生き残りをかけた「地銀改革」! その光と影とは? ―地銀業界分析2021―(慶応義塾大学 八田潤一郎さん)【企業分析バトル】

銀行というとどういったイメージをもつだろうか――。大学生からみると、一時より衰えたとはいえ、まだまだ就職活動で人気のある企業だ。外資系やメガバンクはもちろん、地方銀行も地域特化型として例外ではない。

一方で、マーケットの評価は低下し続け、目安となるPBR(株価純資産倍率)1倍以下はもちろんのこと、低PBRランキングをほぼ独占し、PBR0.1倍台などといった銀行が続出する。

その理由は説明するまでもなく、低金利で利ザヤが稼げなくなったことに加え、さまざまな経費が圧迫している。加えて、ネット銀行の台頭や人口減少は拍車をかける。そんななか、その圧倒的規模を武器に海外や非金利ビジネスに活路を見出すメガバンクに対して、地方銀行は少子高齢化・人口流出もあり、一段厳しい環境にあるのは市場評価を見ても一目瞭然だ。今回はその地銀についてみていきたい。

なお、短期運用とした「玉井商船」(9127)を売却した。

■数が多すぎる?

一般社団法人全国地方銀行協会や第二地方銀行協会の会員を、一般に地銀というが、その地銀に対して、現在の菅義偉首相が「将来的には、(地銀の)数が多すぎるのではないかと思う」(NHK 2020年9月29日付)と発言したことは記憶に新しい。

確かに、多くの合併など再編を経たメガバンクと比べ、地銀の再編は進んでいない。金融当局の手厚い保護のもと、競争が少ない護送船団方式で長らく運営されてきた弊害だろうか。しかし冒頭にあげた、低金利且つ人口減少を辿る今、地銀の生き残りをかけた改革が始まっている。

銀行の本業であり、収益柱の利ザヤの基準となる金利を確認する。マーケットの中心、アメリカでは雇用やインフレの面から繰り返しFOMC(米連邦公開市場委員会)でテーパリング(量的緩和の縮小)の議論はなされ、遅かれ早かれ開始するだろう。

最もインフレ率をはじめ、一過性の要因であるという見方もあり、デルタ株が猛威を振るうなかでは経済見通しは不透明だ。米国10年債利回りは足元では再び軟調色だが、最悪期は脱しており、感染状況次第だが、FOMCの動向を踏まえれば、いずれ緩やかな上昇基調に戻っても不思議はない。一方の日本は日銀が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を用いており、金利の動きが制限されているために銀行は厳しい収益環境にある。

なお、こちらも先の日銀政策点検で「日銀、長期金利の変動幅を上下0.25%程度に拡大」(ブルームバーグ2021年3月19日付)とされ、より柔軟に運用される意味において、最悪期は脱したかもしれない。

■頼みの綱は有価証券運用か

図1:京都銀行保有株式の状況(出典:個人投資家向け会社説明会資料2021年3月)

そうとはいえ、まだまだ厳しい環境にあるのは、一目瞭然だ。銀行の稼ぐ力をみるには、さまざまな指標があるが、貸出や役務利益を中心の構成されるコア業務純益は外せない。しかし、コア業務利益には有価証券利息配当金が含まれており、これらを除外すれば(本業利益などといわれる)より一段厳しい状況がうかがえる。つまり、極めて有価証券運用に依存していることがわかる。

もちろん、京都銀行のように任天堂や日本電産を筆頭に、京都に本社を置く企業に5%ルール内で投資をし、銀行の規模を上回る含み益と驚異的な簿価利回りと配当を得て、利益の多くを稼ぎ出す地銀もある。

その一方で、有価証券運用そのものが地銀生き残りの策とは言い難い。『フィデアHD、他業界と競合へ 有価証券運用などに活路』(日経新聞2021年7月30日付)と報じられているように、経営統合で有価証券運用の規模拡大の生き残りを模索する例があるが、これは運用のプロである、証券や保険業界への挑戦を意味するわけだ。

外部に委託や人材を召喚すれば、地銀の役割を問われる。加えて、京都銀行のように地元企業に投資するケースなら理解を得られても、他県・他国に投資し、利益の大半を稼ぐようになれば地銀の存在意義が問われる。

■好転の兆しが見えるが...

足元の地銀の決算を見ると、「地銀、今期6期ぶり増益へ 前期1割減益から一転」(日本経済新聞2021年5月17日付)と報じられ、好転の兆しがみえる。それどころか21年3月期は「コア業務純益の合計(単体)は約1兆2000億円と前の期から1割ほど増えている」という。

コロナ禍による与信費用、構造改革費用が引き続き重い負担となるも、コア業務純益にみるように、意外にも決算は悪ないという印象だ。金融緩和による市況を考えれば、先に述べたような有価証券運用も寄与しているだろうが、大きな要因は実質無利子・無担保融資、別名ゼロゼロ融資だ。

コロナ禍の経済を底支えするものだが、銀行としては、返済は信用保証協会が、利子は都道府県が補給しており、ほぼリスクなしで融資残高を大幅に増やすことができた。ただ、「ゼロゼロ融資の民間の取り扱いは3月で終了。これからは貸し倒れリスクを伴う自前融資で企業の資金繰りを支えることになる。」(日本経済新聞2021年5月21日付)と指摘されるように、今後は地銀自らリスクをとりながら、融資し、支えることが必要になり、不良債権化のリスクと常に隣り合わせだ。

また、ゼロゼロ融資も実質無利子の期限があるのはもちろん、元本もいずれ返済が必要だ。そのときの経済状態によっては、貸し倒れリスクが大きい。例え、保証がついていて直接的な被害を被らないとしても、貸し倒れが相次ぐような経済状態を耐える体力はあるのか疑問だ。

そして、「膨らみ続ける預金も地銀経営の重荷だ。」とされ、前述のゼロゼロ融資やコロナの各種給付金の影響が大きい。日銀のマイナス金利を避けるためにリスクをとって融資するか、リスクが少ないもののゼロ金利で融資するか、或いは前述した有価証券運用に頼るほかない。

ただ、どの選択肢をとるかは難しい選択だ。リスクをとって融資をすれば、大きな損失になりかねない。例えば、非上場化から何かと話題に尽きないユニゾホールディングスだが、『ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方』(ブルームバーグ2021年2月10日付)と報道され、目安となる格付けも「日本格付研究所(JCR)は昨年12月、ユニゾの長期発行体格付けと債券格付けを非投資適格の「BB+」に引き下げた。」とされる。

このことをJCRのサイトで確認すると、度重なる格下げがなされており、厳しさが増しているとわかる。「コンコルディア46%減益に下方修正 ユニゾで損失50億円」(日本経済新聞2021年4月30日付)となるなど、この低金利下での損失は経営を揺るがしかねない。

さらに、「政府借り入れに金融機関が殺到 応札倍率40倍近くに」(日本経済新聞2021年7月31日付)の見出しのもと、「大手・地銀ともに政府の特会入札に利ざやゼロでも加わり、資金をひとまず待機させる動きを加速している。と報道される。

利ザヤがゼロでも諸経費を考えれば、厳密には赤字であろうし、この応札倍率が低金利下の厳しさを如実に表している。有価証券運用も金融緩和の追い風を受けて、株式市場を中心にマーケットは高値圏で安定するも、いつ相場が急変するか分からない。

このようにただでさえ厳しい環境に重い経費負担、そして『大手行、振込手数料値下げへ 10月から「銀行間」半減で―地銀収益に影響も』(時事通信2021年03月18日付)と追い討ちをかける。

■地銀改革

そんな地銀だが、行政も地銀も、指をくわえてみているわけではない。行政は改革を手助けする仕組み・環境づくりを、地銀はそれらを活用、更には他の民間企業と組みながら改革に着手している。

行政中心に整備された・今後整備される改革を手助けする仕組み・環境づくりは概ね以下のとおりだ。

●日銀は経営統合する地銀に上乗せ金利を支払うと発表。金融庁も統合費用の一部を補助する
●同一地域の地方銀行同士の合併に独占禁止法を適用しない特例法
●銀行の事業会社への出資制限や業務範囲規制の緩和
●地域のニーズや地元からの要請があれば、銀行は保有する不動産の大部分を外部の事業者に貸すことができる

経営統合は、各種報道のとおり、各地で進んでいる。EC、商社、人材紹介、コンサル、投資会社など多くの業態に進出もしている。直ぐにでも立地を活かし、収益への貢献が期待できる不動産の賃貸は興味深い。

図2:複合ビル例 京都銀行河原町支店(出典:京都銀行「河原町支店」が6月14日 新築オープン!リリースより)

一方で、経営統合は経費の負担を減らし、多少のシナジー効果が見込めるにとどまり、持続的な成長には別の戦略が必要だ。新事業の進出も『山口フィナンシャルグループ 吉村猛会長解任 臨時取締役会で』(NHK 2021年6月26日付)騒動のように理解を得る必要があるし、新事業が収益に貢献する保証はない。不動産に至っては、情報量・資金量・立地の面から不動産業界が難色を示す。

こうみると自力での改革は難しいようにみえる。そこに手を差し伸べる形や手を取り合う形の改革の選択肢もある。

●同業大手との連携「SBIとりそな」
●異業種との連携 IT分野をはじめ、全く異なる業種とも
●他地銀との連携 「TSUBASAアライアンス」

SBIやりそな以外にも大手証券会社と組むなどの例もみられる。また、日本郵政グループの全国にまたがる緻密なネットワークの郵便局と連携する動きもある。ただ、『ノジマ社長、スルガ銀副会長を退任 経営対立、資本提携見直しへ』(時事通信2021年05月27日付)のように対立につながるケースもあり、連携の歩調が合うかどうかが焦点となりそうだ。

■規制緩和は諸刃の剣

グローバルにみれば、GAFAをはじめとする巨大IT企業がいつFinTechを主軸に既存の銀行を駆逐するかわからない。直近では、ゴールドマン・サックスが日本で銀行免許所得したように、莫大な資金・ノウハウ・人材を抱える外資系もこぞって参入する。規制が緩くなることは、改革しやすくなるだけではなく、守られなくなることでもある。ふくおかフィナンシャルグループの「ゼロベースで設計するデジタルバンク」=みんなの銀行のように常に新たな可能性を模索する姿勢なしには、地銀に勝ち目はないだろう。

最後に、もう一度地銀を株式の面からみてみよう。「日生や第一、地銀株売却」(日本経済新聞2021年6月6日付)とあるように長年、大口安定株主であった保険会社が相次いで売却すれば、たとえ市場外の取引でも大きな影響をもたらす。

銀行株全体としては、米10年債利回り動き次第だろう。投資家のウエイトとしては、従来のテーパリングに向けて、オーバーウエイトないしはニュートラルとしていたものが、ここのところ10年債利回りが需給に押され低下していることも受け、決算に関わらず、アンダーウエイトとする動きにみえる。

経営環境・株式需給がともに厳しいなか、地銀はどのように戦略を練るのか。生き残りをかけた改革が始まっている。

したがって、地銀株は様子見としたい。

また前回、短期運用とした「玉井商船(9127)」を9月22日の終値2884円で売却した。

玉井商船(9127)
年初来高値(2021年8月18日)    3330円
年初来安値(2021年1月4日)      600円
株式取得時の株価(2021年8月11日) 1034円
取得株数               1300株
売却時の株価(2021年9月22日)    2884円
売却株数               1300株
1株あたりの利益       プラス1850円(騰落率+178.9%)

八田 潤一郎 (はった じゅんいちろう)
慶應義塾大学 八田 潤一郎 (はった じゅんいちろう) 慶応義塾大学法学部政治学科2年。学生投資連合USIC代表。
小学生の時に株式投資を始め、アベノミクス相場で大きく資産を増やすも、2015、16年のチャイナショック、18、19年の米中貿易摩擦を経て、機関投資家や地合いの影響を比較的受けにくいニッチな小型銘柄の長期投資にシフト。20年のコロナショックで分散投資とリスクヘッジの重要性を認識し、FX、不動産、暗号通貨、コモディティ、デリバティブを新たに運用しながら、毎日勉強中。金融を学ぶ「おもしろさ」、投資の「楽しさ」を多くの人に知ってほしいと願う。

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