伊勢丹に続き東急も撤退 タイで苦戦の「日系百貨店」と「ドンキ」の明暗

伊勢丹に続き東急も撤退 タイで苦戦の「日系百貨店」と「ドンキ」の明暗

1月末をもって閉店したタイ・バンコクの東急百貨店

 1月31日をもって、タイ・バンコクの東急百貨店が閉店した。昨年8月末には、バンコク伊勢丹も営業を終了している。それぞれ1985年、92年にタイで開業した老舗百貨店である。なぜ、日系の百貨店はタイで苦戦するのか。流通アナリストの渡辺広明氏が取材した。

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 昨年の伊勢丹につづく東急百貨店の閉店は、大きなニュースになりました。さらに遡れば、東急のショッピングモール内店舗「パラダイスパーク店」も19年に閉じています。こちらは、開店からわずか3年半あまりでの撤退でした。

 私はエステでおなじみのTBCグループに在籍していた頃、化粧品売り場の海外モール進出業務を担当していました。2016年から18年くらいまで、2カ月に1回のペースでタイを訪れていましたが、当時からすでに、日系の百貨店は苦戦を強いられていた印象です。

 たとえば、百貨店の肝であるテナント、具体的にはラグジュアリーブランドや外食などが、百貨店ではなく、ショッピングモールへの出店を好んでいたことにあります。理由は施設の“造り”でしょう。

 これは日本でも同じですが、ショッピングモールには、映画館やホテル、エンタメ施設や会議室などが併設されています。百貨店とはそもそもの集客力が違うわけです。テナントとすれば、どうせ出店するのであれば、モールの方が購買に繋がりやすい。加えて、横並びで “店子”のイメージがつきやすい百貨店と違い、モールはそれぞれが独立しているような解放感があり、ブランドイメージに合った店づくりがしやすい。つまり、百貨店と路面店との中間が、モールというイメージでしょうか。

 タイ在住の小売業関係者は、次のように解説してくれました。

「日系の百貨店がタイで苦戦する原因は、まず『売場作り』にあると思っています。バンコクには『サイアム・パラゴン』や“タイの百貨店王”こと『セントラル・グループ』が運営する商業施設のような、伊勢丹や東急より高級路線のデパートがあります。しかし、こちらは集客に苦戦している様子はありません。なぜなら、“住み分け”がきちんとできているからです。タイは、富裕層と一般層が、はっきり分かれている社会です。こうした百貨店ではそれを見越し、『富裕層向けのスーパーブランドショップ』と『一般向けの食品・レストラン等』で、売場を分けているのです。一般の人は高級百貨店に来ると、ブランド売場をウィンドウショッピングで楽しみ、買い物は食品売場やローカルブランドでする。私の見立てでは、タイの百貨店の売上の柱は食品売場のはずです」

 一方、日系百貨店がとってきたのは、あくまで高級路線だといいます。

「日系デパートの食品売場には、庶民派向けの価格設定の商品や、デザートやお菓子などが少ないのです。アパレルテナントもやはり高級な日本ブランドが中心で、欧米系やローカルブランドも揃うショッピングモールに、劣ります。唯一、化粧品売り場は人気ですが、これもやはり富裕層向けです。タイにはドラッグストアの『ワトソン』やスーパーの『トップスマーケット』など、ローカルブランドや欧米ブランドが充実しているライバルがいますから、化粧品だけでは戦えません。こうした状況だったところに、コロナ禍のロックダウンがあり、昨年は一年の半分ほど店を閉めざるを得ない状況になった。これが東急の撤退につながったのだと思います」


■百貨店の内情


 それならば日系の百貨店も、一般人客に向けた売り場作りをすれば良さそうですが……。そのあたりの事情は、大手百貨店社員の方が解説してくれました。

「海外に出店する百貨店には、大きく2つの種類があります。『旅行客目当てのお土産屋さんタイプ』と『地元民ターゲットの百貨店』です。いまほど海外旅行が一般化していない時代は、たとえば日本からの観光客のバスツアーと連携し、店に寄ってもらう形で収益を出していました。しかし、いまやプランを自由に組める個人旅行や、ネットでローカルの情報収集ができる時代です。『お土産屋』的な役割は、すでに終わりました。そこで近年は、現地のクオリティ層(富裕層)を取り込む戦略に舵を切ったのですが、実態と需要が合っていないわけです。たとえば、三越伊勢丹HDがマレーシアのクアランプールに出した『ジャパンストア』というコンセプト型の店舗はその典型でしょう。“ひと箱2万円の山梨のぶどう”などを販売していましたが、いまひとつです」

 さらに百貨店の海外出店事情について、こう明かします。

「業界内の話になりますが、各社とも海外事業部のあり方に問題があるでしょう。時代の流れに合わせた、スピーディーな投資や撤退、見直しの判断ができなかったのです。海外店舗の出店と撤退、そして再出店をスピーディーに繰り返して軌道に乗せたユニクロのような対応力を、百貨店も持つべきでした」

 一方、同じく海外進出している日系の小売業では、ドン・キホーテは好調です。タイには一昨年進出しましたが、今回、東急が撤退した跡地にはタイで3軒目となるドンキの出店が決まっています。別記事「台湾の『ドン・キホーテ』が大行列 “ジャパンブランド”は健在だった」でも、アジアで健闘するその理由を取材しました。

「ロックダウンがありましたから、ドンキも安泰ではなかったはず。とはいえドンキは百貨店と違い、現場の判断や売場や品揃えの見直しがスピーディーです。少なくとも様々なチャレンジはできますよね。ちなみに在タイの日本人がバンコクでもっぱら利用するのは、数店舗がある日系の『フジスーパー』。タイの方たちがドンキを使っています」(先の小売業関係者)

 バンコクに残る百貨店は、18年にオープンした「バンコク高島屋」のみとなりました。臨機応変に戦略を変える……。タイの事例からは、今後のグローバルビジネスに活かせる教訓が得られそうです。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、デイリースポーツ紙にて「最新流通論」を連載中。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月5日 掲載

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