中国経済の減速止まらない! エコノミストが警戒する「ゼロコロナ」政策の「固執」、習総書記の「思惑」

世界経済を牽引してきた中国経済の減速が危険水域に入ってきたようだ。

2022年1月17日、中国国家統計局が2021年10〜12月期のGDP(国内総生産)の実質成長率を前年同期比4.0%増と発表。4〜6月期の7.9%増、7〜9月期の4.9%増に比べ、一段の失速が鮮明になった。

また、米欧の金融引締め策とは真逆に2回も利上げに踏み切った。不動産バブル崩壊も深刻だ。もう中国経済の成長は期待できないのか。エコノミストが警戒する要因とは?

■J・オーウェル『1984年』を思わせる恐怖の全体主義

エコノミストたちの多くが中国経済の減速に拍車をかけている最大の要因が、徹底した「ゼロコロナ」政策だと指摘する。

中国では現在、人口500万人都市ならば、3日以内に全住民のPCR検査を完了できる。中国としては珍しく1000人規模の新型コロナウイルス患者が発生した西安市(人口1300万人)では、全住民が完全に外出禁止となる強権的な都市封鎖が昨年(2021年)末から続いている。

その影響は目下のところ、市民生活ばかりか、幹線道路も封鎖され、周辺の大都市の物流は止まったままだ。新型コロナの封じ込め政策は、経済の大きな足かせとなっているのだ。

そんな中国の「ゼロコロナ」政策の異常さを、矢野経済研究所の水越孝社長が、「コラム:今週の『ひらめき』視点 中国経済減速。2022年1−3月期、コロナ対策の成否が鍵」(1月20日付)の中で、部下の体験談を通じてこう批判する。

「実は当社の上海現地法人の社員もこうしたコロナ対策を、身をもって体験することとなった。1月11日、彼は河北省石家庄市へ出張したが、現地に到着するとスマートフォンの健康コードの色が緑から黄色に変わっていた。そのため、当局が指定するホテルに強制隔離、2回のPCR検査を受けることとなった」

「健康コード」とは感染リスクを緑・黄・赤で表示するスマホアプリ。当局の身分証明システムと連携しており、公共施設、交通機関、オフィスビル、ホテルなどへの実質的な通行証として運用されているものだ。

当局が隔離した理由は、その日、天津で新たな感染が確認されたためだという。しかし、出張先の石家庄と天津は300キロ以上も離れている。「ではなぜ?」とコラムの中でも強調していた。読み進めると、実は12月29日、該当社員は出張で天津を訪れていた。そして、2週間前の行動履歴を当局がつかんでおり、遡及して隔離されたのだった(その後、彼は陰性が確認され、無事上海へ戻ることができたようだ)。

過剰なコロナ対策が危険すぎる(写真はイメージ)

ここでの問題点は、スマホアプリや街頭の顔認証カメラなどによって、全国民の行動が当局に把握されていることだ。水越孝社長は、コラムでこう記す。

「あらためて『ゼロコロナ』の徹底ぶりに驚かされるとともに、小説『1984年』(著者:ジョージ・オーウェル)に描かれた世界を想起せざるを得ない出来事であった」

小説『1984年』といえば、ご存じ「ディストピア」(ユートピアの逆:近未来の暗黒世界)小説の金字塔だ。一党独裁によって人々が常に監視され、最後は人間の思考力や言語さえ失われる全体主義の恐ろしさを描いた。

■習近平が目指す「社会主義現代化強国」とは?

リコー経済社会研究所主任研究員の武重直人氏も、習近平総書記の「永年独裁」体制が最終章に近づいており、中国経済の活力を奪ってしまうのではと懸念する。

武重氏のレポート「習総書記が3期目続投、『永年支配』へ=今秋党大会で毛沢東時代に回帰?=」のなかで、習氏は、ケ小平が掲げた「集団指導体制」を壊し、2037年ごろまで5期連続で党トップにとどまり、習氏が長期ビジョンとして掲げる「社会主義現代化強国」を目指していくのではないか、と推測している=図表参照。

(図表)習近平総書記が狙う「社会主義現代化強国」の長期ビジョン(リコー社会経済研究所作成)

習氏が目指す「社会主義現代化強国」とは何か。武重氏のレポートには、

「2021年7月、習はケの掲げた小康社会(=ややゆとりある社会)の達成を宣言し、新たな段階を迎えたことを内外に印象づけた。さらにケの『改革開放』『先富論』(=豊かになれる者から先に豊かになる)に代わって、習は『新時代』『共同富裕』(=格差解消)を新たなキーワードとして打ち出した」
「習は行動でも示した。電子商取引最大手のアリババ集団や不動産開発大手の恒大集団など大資本家への規制を強め、資本家の活用で市場経済を推進したケ小平時代からの転換を鮮明にした」

とある。こうした路線を進めるために、政敵の封じ込めや、党の政策を政府機関に浸透させる組織の格上げなどを着々と行っているという。

■「ゼロコロナ」でサプライチェーンが大混乱

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏も強権的な「ゼロコロナ」政策が、世界経済の大きなリスクになっている、と警鐘を鳴らす。コラム「中国ゼロコロナ政策が日本・世界経済の下振れリスクに」(1月20日付)のなかで、都市封鎖(ロックダウン)によって工場の操業停止が相次いでいる、と指摘する。

「トヨタ自動車の天津の合弁工場では、1月10、11の両日に稼働が停止された」「独フォルクス・ワーゲンの天津市内の工場も閉鎖された」「西安では、世界の半導体メーカー大手2社で生産に支障が生じている」「半導体メーカーの韓国サムスン電子や、スポーツ用品大手の米ナイキ、独アディダスなど世界的な大手企業を顧客に抱える中国の繊維企業の生産に支障が生じており、グローバル・サプライチェーンの混乱が始まっている」

それも、寧波などでは10件の感染が確認されために、ナイキやアディダス、ユニクロなどのサプライヤーである申洲国際集団の生産拠点が閉鎖に追い込まれる厳しさだ。

「ゼロコロナ」政策で北京冬季五輪を乗り切ろうとする習近平総書記だが...(北京五輪パラリンピック組織委員会公式サイトより)

そのうえで木内氏は、米ゴールドマン・サックスが感染拡大を理由に、中国の2022年のGDP成長見通しを前年比4.8%から4.3%へと下方修正したことなどをあげ、

「中国経済の減速は、今年前半中は続くのではないか。その影響は、グローバル・サプライチェーンの混乱を通じて世界経済にも及び、世界経済の大きな下振れリスクとなってきているのが現状だ」

と警戒している。

今年秋、中国共産党は5年に1度の党大会を開く。党大会がある年は、党幹部たちの昇進がかかっているため、経済政策の業績誇示をもくろんでGDPの成長見通しが上がるのがこれまでの「常識」だった。

しかし、中国経済の減速によって、そのシナリオも危うくなったと指摘するのが、大和総研主席研究員の齋藤尚登氏だ。齋藤氏のレポート「中国:『ゼロコロナ』への固執がリスク要因に」のなかで、やはり「ゼロコロナ」政策が元凶だと指摘する。

「こうしたシナリオが画餅に帰す可能性を高めるのが不動産市場の低迷と『ゼロコロナ』政策の行方である」「かつて2003年の新型肺炎(SARS)を『終息』させた成功体験を持つ中国が、党大会で共産党統治の優位性の証左としてゼロコロナをアピールしたい気持ちは分からなくはない」「しかし、外部との接触を完全に断つのは不可能であり、いずれ『ウィズコロナ』への道を模索する必要性が高まろう」「ゼロコロナへの固執如何によって、景気下振れ懸念が高まることに留意したい」

独裁体制だからできる「ゼロコロナ」政策が、中国経済の首を絞めているといえよう。そして、習近平総書記の独裁がますます強まれば、世界経済の首まで絞めかねない危険性をはらんでいる。

(福田和郎)

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