参議院選、各党「場当たり的」物価対策にエコノミストが逆提案! 「円安メリット活用」「従業員持ち株で賃金アップ」を

2022年7月10日の投開票に向けて参議院選挙が始まった。

前回の衆議院選挙(2021年10月)ではコロナ対策が焦点になったが、今回はウクライナ問題によって一段と高まった物価高対策が最大の争点となる。

各党党首の討論会でも物価高と経済に話題が集中した。エコノミストたちは各党の政策をどうみただろうか――。

■今こそ円安メリットを成長戦略に

参議院選挙の主要テーマの1つに物価対策がある。各党の物価対策のメニューには大きく分け、(1)給付金・補助金支給(2)消費税減税(3)最低賃金引き上げ、などの3つが挙げられている。

しかし、「いずれも痛み止め療法にすぎない」と批判して、具体的に3つの抜本的な対策を提案するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。

熊野氏のリポート「物価対策の考え方〜参議院選挙前の政策論争〜」(6月23日付)では、まず「円安をマイナスととらえず、メリットとして活用しよう」としてこう提案する。

「筆者(=熊野氏)ならば、『痛み止め』的な物価対策ではなく、物価上昇を受け止められる経済環境づくりを論じる。強い経済の実現である。(中略)成長戦略の推進は、経済を成長させて、拡大再生産プロセスを強化することになり、それを基盤にして賃金が上昇していく。現在は、円安メリットを利用することが、成長戦略の最右翼になるだろう」

今年3月上旬の1ドル116円から直近の136円まで、ごく短期間でプラス17%の円安進行となった。その円安のメリットを拡大させることが、企業収益を増やし、賃金を増やす原資を生み出す。輸出企業は、販売価格を値下げして輸出数量を増やすことができる。

すでに海外事業を手掛ける製造業ならば、製品の製造先を海外工場から国内工場にシフトさせることでコストを引き下げて、利益を増やせる。中堅・中小企業も、新しく海外企業と取引を増やして、割安な価格の製品供給ができる。それを政府が後押しするのだ。

物価対策を「痛み止め」にすぎないと指摘されている岸田文雄首相

熊野氏は、円安メリットは製造業の輸出だけではないという。

「最近は非製造業であっても、EC(電子商取引)サイトを通じて、海外の消費者に製品を売るチャネルがある。越境 EC(クロスボーダー電子商取引)の拡大である。このECは海外だけではなく、コロナ禍では国内取引も拡大した。(中略)最近は、ビデオ会議システムが普及してきており、それを利用して輸出やEC拡大などの相談窓口を公的機関がサポートすることも可能だろう」

と、政府や公的機関の支援に期待する。

もう1つ円安のメリットにインバウンド(訪日外国人)の拡大がある。

「政府が主導して円安メリットを拡大させることは、訪日外国人の受け入れ制限を緩和すれば可能である。6月1日から、入国者数を2万人に拡大した。(中略)この入国制限を1日4万人に増やせば、年間換算で最大約2.2兆円の需要増にすることが期待できる」

円安を活用するインバウンドを拡大しよう(写真はイメージ)

現在はツアー客だけだが、個人旅行を解禁すれば、旅行単価を引き上げて消費増をさらに促進することができる。人口減少で悩んでいる地方経済にはプラスが大きい。

そして、熊野氏はこう結ぶのだった。

「政策論争は、目先の『痛み止め』をどう示すかではなく、力強い経済をいかにつくるかを論じてほしい。近年の与党は、野党の主張に似てきていることが心配だ。政治学の研究では、政権基盤が脆弱な南欧諸国では、減税や給付金の散布が選択されやすく、財政再建が難しいとされる。現在の日本は、政権基盤が脆弱でもないのに、安易な財政拡張が行われやすくなっている」

■日銀が利上げに踏み切っても、プラス面大きい?

国会議事堂

熊野氏と同様、「場当たり的な物価対策ではなく、選挙では成長戦略を論じてほしい」と主張するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

木内氏のリポート「参院選公示:場当たり的な物価高対策よりも賃上げ環境を整える成長戦略強化と金融政策の正常化を」(6月22日)では、与党の給付金支給策も野党の消費減税も一刀両断だった。

「物価高対策では、各党ともに財源確保を伴わない『バラマキ的』な色彩が強い政策を打ち出した。自民党は(中略)ガソリン補助金、生活困窮者向け給付金、食料価格安定策などを打ち出している。(中略)他方、野党からは消費支援策として消費税率の時限的引き下げや廃止の提案が相次いだ。一時的な性格が強い物価高に対して、税収基盤を中長期的に大きく損ねてしまう消費税減税や廃止で対応するのは適切ではない。それは、将来の国民負担への配慮を欠く無責任な姿勢と言える」

そして、木内氏は日本銀行が政策を修正して物価安定へのコミットメントを示すべきだとした。

「仮に、日本銀行が政策を修正して短期、長期金利を引き上げるとしても、景気、物価に与える直接的な悪影響は限られるはずだ。短期金利を引き上げるとしても、米国のような急速な引き上げは考えられず、現状のマイナス0.1%と0%、あるいはプラス0.1%などに引き上げるにとどまるだろう。正常化策が急速な円高につながる場合には、株価下落も伴い短期的には景気に逆風になり得るが、そうしたマイナス面よりも、為替の安定、中長期のインフレ期待の安定を通じた経済へのプラス効果が勝るだろう」

というわけだ。

さらに強調したのは、「人への投資」と将来世代に「成長戦略」を示し、経済に活力をよみがえらせることだった。

「政府には、成長戦略を一段と推進することで、経済の潜在力を高め、賃金が上昇する環境を整える政策に注力して欲しい。骨太の方針で示された『人への投資』など4つの重点投資にさらに肉付けをすることが喫緊の課題だ。また、出生率の上昇、外国人労働力の活用拡大、インバウンド戦略の再構築など『人』に関わる成長戦略を強化して、デジタル田園都市国家構想、東京一極集中是正、地域経済活性化などの政策と組み合わせることで、日本経済の潜在力向上を図ってほしい」

と、熱く訴えたのだった。

■「老いたる発展途上国」ニッポンの若者に希望を

一方、「人への投資」に関連する話題では、日本は「老いたる発展途上国」に成り下がったとして、若い世代に希望を与える政策を進めるべきだと訴えるのが、公益財団法人・国際通貨研究所上席客員研究員で京都大学名誉教授の村P哲司氏だ。

村P氏のリポート「骨太の方針2022 を考える〜隠された『老いたる発展途上国』再生の鍵〜」(6月21日付)では、日本の「人への投資」がいかに減少しているか、OECD(経済協力開発機構)のデータから説明する。

「(日本における)人の劣化は、博士号取得者の減少など相対的低学歴化、デジタル人材の大幅不足、世界での引用論文数の順位下落、その他各種の指標に表われている。(中略)OECDによると、日本の教育への公的支出(GDP比)は、統計対象約40か国の最下位グループに属し、2005年35位、2018年は39位で、日本より下はロシア、リトアニア、アイルランド3か国のみである。企業研修も縮小し、官民で人材育成を怠ってきたツケは大きい」

子どもへの投資こそ成長戦略の柱だ(写真はイメージ)

そして、日本の若者の「絶望の声」を内閣府の調査を引用しつつ、こう説明した。

「内閣府による若者の意識国際調査(2013年)では、『自分の将来に明るい希望を持っている』と答えた割合が、米国91.1%、スウェーデン90.8%、ドイツ82.4%に対して、日本の若者は61.6%と調査対象7か国(他は英仏韓)中最低で、かつ2019年には59.3%に下がっている。希望を持てない若者の割合が、他の調査対象国の4〜2倍にのぼり、その理由として個人・国レベルの経済状況との相関が示唆されている」

しかし、村P氏は、岸田内閣の「骨太方針2022」の中の「少子化対策・こども政策」に一抹の希望を見いだした。

「こども政策については、こどもの視点に立って、必要な政策を体系的に取りまとめた上で、その充実を図り、強力に進めていく。そのために必要な安定財源については、(中略)こどもに負担を先送りすることのないよう、応能負担や歳入改革を通じて十分に安定的な財源を確保しつつ、有効性や優先順位を踏まえ、速やかに必要な支援策を講じていく」

と書かれていたからだ。

財政の健全化目標が骨抜きにされた「骨太の方針」のなかで、この箇所だけ「こどもに負担を先送りすることのないように」と記されていたのだ。村P氏はこう結んでいる。

「この記述は、こども政策の財源の体裁をとっているが、実はあらゆる政策に共通する基本原則である。この原則を骨太方針の中心に据えれば、老いたる途上国は間違いなく再生するだろう。遅すぎはしない。(中略)これを貫徹する政治的覚悟があれば、青少年は希望を取り戻す」

■NISAやiDeCoより、従業員に株式報酬制度

ところで、岸田文雄政権が参議院選挙の旗印にした「新しい資本主義」の中には「賃上げ」と「資本所得倍増」の2つが掲げられているが、企業経営者の立場からは矛盾するという。はたして実現可能なのだろうかと、疑問を投げかけるのが東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹氏だ。

森信氏のリポート「『新しい資本主義』、『賃上げ』と『資本所得倍増』の二兎を追うことは可能か〜株式報酬の可能性」は、この二律背反するテーマをこう説明する。

「『新しい資本主義』と『骨太2022』を注意深く読むと、前者は、企業行動として従業員優先・賃上げを志向する一方、後者は株主優先・資本所得倍増を志向しており、方向が異なるようにも読める。(中略)『新しい資本主義』にはしっかりした総論がないので、企業経営者としては、賃上げか配当増加か、どちらを優先させるべきか迷ってしまう」

図表は2000年度と2020年度の大企業の財務の動向を比較したものだ。これを見ると、人件費はまったく増えていないことがわかる。しかし、株主への配当金は5.8倍に増え、内部留保も2.8倍に増加した。大企業は従業員より株主を大事にしているわけだ。

(図表)大企業の財務の動向(東京財団政策研究所の作成)

そこで、森信氏はこう続ける。

「賃上げも行い、資産所得(配当)も伸ばすという、企業から見れば方向の定まらない行動を矛盾なく行う方法がないわけではない。それは、従業員持株会制度の拡充、さらには従業員への報酬として株式を支給することである。従業員が、退職まで売却できない譲渡制限付き株式を賃上げ分として受け取れば、勤労インセンティブも高まるうえ、企業の利益分配の受け手になるので、『賃上げも資産所得増加も』ということになる」

経営陣に対しては、東京証券取引所も「自社株報酬」の導入を推奨しており、取締役以外の一部従業員にも広がりつつあるという。また、従業員持株会と信託を組み合わせたESOP(Employee Stock Ownership Plan)信託を採用する企業も出ている。

森信氏は、日本経済新聞(2021年11月1日付)が報じた、化学メーカー「ダイセル」(大阪市北区)が管理職に自社株を報酬の一部として与える制度を導入した例を紹介した。記事によれば、生涯賃金が1000万円増になるという。

森信氏は、

「従業員持ち株制度や株式報酬制度は、税制と極めて密接な関係にある。税制優遇などのインセンティブが必要ということであれば、勤続年数 20 年以上で退職所得控除額が優遇される退職金税制を見直し、勤続年数に関連付けることのない仕組みに改めることとセットで行えばよいのではないか。(中略)NISAやiDeCoの拡充だけで個人の資産所得が倍増するとは思えない。視野を広げて見直すことが必要だ」

と、岸田政権に注文をつけることを忘れなかった。

(福田和郎)

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