杉村太蔵さんオススメ! 日本の企業は競争活力を取り戻そう!!

ハーバード・ビジネス・スクール教授、ハーバード大学ユニバーシティ・プロフェッサー、マイケル E・ポーターの代表的著書である「競争の戦略」(1980年)は、経営戦略論の古典として評価が高い。MBA(経営学修士)取得者が選ぶ経営学書ランキング1位になっている。

本書「[新版]競争戦略論Ⅰ」は、その研究の集大成とも言える本である。ハーバード・ビジネス・スクール教授で、一橋大学名誉教授の竹内弘高さんが監訳している。

ポーターと言えば、「5つの競争要因」(ファイブ・フォース)や「バリュー・チェーン」などの競争戦略手法を提唱したことで知られるが、本書でもそれらは健在で、より精緻なものとなっている。さらにインターネット、ヘルスケア、企業の社会的責任などアップデートなテーマにも言及している。年末年始にちょっとハードな経営書に挑戦してみようという人にオススメ。新春インタビューに登場したタレントで投資家の杉村太蔵さんも「ぜひ、読んでほしい」と絶賛!する一冊だ。

「[新版]競争戦略論Ⅰ」(マイケル E・ポーター著、竹内弘高監訳)ダイヤモンド社

■5つの競争要因とは?

1999年発行の「競争戦略論Ⅰ」の改訂新版。5本の新しい論文が収められている。訳書は2018年に発行され、現在5刷だから、日本のビジネスパーソンにも浸透している本だ。

「5つの競争要因」(ファイブ・フォース)などに触れる前に、著者のマイケル E・ポーターが日本企業に投げかけている6つの問いについて取り上げたい。監訳者の竹内さんが、こうまとめている。

1 業界の構造とその変化を理解するために、システマティックな分析を行っているか。
2 他社とは違うことをすることと、「何をやらないか」を選択し、トレードオフを行うことが戦略の本質であることを理解しているか。
3 情報技術が、業界構造と競争優位に多大な影響を与えることを理解しているか。
4 合併や買収の問題点、安易な多角化のデメリットを理解しているか。
5 グローバル時代こそローカルに根付いた考え方が重要だと気づいているか。
6 環境、都市の貧困、医療という社会問題を企業が解決できることを理解しているか。

竹内さんは、「日本企業はこれらの問いを考慮しなかったために、失われた20年の間、自分たちがつくった落とし穴にみずから次々とはまっていったのではないか」と指摘している。

第1章で「5つの競争要因」をおさらいしている。(1)新規参入者の脅威(2)サプライヤーの交渉力(3)買い手の交渉力(4)代替品の脅威(5)既存企業間の競合、である。

5つの競争要因の強さによって規定される業界構造は、業界の長期的な収益性を決定づける。

ポーターの本は一見とっつきにくいが、じつは読みやすい。ほとんどの項目で、具体的な例を挙げて説明しているからだ。「業界の変化を自社が有利になるように利用する」ことの例として、インターネットと音楽のデジタル配信の出現を挙げている。

何千もの音楽レーベルが生まれると予測した業界アナリストたちがいたが、実際はそうならなかった。大手レーベルの優位は変わらず、新規レーベルの登場は少なかった。音楽レーベル各社は、デジタル配信のために自社プラットフォームの開発を目指してきたが、大手レーベルはライバルのプラットフォームで楽曲を販売することを躊躇した。この間隙を突いたのがアップルによるiTunesだった。業界構造は大手レーベルに不利なものとなり、大手レコード会社は6社から4社に減った。

■日本企業に戦略はなかった

第2章「戦略とは何か」は、日本企業にとって耳が痛い指摘ばかりである。まず、「戦略」と「業務効果」は違うと宣言している。そして、「日本企業には戦略がない」と批判する。

「日本企業は1970年代および1980年代、TQM(総合的品質マネジメント)や継続的改善といった慣行を真っ先に取り入れ、業務効果の領域で世界的革命を起こした。その結果、日本製造業は長きにわたって、コストと品質の両方で優位性を享受してきた」

しかし、それに安住してしまった。ソニーやキヤノンなど戦略的ポジションを築いた企業は例外で、ほとんどの日本企業は、互いに真似し、押し合いへし合いをしている、と指摘している。

あらゆる種類の製品、サービスを提供し、あらゆる流通チャンネルに対応する、こうしたやり方は「戦略」的ではないのだ。

「独自性の核」となるものを発見し、戦略を取り戻せ、と書いている。最も特徴的なもの、最も収益性が高いもの、最も高い満足度を提供しているものを見極めることで、見えてくるという。

誰もが「IT」の重要性を叫ぶ今、ITで競争の性質が変わる、と書いている。業界構造が変化し、これまで存在しなかった新しいビジネスが生み出されているからだ。航空会社や金融サービス、運輸、マスメディアなどの業界での影響を指摘している。

「インターネットは何を変えたのか」という問いを発している。インターネットそのものが競争優位になることはまずない、として、戦略の原則は変わらないと考えている。

インターネットを使うことで市場は拡大するが、多くの場合、同時に収益性が低下する、と書いている。たとえば、自動車販売。地の利の重要性が低下したため、市場は地元から地域へ、全国へと広がっていく。その結果、あらゆるディーラーが潜在的なライバルとなり、価格競争が激しくなる。

■「企業が成功するためには社会が健全でなければならない」

企業の社会的責任(CSR)についても論じている。企業と社会は互いに必要とし合っている、という考え方が基本にある。

「企業が成功するためには社会が健全でなければならない。教育や医療、機会均等は、生産性の高い労働力を確保するための前提である。(中略)コミュニティを犠牲にして、おのれの利益だけを追求するような企業にとって、成功は幻想にすぎず、たとえ実現しても一時的である」

そのうえで、自社の事業と関連性が高い社会問題を選択すればいい、としている。

本書は理論と実例が、じつにうまく組み合わせられた記述からなる。図表も豊富でわかりやすい。企業の競争がより豊かでよい社会をつくるという哲学が根底にある。「競争」とか「戦略」という言葉の響きに惑わされず、学ぶべき内容に満ちている。

ちなみに、一橋大学が開設した大学院大学、国際企業戦略科(ICS)は、「ポーター賞」を設けているという。これまで武田薬品工業、シマノ、ファーストリテイリング、日本電産、ぐるなび、星野リゾート、オープンハウスなど60社以上が受賞しているそうだ。

いずれもポーター理論を実践し、優れた収益性を維持している。

(渡辺淳悦)

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「[新版]競争戦略論Ⅰ」
マイケル E・ポーター著、竹内弘高監訳著
ダイヤモンド社
2750円(税込)

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