JINS社長が語った「メガネをタダで配る」未来型ビジネスモデル

JINS社長が語った「メガネをタダで配る」未来型ビジネスモデル

JINS社長がメガネの未来語る

JINS社長が語った「メガネをタダで配る」未来型ビジネスモデル

株式会社ジンズの田中仁社長

(「 JINSが『メガネ業界の非常識』と言われながらも成功した理由 」から続く)

 メガネ業界の常識や慣習を疑い、数々のイノベーションを起こしてきた株式会社ジンズの田中仁社長。メガネのさらなる可能性を追求する田中氏は、「従来の“メガネを販売するビジネスモデル”から脱却したい」と話す。果たして、その真意とは――。

■外を見るメガネから、自分を見るメガネへ

――メガネを販売するビジネスモデルからの脱却!? もうメガネは売らないということですか?

田中 いえ、そういうわけではありません。メガネをたくさん買ってもらって、売上と利益が上がる。そうした既存のビジネス以外の可能性もあるのではと考えています。

 もちろん売上はあるに越したことはないんですが、もはやそういう時代ではないと思っています。つまり、これからはモノ、ハードの価値が相対的に下がると思っています。すでにシェアリングサービスが人気だったり、モノを所有する意識が低くなっていますよね。そうすると、メガネもいずれそうなるかもしれない。

 もしかしたら、点眼薬で近視が治る時代だって来るかもしれないですよね。そうしたなかでメガネの役割って何だろうと考えたとき、その人自身を知るウェアラブル・デバイスとしては価値があるのではないかと。

――それが、2015年に登場したウェアラブル・デバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」ですね。

田中 はい。これも産学連携のなかから生まれた製品で、レンズを介して“外側を見る”ものから、“自分を見る”という発想の転換です。

 もともとジンズ・ミームは、「脳トレ」で有名な東北大学の川島隆太教授とブレストをしているなかで、「眼は脳のアウトプット機関としてかなり大きな割合を占めている」というお話を聞いたことがきっかけで。「目は心の窓」とか「目は口ほどにものをいう」とか言いますよね。目を理解すると脳を理解できるという話から開発が始まっています。

■生体情報が蓄積されることで、ライフスタイルが変わる

――脳の情報が得られるんですね。実際これを使うことで、どんなことがわかるんですか?

田中 3つわかることがありまして、その1つが眠気の可能性です。そのため運転時の居眠り防止機器として使うことができ、連携する専用アプリを使えばジンズ・ミームで検知したドライバーの覚醒度をアプリが画面や音声で知らせて安全運転をアシストしてくれます。

 また、2つ目として、6軸の加速度・ジャイロセンサーが入っているので、体の動きがわかる。ランニングフォームが可視化できたり、体軸の歪みやブレが測定できたりするので、それを踏まえたトレーニングの提案が可能となり、スポーツクラブでの導入実績もあります。

 さらに3つ目として、集中力を計ることができます。現在、働き方改革において生産性を上げることが課題となっていて、非常に注目されています。たとえば労働時間は同じでも、集中の度合いが高くなれば生産性は上がりますよね。そのため厚労省や経産省などからも打診があり、ジンズ・ミームを使った働き方の改善ができないかと現在様々なチャレンジが始まっているところです。

 ジンズ・ミームを通してこのような生体情報が蓄積されることで、ライフスタイルが変わっていく。さらにはメガネのビジネス自体も変わっていくのではないかと思っています。

■世界一集中できるワークスペースをオープン

――集中力といえば、昨年には“世界一集中できる環境”をコンセプトとしたワークスペース「Think Lab(シンクラボ)」をオープンされています。メガネの企業が“場”の運営をするのは、非常に珍しいことかと思いますが。

田中 「なぜJINSがワークスペースを?」と思われるかもしれませんが、これもジンズ・ミームで集中力を測定できるからこそ可能になるものです。眼から得られる貴重なデータを有効に活用するという点でも、JINSだからこそやる意味があるチャレンジだと考えています。

 このシンクラボは、これからの働き方のキーワードになると考えています。シンクラボが都内に点在するようになれば、我々は本社もいらないと思っているのですよ。たとえば社員がスマートフォンのなかに専用のアプリを入れて、ゲートを通ることで入館から退館までの労務管理ができれば、毎日朝9時から17時まで集まって仕事をする必要はない、と。

――まさに働き方改革ですね。

田中 我々がその先鞭もつけようと思っています。もちろん一緒にいなければできない仕事もあるのですが、チームで集まると一人でこなす仕事が阻害されてしまうこともあります。じつは、当社の社員もジンズ・ミームを使って調べたら、オフィスにいるときが一番集中していない(笑)。カフェや公園など、オフィス外のほうがよほど集中できているのですよ。

――それはおもしろい結果ですね(笑)。この結果も、先ほどおっしゃっていた“眼から得られる貴重なデータ”の一つですね。

田中 はい。ジンズ・ミームと専用のアプリを使えば、誰でも集中時間が可視化できます。今後はこうした関連するソフトやサービスに対価を払うビジネスができないかと模索しているところです。

■メガネの販売からソフトに移行する可能性

――それが先ほどおっしゃっていた、メガネを販売するビジネスからの脱却、を意味するのですね。

田中 このジンズ・ミームが誕生したことで、メガネのビジネスは単にメガネそのものを販売することから、ソフトに移行していく可能性が現実味を帯びてきました。極端な話、もうメガネをタダで配ってもいいのではないかとすら思っています。そうして配布したメガネから得られるサービスに対して課金してもらう。テスラモーターズのイーロン・マスクのように、社会を変えるイノベーションを起こせるのではないか。それができると、ジンズは一気に世界企業になっていけると思っています。

――これまで以上に、人々のライフスタイルに大きな変革をもたらしそうですね。スケールの大きな話です。

田中 やはりメガネ業界も、現在のマクロ経済のなかでどのような在り方がお客様に相応しいのかをつねに考えていかないと。我々はそこにチャレンジしていかなければいけないと思っているのです。実際にタダで配れるのかという課題はありますが、それぐらい大胆にものごとを考えられるようにならないと、新しいサービスは生まれてこないと思います。

■これまで進化していなかった業界

――先ほど働き方改革の話もありましたが、今後はメガネを作るというより世の中のシステムを作っていくような、そうしたビジネスにフィールドを広げていかれるのでしょうか。

田中 もともと、新しいライフスタイルを作るとか、新しい時代を作ることへの興味が強いのです。

――では、既存の“メガネ”としての所有欲をより満足させる製品を販売しようというお考えは?

田中 それは並行ですよね。並行させていくなかで、店舗の役割も変わっていくでしょう。今のようにたくさんのスタッフを配置して店舗で接客して販売するという形態を、EC含めてどのようにデジタルとテクノロジーによってシームレスにつないでいくかというのもチャレンジの一つです。我々は小売りの在り方も変えてみたいと考えています。

――いずれ実店舗はなくなる可能性も……?

田中 お店というのは、“お店でなければできない体験の場”としては成立すると思うんですが、ただモノを買うだけならECで済んでしまいます。現在ECでは、「JINS BRAIN(ジンズ ブレイン)」といって人工知能(AI)がメガネの似合い度を判定してくれるレコメンドサービスを提供していますが、それで似合うメガネができあがるのであれば、わざわざお店に行く理由がなくなってくると。そうなったとき、実店舗の価値を再定義する必要が出てきますよね。

――今日お話しを伺っていて、“メガネ”とは何か、という既成概念がガラガラと崩壊しました。今後、もうメガネという形にはこだわらないのでしょうか。

田中 いや、あくまで主軸はメガネですよ。ここがおもしろいと思っています。それだけメガネはライフスタイルにおいて重要なアイテムであるし、一方で進化していなかった業界でもある。だから、進化させがいがあるんです。メガネというものの本質を考え抜くことで、まだまだイノベーションを起こしていける。そう思っています。

写真=平松市聖/文藝春秋

(伊藤 美玲)

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