが常識となっていることの裏返しでもある。

 橋本さんはアメリカで知人らに「日本では配達の時間指定ができ、再配達も無料でしてくれる」と話したが誰も信じてくれなかったそうだ。

「帰国後、日本のトラックドライバーや運送業者に現状を聞いていくと、その『高品質の配達サービス』は、様々な『犠牲』のうえに成り立っていたと知る。

 長距離や大型トラックドライバーの苦労は、身をもって経験してきたがゆえによく知っていたが、配達ドライバーも同じように過酷だったのだ。

 中でも、彼らの首を絞めているのが『再配達』だ。客が神である日本の社会。商談はすっぽかさないのに、自分が指定した荷物の受け取りの約束は簡単にすっぽかすのは、やはり『客の神化』以外の他にない。中には、再配達を幾度となく繰り返したり、『寝起きの顔を見られたくない』や『知らない人と家の前で対面したくない』という理由から、居留守を使う受取人もいる」

 宅配便の再配達は20%、5軒に1軒が再配達ということになる。これは、年間9万人のドライバーの労働量に匹敵するという。

 番組でも強調されていたのは、こうしたドライバーたちは単に運ぶだけではなく、「荷役」つまり荷物の積み降ろし作業までさせられているという点だ。荷役の受け持ちを誰がするかが決まっているわけではないものの、実際にはそこまでがドライバーの仕事だと考える荷主が多い。もちろんその方が「コストが下げられる」そのため、ドライバーたちは、契約にはなくても荷役をオマケ仕事のように余儀なくさせられている。

 しかし、そのハードさは明らかにオマケの領域を超えている。特にフォークリフトなどを使わず、手作業で行う積み降ろし(手荷役・バラ積み、バラ降ろしともいう)は大変だ。同書に紹介されている現役ドラバーたちの手荷役にまつわる苦労を一部抜粋してみると、

 ●パチンコ台1台30キロを40台くらいが限界でした

 ●米の30キロ紙袋の800袋バラ積みはキツい

 ●スイカシーズンは腰と体がアザだらけになります。Sサイズ(2個入り)で5キロ位、4Lサイズ(2個入り)で20キロ位。総個数は900個

 ●気温40度超えの日に30キロの紙袋を12トン、バラ積み。6トンで汗が止まって7トンで足がしびれ出して8トンで急に滝のような汗が出だして9トンくらいで立てなくなって救急車呼んで貰いました

 ――涙なしでは聞けないような話が並ぶ。

 しかも、かつては数年間身を粉にして高収入を稼ぐ、といったやり方もあったのだが、規制緩和によって価格競争が激化した結果、ドライバーたちの収入も低下。ハードワークゆえに若者に人気もないため、慢性的な人手不足の状況にあり、高齢化が進んでいる。

■安易に使われる「無料」という表現


 改めて橋本さんに、「送料無料」問題についての感想を聞いてみた。

「無料、という表現を安易に使うことで、そのために汗をかいているドライバーの存在が消されてしまっているような感じがします。とかくトラックドライバーは、『マナーが悪い』といったネガティヴな話題でばかり取り上げられることが多い。たしかに改善すべき点はあるでしょうが、本当は一般ドライバーにもマナーが悪い人は多くいます。

 ほとんどのトラックドライバーが『顧客第一主義』のしわ寄せで安い賃金を強いられながら、毎日真面目に働いていることを知っていただきたいと思っています。どうかそんな気持ちで、ご自宅にやってくる配達の人たちにも接していただければ」

 番組で久米さんは、法律を作る官僚や、企業のトップらも一度はトラックの助手席に乗る経験をしてみればいい、と提言していた。そういう経験があれば、安易に「無料」という言葉は出てこないのかもしれない。

デイリー新潮編集部

2020年3月20日 掲載

関連記事(外部サイト)