税調の権威失墜を印象付けた2022年度税制改正大綱 存在感薄れ、今後懸念される首相官邸の「暴走」

「税調の権威もなくなったか」......。

自民、公明両党は2022年度税制改正大綱を、21年12月10日に決定した。しかし、大綱の目玉となった「賃上げ税制」で主導権を終始、握ったのは税調ではなく岸田文雄首相だった。

■首相官邸に押されっぱなしだった税調

税制改正は与党の税制調査会(税調)が方向性を決める伝統がある。政府は与党が決める大綱を尊重し税制改正案を取りまとめることになっている。

しかし、今年は「分配」政策をアピールする岸田首相が税調の頭越しに動く場面が目立った。J-CASTニュース 会社ウォッチが「自民党税調に『異変』 幹部一新、『重鎮』不在で首相官邸と党の綱引きが激化中!」(2021年12月5日付)で税調の弱体化を指摘したが、まさにそうした見立てのとおり、官邸に押されまくった。

それを止めることができない税調の姿を見た与党関係者がつぶやいたのが、冒頭の台詞というわけだ。

岸田首相は就任前から賃上げ税制の改正に強い意欲を示し、12月6日の所信表明演説でも、賃上げ税制の控除率を「大胆に引き上げる」と宣言した。実際、4日後に決定した大綱には大企業の控除率を最大30%(現在は20%)、中小企業も最大40%(同25%)に強化することが盛り込まれた。

政府関係者によると、この引き上げ幅を決めたのは岸田首相自身だった。

じつは、所信表明で具体的な控除率を明言すべく準備が進んでいたという。ただ、このシナリオは自民党税調関係者には説明されていたが、公明党側には十分な根回しができていなかった。さすがに、与党税調で審議中の改正内容を官邸が一方的に公表する事態になれば前代未聞だ。公明党を中心に反発は強く、所信表明の数日前に原稿から具体的な数字が削除された。

ある与党幹部は、異例の経緯をたどった今回の税制改正を振り返り、「官邸がここまで露骨に税調に手を突っ込むことは、かつてなかった」と指摘する。

■税調、首相官邸に抵抗せず?

さらに、この幹部が問題視するのは、自らの懐を荒らされた形の税調側が官邸に抵抗した形跡がほとんど見当たらないことだ。

賃上げ税制は過去に何度も内容が見直されながら、目立った賃上げの促進効果を得ることはできなかったという評価もある。そもそも法人税から賃上げ分の一部を差し引くことで税負担を軽減する仕組みのため、約6割にのぼる赤字企業にはまったく恩恵がないのだ。

与党税調内でも「賃上げ税制を強化しても意味がない」との声が強かったが、官邸を刺激しないため唯々諾々と岸田首相に従ったというのが実態だった。「官邸に花をもたせてやった」。税調幹部の一人は大綱決定後、こううそぶいたが、税制改正の主導権を官邸に明け渡した事実は重い。

元来、官邸が世論の反発を恐れ及び腰になったとしても、堂々と必要な負担増の議論を展開することが税調の使命とされてきたし、実際に、そうした議論を主導してきた歴史がある。

税調OBの一人はこう指摘する。

「岸田首相は消費税率引き上げ、金融所得課税の強化といった負担増の議論から逃げ続けている。それにクギを刺すのが税調だ。単に官邸に追随するだけでは税調で税制改正を議論する意味はない」

税調の存在感低下は、今後の財政論議に尾を引きそうだ。

(ジャーナリスト 白井俊郎)

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