「選挙目当てが過ぎる!」 岸田政権の緊急経済対策、新聞社説とエコノミスト総批判...「ガソリンより電気、ガスの対応を」の声も

「選挙目当てが過ぎる!」 岸田政権の緊急経済対策、新聞社説とエコノミスト総批判...「ガソリンより電気、ガスの対応を」の声も

緊急経済対策 選挙目当てか

「選挙目当てが過ぎないか」「国民に痛みを我慢させる受け身の対策でしかない」

岸田文雄首相は2022年4月26日、物価高を受けた緊急経済対策を決めた。しかし、主要紙の社説やエコノミストたちからは、総スカン状態だ。今年7月に行われる参議院選挙を優先させたため、抜本的な構造改革がおろそかになっているというのだ。

いったい、どういうことか。主要紙の社説とシンクタンクリポートを読み解くと――。

■「車社会である地方の票を意識したガソリン対策」

報道をまとめると、緊急対策は4本柱で構成されている。主な内容は次のとおりだ。

(1)原油価格高騰対策(1兆5000億円)=ガソリンの小売価格の目標を172円から168円に引き下げ。石油元売り各社への補助金を1リットルあたり最大25円から35円に引き上げ。
(2)エネルギー・原材料・食料などの安定供給(5000億円)=電気自動車などへの集中的な導入支援。
(3)中小企業対策(1兆3000億円)=原材料費上昇を価格転嫁できるよう支援。実質無利子・無担保融資を9月末まで延長。
(4)生活困窮者への支援(1兆3000億円)=低所得の子育て世帯に子ども1人あたり5万円給付。

この4本柱の中でもとくに、4月27日付の主要新聞社説で批判が集中したのが、(1)の原油価格高騰対策だ。

毎日新聞「選挙目当てが過ぎないか」は、「(石油元売り各社への)補助金による値下げ幅はトリガー条項を上回る水準になった。時期も9月末まで延ばし、さらなら延長も検討する。選挙向けのアピールとしか思えない」としたうえで、こう指摘した。

「政府が市場に長期間介入するとゆがみが生じる。化石燃料の消費が減らず、省エネや脱炭素の取り組みにブレーキをかけかねない」

ガソリン代高騰の補助金引き上げは市場機能を失わせる(写真はイメージ)

日本経済新聞「整合性に欠ける物価高対策」も、「車社会である地方の票を意識した策だろう」としたうえで、「ロシアのウクライナ侵攻を背景にしたエネルギー高騰は収束がみえない。(中略)市場機能をゆがめる補助金を使った一時しのぎには限界があり、弊害も多い」と、何より正常な市場機能を壊しかねないことに懸念を示した。

また、日本経済新聞は政府と日本銀行との間の政策の齟齬(そご)も問題視した。

「政府が物価高対策を出す一方、日銀は十分に上がらない物価を底上げする強力な金融緩和を続ける。インフレ対応で大幅な利上げを構える米国との金利差が広がるのは自然な流れだ」と指摘。「岸田政権には持続性と整合性を満たした総合的な戦略を求めたい」と結んだ。

同じエネルギーの高騰でも、ガソリン対策を手厚くしながら電気、ガスの高騰対策が不十分なのは不公平ではないか、としたのは読売新聞「燃料価格の抑制は限界に近い」である。

「電気やガスの料金も上がる中、レジャーにも使うガソリン価格だけを引き下げることを疑問視する声がある。高騰が長期化するのなら、燃料を多く使うハウス農家や運輸業、ガソリンが生活に欠かせない家庭などに絞った支援に切り替えていくことが必要ではないか」

と、代案を示した。

産経新聞「価格介入はもはや限界だ」も、読売新聞同様に、「行楽客の自家用車使用なども一律で補助対象となるなど問題がある。国民負担も大きい」と、不公平さを問題視した。そのうえで、一時的な対策ではなく、総合的な対策を求めた。

「欧米各国は、資源価格の高騰に対応した総合的なエネルギー戦略の策定を進めている。日本も目先の価格対策ではなく、骨太の産業構造改革に取り組むべきだ」

■物価上昇の「痛み」を我慢させるだけの支援

一方、エコノミストたちはどうみているのだろうか。

「緊急対策には物価上昇を止めるという発想はなく、すでに起こってしまった物価上昇の『痛み』を我慢する内容だ」と批判するのは、第一生命経済研究所の首席エコノミスト熊野英生氏だ。

熊野氏のリポート「政府の物価対策〜『止める』より『我慢する』対策〜」(4月26日)では、「物価上昇の『痛み』を我慢する受け身の対策」の問題点を以下の4つに整理している。

ガソリンより電気、ガス代の値上げのほうが家計への負担が大きいのに手当がされていない(写真はイメージ)

(1)家計給付が止まらない=低所得の子育て世帯支援のため子ども1人当たり5万円が支給される。コロナ禍で政府は給付金を連発、野党の多くも賛成しているため、誰も批判しなくなってきた。岸田政権は、約半年のうちに2度も大きな給付金を散布。財政出動の巨大化に対する懸念が希薄化した。

(2)ガソリン対策だけで十分か=政府はガソリン補助金を引き上げる方針だが、ガソリン以上に電気代・ガス代のほうが家計の負担増になっていることへの対応ができていない。電気代は、市況高騰から8〜9か月のタイムラグで料金に反映するので、4月の市況は今年末頃から表れてくる。目下の電気代上昇だけでも前年比20〜25%増なのに、それが少なくとも年内にわたって継続することへの手当てが行われていない。

(3)円安対策をどう考えるか=物価上昇の「痛み」を、政府が緩和しようとすることには限界がある。政府が行うべき対策は行き過ぎた円安を止めることだ。相場をコントロールすることは無理なので、日銀の金融緩和の姿勢を再考してもらうということになる。

(4)中長期の視点があってもよい=政府の物価対策だが、実質は円安対策の側面が大きい。円安は、日米金利差が拡大する限り継続する。つまり、物価上昇を「我慢する」だけでは、財政資金がいくらあっても足りなくなる。むしろ、円安メリットをいかに多く取り込むかが中長期の円安対策となる。

日本銀行の「金融緩和策」が物価高を招いているのに(写真はイメージ)

製造業のなかでも輸出割合が低い中堅・中小企業の輸出拡大や、小売業関連で越境EC(国際的電子商取引)により海外販路を伸ばせるよう、公的機関が斡旋することも手だ。訪日外国人観光客にとって「安い日本」が魅力になる。近い将来、インバウンド需要を再開することを政府は考えてもよい。

......などと、「一過性ではない円安対策を練ること」を岸田政権に求めた。

■ガソリン補助金は出口戦略が難しく、長期化の恐れが

また、「今回の緊急経済対策では少ない経済効果しか見込めない」とする試算を発表したのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

木内氏のリポート「緊急経済対策の経済効果試算:GDP押し上げ効果は0.4兆円、GDP比0.06%」(4月26付)では、低所得向け子ども給付金などの一時的な所得増は、消費に回るのが25%程度なので、1年間の名目GDP(国内総生産)をプラス0.04%押し上げる効果しかない、と指摘する。

子どもへの給付金の効果は期待できない(写真はイメージ)

また、補助金の対象となるガソリン(及び灯油)が家計の消費に占める比率は、エネルギー関連支出全体の29%と3分の1にも満たない。そのため、GDPをプラス0.02%押し上げる効果しかない。両方合わせて、GDPをプラス0.02%押し上げる効果があるだけだ。木内氏は、

「これでは、有効な燃料費高騰、物価高騰への対策とは言えないのだろう」

として、今回の緊急経済対策には多くの問題点、疑問点があると列挙した。整理してまとめるとこうだ。

(1)そもそも緊急経済対策が必要なほど景気は悪化していない。物価上昇はウクライナ問題以前からあり、ウクライナ問題を理由に緊急経済対策を実施する必然性は乏しい。

(2)物価高によって高まる家計の負担のうち、ガソリン補助金制度はそのごく一部にしか働きかけない。

(3)ガソリン補助金は価格メカニズムを歪め、脱炭素の流れに逆行する。また、出口戦略が難しく、原油高円安の傾向が修正されない限り、長期化し財政負担が膨らむ。

(4)低所得者世帯の子ども給付金支給は物価高騰とは直接関係がない。物価高騰などのショック下でも低所得者の生活が支えられるよう、社会保障制度を見直すことが優先ではないか。

(5)補正予算で5.5兆円という巨額予備費の水準が維持された。巨額予備費には、国会、国民の目が行き届かない形での支出に用いられる問題がある。

(福田和郎)

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