もはやリモートはリアルの代替ではない...日本経済再生のチャンス!

新型コロナウイルスの感染拡大によって、周知のとおりだが、リモートワークが広がっている。それ以外にも、リモート面会や面接、オンライン営業なども進んできた。本書「リモート経済の衝撃」(ビジネス社)は、この変化を前向きにとらえ、日本経済が再生する最後のチャンスだと訴えている。

「リモート経済の衝撃」(野口悠紀雄著)ビジネス社

著者は一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さん。専門は日本経済論。ベストセラーになった「『超』整理法」のほか、「情報の経済理論」「バブルの経済学」などの著書がある。

野口さんは、交通と通信が発達した歴史を踏まえ、人類史上、電話のつぎの大きな技術革新が、テレビ会議によってなされたと考えている。そして、「リモートはリアルの代替ではなく、活動可能性を広げるもの」だと書いている。

■仮想空間「メタバース」で会議が開かれる新時代

日本の多くの人が、リモートワークは一時的な現象で、コロナが終息すれば、社会は元の「健全な形」に戻るだろうと考えているが、野口さんはこれを否定する。リモートへの移行は、コロナ後も残るニューノーマルとなって、新しい社会をつくる、と見ている。本書では、遠隔治療、オンライン教育など、さまざまなリモートの可能性について検討している。

コロナ禍で、テレビ会議での打ち合わせやオンライン営業が当たり前になる、「社会的ルール」の転換が起こった。そして、これまで普通だった「移動」の多くが無駄であることに我々は気がついた。

多くの企業が導入したテレビ会議の効果は2つあるという。1つは、コストをかけて対面しなくてもよくなったこと。もう1つは、これまで離れた場所にいるために頻繁に連絡をとれなかった人々が、より緊密に結びつき、連携し合うことが可能になったことだ。

日本での在宅勤務率は諸外国に比べて低い。日本の組織での仕事の進め方が、それに合わないからだ。ゆえに、勤務評価の基本を成果主義に転換する必要がある、と野口さんは提言している。

たしかに、在宅勤務(リモートワーク)の問題点がないわけではない。何気ない会話がなくなり、アイデアが出にくくなると言われている。しかし、オフィスで非公式な接触があっても、必ずしもアイデアが生まれるわけではないのではないか。仮に生まれても、日本の組織はそれを活かせないことが多い。逆に、オンラインの接触からアイデアが生まれることもある。今後は、オフィスと在宅勤務のハイブリッドが模索される、と見ている。

メタ社は、会議などを仮想空間「メタバース」で開くサービスを開始した。これによって、今のウェブ会議の問題点を克服できるかもしれない。しかし、自分が漫画のような姿の分身(アバター)になることに抵抗感をもつ人も多いのではないか、と指摘する。

そのうえで、カジュアルな集まりや娯楽はアバター方式で、講義や仕事のコミュニケーションはホログラムで、という棲み分けがなされていくと見ている。世界のさまざまな企業がメタバース構築を目指しており、NFT(非代替性トークン)というブロックチェーンの新しい技術を用いると、メタバース内のデジタル創作物を売買することもできる。もっとも、新しい法規制が探られており、仮想空間だけで生活できるわけではない、とクギを刺している。

■進まない日本の遠隔治療

ほかにも本書では、医療や教育など、個別の領域でのリモートについて、検討している。

なかでも、遠隔治療の最先端では、目を見張るような技術が開発されている。医療先進国では、コロナの感染拡大に対応すべく、2020年春に医療体制を遠隔治療に向けて大きく転換した。アメリカでは、在宅のまま医療サービスが受けられる遠隔医療プラットフォームが爆発的に広がった。

しかし、日本では医師会の反対などのために、遠隔治療はほとんど利用されていない。遠隔治療への転換は、コロナ対策だけでなく高齢化への対策として、日本で重要なインフラとなるので、拡充を求めている。

教育についても、日本の取り組みは遅れている。世界の多くの国が一斉にオンライン教育を導入した。ところが、日本では基礎教育段階のオンライン教育は、公立校では進展しなかった。他方、私立校の取り組みは早く、格差が広がっている。

文部科学省は、小中学生に1人1台のデジタル端末を整備する「GIGAスクール構想」を進めた。野口さんは、機器の配布は確かに必要だが、それより重要なのはオンラインで何を伝えるかだ、と指摘している。

とくに、大学教育をオンラインだけで行うことに対しては、学生から不満がある。それでは、オンラインでできないこととは、一体何なのか? 「キャンパスに通うこと」それ自体に意味があるのか、とあった。野口さんによると、大学の歴史において、初めて本質的な問いが突きつけられている。新たなオンライン型高等教育にとって代わられる可能性も示唆している。

一方、ビジネスにも変化が生まれた。オンラインセミナーは、ラジオやテレビのような一方向の伝達ではなく、一体感をもつ人々とのコミュニケーションとして注目されている。この分野でも、リアルな講演やセミナーの代用品ではなく、新しい可能性を開くもの、と期待している。

実際、これまで産業の中心だった交通関連企業の業績が落ち込み、新しく登場した「リモート関連企業」が目覚ましく成長している。前者の代表が鉄道会社やエアラインであり、後者の代表がGAFAやZoomだ。

働き方に関しても、出張を見直してテレビ会議などに切り替えている。コロナが終息しても元には戻らない可能性が高い。リモート技術の時代に、リニア新幹線は必要なのだろうか? そんな基本的な問題も提起している。

さまざまな分野でリモート化が進めば、地方都市との距離がなくなり、経済活動が大都市から地方に移るだろう、と野口さんは考えている。日本の地域構造が変わり、個人個人のデジタル化が浸透することで、日本再生が進むと期待している。

(渡辺淳悦)

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「リモート経済の衝撃」
野口悠紀雄著
ビジネス社
1760円(税込)

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