【助成金の解説】働き方改革推進支援助成金・業務改善助成金/岡 佳伸

■2023年から中小企業も適用!60時間超、時間外労働割増賃金率変更に対応しよう!

時間外労働の割増賃金率の引き上げ

 時間外労働においてポイントとなる数字が2点あります。その1つは月の上限である45時間です。2020年4月(大企業は2019年4月~)より時間外労働の上限規制が罰則付きで設けられました。これは36協定と特別条項を締結し届け出ることで、時間外労働と休日労働を合わせて「単月100時間未満」「複数月平均80時間以内」とすることができます。

 2点目のポイントは60時間です。時間外労働の割増賃金率は現在、中小企業は25%ですが2023年4月1日より、月60時間を超える時間外労働分について50%に引き上げられます。つまり、月75時間の時間外労働を行った労働者がいた場合、60時間分については25%の割増賃金と15時間分については50%の割増賃金を支払う必要があります。2023年4月1日から労働させた時間について、割増賃金の引き上げ対象となります。

 ※大企業は2010年4月から60時間超える時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられています。

 時間外労働の割増賃金率と深夜労働(22:00~5:00)の割増賃金率は加算されますので月60時間を超える時間外労働を深夜時間帯に行わせる場合、割増率は次のように計算されます。

 ・月60時間超時間外割増率50%+深夜労働割増率25%=75%

 なお、法定休日に労働させた場合の割増賃金率は35%ですが、月60時間の時間外労働時間の算定に法定休日に行った労働時間は含まれません。そのため法定休日に労働を行い、それが60時間超の労働時間だったとしても、その部分の割増賃金率は35%です。

 経営者・担当者の方が割増賃金率引上げに備えて準備することとして、就業規則の改訂があります。厚生労働省が公開している「モデル就業規則」などを参考に、該当箇所を確認してみてください。

就業規則例
(割増賃金)
第〇条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する
(1)1カ月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1カ月は毎月〇日を起算日とする。
① 時間外労働60時間以下…25%
② 時間外労働60時間超え…50%
(以下、略)

代替え休暇の取得

 月60時間を超える時間外労働を行った労働者の健康を確保するため引き上げ分の割増賃金の支払の代わりに有給の休暇である代替休暇を付与することができます。この代替休暇制度を導入する場合は下記の事項を定めた労使協定を結ぶことが必要です。

① 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
② 代替休暇の単位
③ 代替休暇を与えることができる期間
④ 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

 ※この労使協定は事業場において代替休暇の制度を設けることを可能にするものであり、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではありません。個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは、労働者の意思により決定されます。当初は代替休暇の付与を希望していた労働者が実際に取得できなかった場合、割増賃金を支払う必要があります。

 代替休暇を付与する場合でも、あくまで引き上げ分の割増賃金支払の代わりですので、そうでない元々の賃金と25%の割増分については支払わなければなりません。また、代替休暇を与えることができる期間として、時間外労働が月60時間を超えた月の末日の翌日から2カ月間以内の期間で与えることとされています。つまり10月の時間外労働が60時間を超えた場合には10月末日の翌日である11月1日から2カ月間以内ですので12月31日までに代替休暇を与えなければなりません。

■助成金の活用

働き方改革推進支援助成金

 働き方改革推進支援助成金は、働き方改革に取り組む中小企業事業主に、環境整備に必要な費用の一部を国が助成する制度です。4つのコースに分かれています。

・働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
 生産性を向上させ、時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の促進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主が対象・

・働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
 勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の「休息時間」=「勤務間インターバル」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図る「勤務間インターバル制度」の導入に取り組む中小企業事業主を支援。

・働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)
 賃金台帳等の労務管理書類の保存期間を5年に規定にするとともに、生産性を向上させ、労務・労働時間の適正管理の推進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主。

・働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)
 中小企業事業主の団体や、その連合団体が、その傘下の事業主のうち、労働者を雇用する事業主の労働者の労働条件の改善のために、時間外労働の削減や賃金引上げに向けた取組を実施した場合に、その事業主団体等に対して助成。

 上記のいずれものコースも交付申請時点で選択した「成果目標」達成のため取り組みを実施していること、個別の企業を支援するコースでは年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していることの要件があります。

 この助成金では「労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新」も助成対象となる取り組みです。

 今現在紙で勤怠集計をしている中小企業はこれを機に、勤怠管理や給与計算等のシステム導入を検討するのも良いと思います。勤怠管理システムでは労働時間が一定を超えるとアラートを通知させるものもありますし、60時間超の時間外労働も判定してくれます。

業務改善助成金

 業務改善助成金は、一つの事業場の規模100人以下の中小企業事業主が、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度です。生産性向上のための設備投資等(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成します。生産性向上に資する幅広い取組が助成されます。

助成金申請のポイント

 ポイントは次の3つが挙げられます。
(1)交付申請期限の遵守
(2)取り組んだ実績を必ず記録する
(3)事業実施後の申請を忘れない

順に詳しく解説します。

交付申請期限

 働き方改革推進支援助成金の令和4年度の交付申請書の締切は11月30日(水)とされていますが、国の予算額に制約されるため、11月30日以前に予告なく受付を締め切る場合があります。早めの提出を心がけるのが良いでしょう。また、原則、交付申請時に必要経費の相見積もりの提出が必要になります。

取り組んだ実績の記録
 
 働き方改革推進支援助成金では労働時間等設定改善委員会の議事録等や取組内容の周知に関して提出が必要になります。

事業実施後の申請を忘れない

 助成金では事前の交付申請、交付決定通知の受領、実績報告の流れが必要になります。交付決定のみでは助成金は支給されませんので、必ず実績報告を行う必要があります。

令和5年度の新設助成金

 来年度は働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)が新設されます。2024年3月末まで36協定の特別条項上限規制適用が猶予されている業種(建設事業、自動車運転の業務、医師、鹿児島県と沖縄県の砂糖製造業)への支援を目的としています。

・36協定上限の見直し
・勤務間インターバルの導入

などの成果目標を達成するために、

① 労務管理担当者に対する研修
② 労働者に対する研修、周知・啓発
③ 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
④ 就業規則・労使協定等の作成・変更
⑤ 人材確保に向けた取組
⑥ 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
⑦ 労務管理用機器の導入・更新
⑧ デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
⑨ 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新

を行った場合に助成されます。

■まとめ

 多くの中小企業では就業規則等の改正が必要になります。令和4年度に改正施行された育児介護休業法やパワーハラスメント防止措置、キャリアアップ助成金を活用する際の正社員化定義の厳格化も含めて最新の法令に自社の就業規則が適合しているか確認しましょう。

筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)

大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント

【webサイトはこちら】
https://oka-sr.jp

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