副業先での2時間勤務は「残業」かも!? 人事担当者が知っておきたいポイントを専門家に聞いた

みずほ銀行や三菱地所など日本を代表する大企業でも副業解禁が始まっています。社員から副業の希望がきているが、どう対応したらいいのかわからない...... と途方に暮れている人事担当者も多いのではないでしょうか。

コロナ禍で自社の残業が抑制されるなか、就業時間後に他社で働くことで、穴埋めをしたいという声もあがっているかもしれません。

時代は副業解禁に進みつつあるということはわかっていても、いざ自社で導入するとなるとノウハウもないし、面倒な論点が多そうと途方に暮れている人事担当者も多いのではないでしょうか。

今回は、副業・兼業制度や労務デューデリジェンスに定評のある労務管理専門家の寺島有紀さんに、論点を整理していただきました。

■労働時間は単純に2社分を合算できない

副業をめぐり、抑えておきたい論点は、

(1)労働時間の通算
(2)従業員の健康管理
(3)競業避止や秘密保持

の3点があります。

(1)の労働時間の通算については、労働基準法で「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」となっており、副業・兼業の場合に、本業先と副業先の労働時間の通算が必要になります。

つまり、本業先で1日8時間労働したあとに、副業先で2時間アルバイトした場合、合計10時間働いたとして、副業先で2時間分の125%の残業代が必要になってしまうということです。

副業先の立場からした「2時間しか働かせていないのに?!」と思うところでしょう。

同様に本業先にとっても問題があります。というのも、現在の労働基準法では原則「時間外労働と休日労働の合計で単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内でないとNG」という規制があり本業先で、たとえこの基準が守られていたとしても、副業先の労働時間を通算すると、法律違反になってしまう可能性があるのです。

企業の人事担当者にとって、副業解禁をためらう理由としては、この問題がかなり大きいように思います。ただ、この「労働時間の通算」は、本業先に加え、副業先も「雇用形態」である場合に適用され、そもそも副業がフリーランスであったり、業務委託者としての活動であったりすれば、労働時間の通算の問題は生じません。

大企業で副業を解禁しているところの話を聞くと、この労働時間の通算の問題が大きいため、雇用形態での副業は禁止し、フリーランスなどでの非雇用形態の副業のみを認めているところが多い印象です。

まず、手始めに解禁するとしたら「フリーランス、業務委託等の非雇用形態での副業」から始めると、人事担当者にとってはハードルが一段下がるかもしれません。

■副業と本業の「Win-Win」の関係

次に、(2)従業員の健康管理の問題です。会社には、労働契約法という法律によって従業員が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするという義務があります。

社員が副業をしている場合「副業の労働時間も含めて、本業先でどう安全配慮義務を履行していくのか」で悩んでいる人事担当者も多くいます。

副業を毎日どのくらいしているのかということを、日々いちいち申告させるというのは確かに現実的ではないですが、たとえば本業先のほうで「あらかじめ副業の労働時間は週30時間に収めておください」と副業者と約束しておき、その範囲での副業を認めている企業も少なくありません。これは従業員の副業が、たとえ雇用形態でない副業であっても同様です。

(3)は、競業避止・秘密保持の問題です。労働者は仕事を行うにあたり、当然に競業避止義務や秘密保持義務、職務専念義務を負っているとされていますので、これらに反するような副業ははじめから禁止ができます。

そのため、就業規則にその旨を記載したり、個別に副業時には誓約書を取得しておいたりするという運用は有効です。

パーソル総合研究所の「副業の実態・意識調査」によれば、副業をしている社員の本業へのロイヤリティやパフォーマンスが高まったという結果が出ているようです。

副業を認めない企業の本音として「副業をきっかけにして、退職されたら困る」というものもあるのではないかと思いますが、意外と逆の結果になるということもあるかと思います。

先日、筆者はある大手企業で本業をしながら、自分で起業している方の話を聞く機会がありました。その方は、

「なんとなく、ベンチャーや起業というものにあこがれていたが、いざ自分でやってみると、なんだかんだ自分は大手企業で働くほうが性にあっているかもと思うことが多い。副業もおもしろいが、本業の安定があってこそ。副業をさせてくれている企業に感謝の気持ちが多い」

と、話していました。

ご自身も本業を退職するという大きなキャリア変更をすることなく、やりたいことができていますし、本業先の会社としても退職されることなく、それどころか自社へのロイヤリティも上がることになって、こうした副業解禁は双方ともに「Win-Win」だと感じました。

副業についてはいまだ労働法規制でややこしい部分もありますが、できない理由を探すのではなく、できることからやってみると会社としても新たな気づき、変革が生まれるのではないかと考えています。(高井信洋)


プロフィール

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寺島 有紀(てらしま・ゆき)
寺島戦略社会保険労務士事務所代表

一橋大学商学部卒。楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社などへのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育などに従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリーなどに従事。また、保険会社主催のセミナーや人事業界紙での執筆にも携わる。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業の株式公開(IPO)労務コンプライアンス対応から、企業の海外進出労務体制構築など、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

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