歌舞伎町人気ホストが明かす「ビジネスとしてのホストクラブ」

歌舞伎町のホストクラブが増加の一途 "浄化作戦"で暴力団の息のかかった店は閉鎖

記事まとめ

  • 歌舞伎町ではホストクラブが右肩上がりで増えており、毎週のように新店舗ができている
  • SNSの普及によりホストクラブが可視化され、業界全体がクリーンになっていったそう
  • サーフィンやヒップホップをはじめる感覚でホストの仕事に応募する大学生もいるとか

歌舞伎町人気ホストが明かす「ビジネスとしてのホストクラブ」

歌舞伎町人気ホストが明かす「ビジネスとしてのホストクラブ」

「歌舞伎町ブックセンター」の店内

 ――ホストクラブ

 今、新宿を新宿たらしめているのが、このビジネスであることはまちがいない。

 六本木、渋谷、池袋、五反田、上野など東京にはいくつもの歓楽街があるが、どの町もホストクラブの数は片手でかぞえるくらいか、ゼロである。だが、新宿の一角にすぎない歌舞伎町には、200店以上ものホストクラブがひしめいているのだ。

 今回、風俗の世界を舞台にした小説集 『世界で一番のクリスマス』 (石井光太著、文藝春秋刊)の刊行イベントが、「歌舞伎町ブックセンター」で開かれた。昨年オープンした現役ホストも出勤する書店だ。

 ここを経営する「Smappa! Group」の会長で、歌舞伎町にホストクラブ数店の他、バーなども手掛ける手塚マキ氏(40歳)に、ホストの世界を案内してもらった。

◆ ◆ ◆

■歌舞伎町のホストクラブは増加の一途

「歌舞伎町では、ホストクラブが右肩上がりで増えています。毎年というより、毎週のように新規店舗ができている状態です。その分、市場はどんどんふくらんでいっています。おおよそですが、1店舗あたりの売上は、指折りの人気店なら1カ月1億円くらいいきますが、平均して1000万円ほど。そうすると歌舞伎町全体で20億円から30億円。年間で300億円以上になるのです」

 こういう話を聞くと、新宿のホスト業界だけで一大産業だ(例えば日本全体のプロテイン市場が約300億円だ)。

 実際に手塚が経営するホストクラブを5店舗ほど見学させてもらった。それだけで、店によってかなりバリエーションがあった。

 20歳そこそこの私服のホストが中心の元気な店、高価なブランデーがショーケースに入って飾られている店、ホスト歴30年という白髪の紳士ホストが働いているバー風の店……。

 開店前だったので、清掃を終えたホストたちが客席にすわって携帯で女性客に連絡をとったり、女性用トイレの装飾が絢爛豪華だったりしたのが印象的だった。

 これだけ市場規模が膨らめば、参入する人も増える。

 現在、歌舞伎町のホストクラブの多くが、グループ経営となっている。一つのグループが複数の店舗をもっており、手塚のようにホストクラブ以外の飲食店を経営しているところも少なくない。

「歌舞伎町のホストクラブは競争が激しい分、サービスは日本で一番です。だから、地方、たとえば横浜でもどこでも進出すれば、他を圧倒するくらいに人気がでる。これが歌舞伎町でホストクラブをやっている者の強みですね。ただ、現在はあまりに乱立しすぎていて、サービス低下が叫ばれています。店の数をどんどん増やすのでサービスの質が落ちている」

■ホストクラブで働くには2つの道がある

 ホストクラブで働くには、大きく分けて2つの道がある。1つが、ホストの求人サイトなどから自分で応募してなる方法。2つ目が、スカウト会社(ホストの求人サイトを経営している場合もある)を通して、店を紹介してもらう方法だ。後者は、入店の際の紹介料に加えて、ホストが稼ぐ額によってマージンがスカウト会社に入る仕組みになっている。

「ここ数年、ホストは売り手市場ですね。店がどんどん増えているので、どこもお客さんを集められる人気ホストがほしくてたまらない。表向きは禁止ですが、ヘッドハンティングみたいなことが行われたり、美容整形手術代を出すという約束をして口説いたり、様々な方法で募集が行われています」

 近年は、ホストも美容整形をする傾向にあるという。

 たしかに歌舞伎町に立てられているホストクラブの看板を見ると、みんな同じような顔であるように見えなくもない。涙袋をつくり、鼻を高くして、顎を削って……。流行に応じて手術をするので、どうしても似通った顔になるのだ。ホストクラブはここに目をつけて、求人広告に「美容整形の代金を出します」などと明記しているわけだ。

 同じことはキャバクラやクラブでも行われているので、美容整形自体はさして珍しいことではない。ただ、興味深いのは、こうしてつくり出された「ホストの顔」や「ホストのファッション」が、そのまま歌舞伎町のファッションとして世の中に広まっている点だ。

「一般的にかっこいいかどうかは別にして、これは歌舞伎町特有のファッションなんです。渋谷にも六本木にもない。歌舞伎町発のファッション。だから、僕としては歌舞伎町で働きながら、ちょっと距離をおいてそれを見ることも大切だと思っています。歌舞伎町が特有なぶん、傍から見るとエスカレートしてダサくなっているっていうこともありえますから」

 オーナーとしては少し離れたところから、歌舞伎町を見ていたいという気持ちがあるのだろう。

■2000年を過ぎた頃、ホストクラブに変化が

 そもそも、歌舞伎町でホストクラブはどのように成長してきたのだろう。

 手塚は90年代の半ばから後半にかけて中央大学を中退し、ホストの道を本格的に進みはじめた。

 当時、歌舞伎町は暴力団の力が強く、ホストクラブもその影響下にあったという。店が脱税をしたり、届け出をしなかったりするのはもちろん、新規店舗を出すことさえ暴力団の許可なしにはできなかった。もし認められて出店できたとしても、それなりの金銭を支払う必要があった。

 ホストクラブとしても、女性に対して犯罪に近い形で金銭の支払いを求めることもあった。弱い者たちが、弱い者たちを食らう。アンダーグラウンドな世界で、そんな捕食の論理がくり広げられていたのである。そのぶん、男も女も、見る夢は大きかったけれど。

 こうした状況が少しずつ変わったのは、暴対法の効果が出はじめた2000年を過ぎた頃からだった。暴力団が警察の締め付けを受け、大手をふって町を歩けなくなったことによって、影響が徐々に弱まりだした。

 2004年に石原慎太郎都知事(当時)が行った歌舞伎町浄化作戦も大きかっただろう。店舗型の風俗店が次々とつぶされ、暴力団の息のかかった店が閉鎖へと追い込まれた。

■ホストクラブ業界が可視化された

 新しいホストクラブが増えだしたのは、この頃からだった。

 暴力団の圧力がなくなったことで、若いホストたちが独立して、自分の店を次々と開店させていったのである。手塚が自身の店を立ち上げたのも、2003年、まさにこの時期だった。

 さらに、同じ時期に流行っていたSNSもホストクラブ業界に新たな風を吹き込んだ。

 それまで、ホストクラブは閉鎖的であり、外に開かれてはならない空間だった。事業の失敗などで身を落とした男が、浮世離れした歌舞伎町に名前と顔を隠して入り込む。そして数年間、悪いことをしてでも無我夢中で働いて大金をつかみ、また一般社会にもどる。良くも悪くも、そんなことが認められる世界だったのだ。

 だが、SNSの普及によって、ホストクラブの中が可視化された。どこのホストクラブはぼったくりだ、どこのホストは質が悪い。そうしたことが書き込まれるようになったため、業界全体に規制がかかり、クリーンになっていった。

 ホストクラブ業界がクリーンになったことで変わったのは、ホストと客の質だった。

 普通の大学生がちょっとしたバイト気分でホストになる。まるでサーフィンやヒップホップをはじめる感覚でホストの仕事に応募する。

 客も、水商売の女性や女社長だけでなく、世間慣れしていない女子大生やOLが急増した。ごく普通の女性たちがお小遣いやお給料を握りしめて遊びにやってくる。

 いわば、俗世間から切り離された欲望と金が飛び交う世界が、たった数年のうちに光が当てられ、ファッション化していったのである。

 こうした現状について、手塚は言う。

「一時代前のホストクラブと、今のホストクラブとではまったくちがいます。なので、ホストの収入自体も、世間がイメージするほど極端に多いというわけではないかもしれません。月収で100万円を超えるのは2割弱といったところです。逆に言えば、8割以上のホストが普通に社会で稼ぐくらいの給料か、それ以下なのです」

 ホストの客集めもSNSの動画中継で行われたり、手塚がやっているようにホストたちが町の清掃ボランティアや書店経営などまったく別事業に乗り出したりということが行われているのも変化の一つだろう。

■「この世界、まったく飽きない」

 私がホストクラブを見学した際も、数十万円、数百万円という酒のボトルを見かけることはほとんどなかった。むしろ、飲み放題でつかわれるような安価な焼酎のボトルの方が目立ったほどだ。ホストたちの特殊なスーツも、ネットや専門店で中古服が安価な値段で売り買いされているという。

「それでも、歌舞伎町も、ホストクラブも、ものすごい人間が濃くて面白いですね。僕は大学を辞めてからずっとこの世界にいますが、まったく飽きない。暗い過去を持った人もいれば、FtM(身体は女性だが性自認は男性)の子がホストになっていたりする。そういう人たちが集まってきて、何の差別もなく働けて、それなりの人間模様を描いてくれるのが、ホストクラブの世界なんだと思います」

 ホストクラブがクリーンになり、誰もが働き、遊びに来られる場所となった今、ある逆転現象も見られるという。

 かつては女性客を食い物にするはずだったホストが逆に、したたかな若い女性客に翻弄されてしまう光景だ。女性客は刹那の楽しみのためにホストを利用し、ホストたちは自らのアイデンティティーを築くために女性客に翻弄される……。

 手塚が経営する店の2名の若いホストが、まさにそんな新しいホスト像を示している。

 一人は北海道の児童養護施設で育ったホスト、もう一人は東日本大震災で高校時代に被災したホストだ。

 後編では、彼らの歌舞伎町での姿を通して、現代の夜の街をのぞいてみたい。

写真/末永裕樹(文藝春秋)

後編につづく
http://bunshun.jp/articles/-/6524

(石井 光太)

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