東京駅の自販機ストライキは、なぜ「共感」を得たのか

東京駅での自動販売機ストライキに多くの支持 組合員たちは利用者の安全に配慮

記事まとめ

  • 5月3日、東京駅で自動販売機の補充業務を担当している会社の従業員がストライキを実施
  • ストライキは「迷惑」だと感じられることがほとんどだが今回のストへは支持が広がった
  • ネットの反響は大きく「ジャパンビバレッジ東京」は話題キーワードのランキング2位に

東京駅の自販機ストライキは、なぜ「共感」を得たのか

東京駅の自販機ストライキは、なぜ「共感」を得たのか

ストライキの舞台となった東北新幹線ホーム ©iStock.com

 去る5月3日、JR東京駅自動販売機の補充業務を担当しているサントリーグループの自動販売機オペレーション大手・ジャパンビバレッジ東京の従業員がストライキを実施した。要求は、未払い残業代の支払い、組合員に対する不当な懲戒処分の撤回だ(詳しくは、文春オンラインの記事「 本日、JR東京駅の自販機補充スタッフがついにストライキ決行 」を参照)。

 ストライキに先行して行われた順法闘争、ストライキの背景、当日の簡単な報告については、すでに以前の記事で紹介しているが、結論から言えば、非常に大きな「共感」が寄せられている。ストライキと言えば、利用者から「迷惑」だと感じられることがほとんど。なぜ今回のストライキはこれほどの反響を得たのだろうか。

 ストライキに対する、東京駅の利用者、インターネット、組合員、そして会社の反応をそれぞれ紹介しながら、ストライキへの支持が広がった背景を考えてみたい。

■途方にくれるカップル、自販機の写真を撮る男性

 まずは5月3日のスト決行日の東京駅の様子を報告しよう。

 東京駅は、JR東日本管内の1日の平均乗車人数では新宿駅、池袋駅につぐ3位(2016年度)だが、JR駅のホーム数では日本一の数を誇っている。その各ホームや、ホーム間をつなぐ通路にすき間なく置かれた膨大な数の自動販売機で、ストライキは決行された。

 自動販売機の補充をしていた組合員たちは、ストライキ通告を確認すると、9時30分きっかりに自動販売機を閉め、業務を停止した。ペットボトルや缶の詰まった段ボールが積み上げられたままの台車は、通行人が接触して怪我をしないように「ストライキ実施中につき、台車を一時、停車します」との注意書きを括りつけたうえで隅に寄せられた。組合員たちは、台車の横に立ち、引き継ぎ要員が来るまで、利用者の安全に気を配った。

 現場を観察していた組合員によれば、すでに2週間以上にわたって「順法闘争」をしていた影響もあり、スト突入前後にはあちこちで「売切」の表示が点灯していたという。ずらっと並んだ「売切」の赤いランプに気づいて自動販売機の前で立ちすくみ、購入をあきらめてしまうカップルや家族連れが多数見受けられた。台車の注意書きについても、物珍しそうに眺める家族連れの父親や、「ストライキだって……」と隣人の肩を叩く若い女性など、反響は様々だった。

 なかには、あらかじめストライキの情報を聞きつけていたらしく、一眼レフのカメラを構えて自販機を撮影する男性や、台車に括り付けられたユニオンの注意書きを撮影して、「応援します!」「飲み物はNewDaysで準備済み」とツイートする人もいた。

■ジャパンビバレッジ側は「スト破り」要員を招集

 ジャパンビバレッジ側は当日、普段の倍以上の人数になるように、人員を各営業所から「スト破り」要員として招集していたため、長時間「売切」が放置されていたわけではない。とはいえ、利用者の多い箇所では、昼過ぎには再び「売切」ランプが続々と点りはじめ、しばらくしてから補充が追いつくという、ストライキの影響とスト破りの「いたちごっこ」が続いている状態だった。

 さらに、インターネット上の反響は大きかった。冒頭に紹介した記事もYahoo! Japanのトップページに上がり、「ジャパンビバレッジ東京」はヤフーリアルタイム検索で話題のキーワードのランキング2位にまで上り詰めた。

 ツイッター上では、年齢層や政治的な立場を超えてストライキへの共感・応援の声が見られた。安倍政権反対派も支持派も両方が応援していたし、特に注目したいのが、政治的な発言をほとんどしていない若者も好意的に言及し、ほぼ全てが支持していたことだ。日本でストライキがこれほど大衆的な支援を得られたことは、戦後の歴史を見ても画期的と言えるのではないだろうか。

■「間違ったことをしているという思いは1ミリもなかった」

 今回の当事者である組合員たちは、ストライキについて、どのような感想を抱いているのだろうか。東京駅で勤務するAさん、Bさんは次のように語る。

「ワクワクしながらストライキ当日を迎えましたね。間違ったことをしているという思いは1ミリもありませんでした。ネットの反響を見ると、ほとんどが応援の言葉だったので、本当にやってよかったなと感じます。普段、僕たちがどれだけ頑張っているのかを会社に知らせるにはこういう方法しかないのかなと思います」(Aさん)

「最初に組合の人からストについて聞いたとき、本当にやることになるとは思っていませんでした。でも、団体交渉での人事部の発言や回答書があまりにひどいもので、もうストをやってでも、なんとか会社の対応を変えないといけない、これはやるべきなんだと覚悟を決めました。

 そんなに高い要求を会社にしたわけじゃないんです。『未払い賃金を払ってくださいよ』『懲戒はおかしいんじゃないですか』という、ただそれだけなんですよね。新しく入社してくる次の世代が働きやすい職場になってほしいんです」(Bさん)

 組合員たちのストライキが世論を動かし、その世論の支持がさらに組合員たちを勇気づけていることがわかる。また二人とも、自分たちを軽んじる会社に対して、強い確信を持ってストライキに踏み切っていたこともうかがえるのではないだろうか。

■会社はSNSの炎上を取引先に謝罪

 では、肝心のジャパンビバレッジ側の反応はどうだったのだろうか。

 同社は「火消し」に躍起になっている。関係者から寄せられた情報によれば、ジャパンビバレッジは取引先に対して、「SNSやメディア等において大変お騒がせしている」「ご心配をおかけし誠に申し訳ございません」と書面で平謝りをしているというのである。

 そこでは、わざわざQ&A形式で「東京駅でSNSにあるような組合活動『順法闘争』が起こっているのか?」「東京駅の売り切れ続出は事実か?」「今後、当社にもこのようなこと(順法闘争)が波及するのか?」などのストレートな問いを率直に掲載しており、今回の闘争に対する取引先からのプレッシャーが大きいことが見て取れる。

 同社はその回答という形で、「一時的に売り切れることがございます」「SNSに一部記載のある売り切れが続出しているという状況とは認識しておりません」「順法闘争は一部のこと」などと、事実を否定や楽観的な見解を披露している。

 また、同社はこの書面で、「早期の解決に向け取り組んでおります」とも弁解している。しかし、同社が続ける組合敵視の対応は、早期解決に真っ向から逆行するものだ。

■このままでは労働基準監督署のメンツも丸つぶれ

 組合員を懲戒などしたら、数年にわたる順法闘争や断続的なストライキは覚悟しなければならないだろう。同社はイオングループやセブン&アイ・ホールディングスなどの大手取引先を抱えているため、JR東日本以外にその舞台が広がることもあり得る。

 労働基準法違反を指摘した労働基準監督署の勧告を真っ向から否定している点も、重大だ。監督署としては、2回勧告しても改善しないのであれば、刑事的措置を執らざるを得ない。まして、今回のような大手企業による明白な違法行為の場合、これを認めてしまうと他の企業にも「監督署の指導は無視しても大丈夫だ」という教訓を与えることになってしまい、監督署のメンツも丸つぶれとなってしまう。

 これまでも悪質な違法労働事件は、個別の紛争の枠を超えて、行政機関や政治の本格的な介入を招いたことがあるが、そのような事態になることも考えられるだろう。

■労働組合に期待するしかない時代に

 最後に、なぜ今回のストライキがこれほどまでに支持されたのかを考察してみたい。「東京駅」というインパクト、「自販機」の身近さなど、特徴的なポイントが揃っていることもある。しかし、それだけではない。私はここで、終身雇用や年功賃金を前提とした戦後日本社会の変容を指摘したい。

 従来の日本社会では、企業に正社員として就職し、我慢して働きさえすれば、いずれ昇進や昇給が待ち受けていると考えられてきた。教育、住居、年金の問題も、年齢とともに上がる年功賃金が保障してくれていた。こうした特定の企業の正社員を、労働組合が守っていたのである。

 しかし、いまやこのような労務管理から外れた労働者が、一つの新しい階層を形成し始めている。正社員・非正規社員を問わず、昇進・昇格もほとんどなく、年功賃金も保障されない働き方だ。長時間労働を我慢しても報われることはない。転職しても、この働き方から抜け出すことはできない。

 ジャパンビバレッジでも、年齢に応じて上がる年齢給があるが、それも35歳で打ち止めだ。それ以上になると、ごく一部の労働者以外は昇給・昇格することはない。

 そうした中で働く若者たちにとって、もはや特定の会社に期待するのではなく、どこの会社で働いていようとも、労働組合で闘うことによって、法律を守らせ、賃金を上げ、残業時間を短くして、普通に生きられることを求める労働者の姿が、共感を得る理由だったのではないだろうか。

■「どこで働くにしても、こうやって闘っていくしかない」

 最後に、先ほど登場してもらったAさんとBさんの印象的な発言を引用したい。

「ストライキは、労働者の『伝家の宝刀』と言われているらしいじゃないですか。強い思いを持った仲間が集まれば、会社や社会を変えることができるんだと実感しています」(Aさん)

「この会社を退職して別の会社に行っても、そこでもなんらかの問題はあるでしょうし、ブラック企業を転々とすることになるんじゃないですかね。だから、どこで働くにしても、こうやって組合で闘っていくしかないと思います。会社に不満を持っている人がこういう活動をできる、と届けられたのなら、それが今回のストライキの一番の収穫だと思います」(Bさん)

 なお、今回の順法闘争・ストライキを行ったブラック企業ユニオンでは、近日中に労働組合の権利と活用法についての説明会と、労働相談ホットラインを開催する。興味のある方は参加や連絡をしてみてはどうだろうか。

(今野 晴貴)

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