メルカリ上場記者会見で感じた「良い人」山田会長に秘められた強気

メルカリ上場記者会見で感じた「良い人」山田会長に秘められた強気

和やかなムードに包まれた会場 撮影:筆者

 謝罪会見以外の記者会見に出席するのは、実に久しぶりな気がする。粉飾決算にデータ改竄に品質不正。この2、3年、「記者会見といえば謝罪」と言わんばかりに、大企業トップが深々と頭を下げるシーンばかり見せられてきた。だが、今日ばかりは爽やかである。

■創業者はいきなりビリオネアの仲間入り

「日本最大のユニコーン(株式未上場で企業価値10億ドル超のベンチャー企業)」とかねてから評価の高かったフリマアプリを展開する「メルカリ」が、東証マザーズに上場した。16時30分、東京駅丸の内口にある東京ステーションホテル鳳凰の間で、創業者の山田進太郎会長、小泉文明社長らが記者会見した。刺々しい空気が立ち込める謝罪会見とは打って変わって、会場は和やかなムードに包まれている。

 和やかにもなろう。上場されたメルカリ株は午前11時に5000円の初値をつけ、公開価格を2000円以上上回る5300円の終値で初日の取引を終えた。株式時価総額は7170億円。今年最大のIPO(新規株式公開)だ。山田進太郎が保有するメルカリ株の価値は1100億円を超え、いきなりビリオネアの仲間入りである。

■『創業者からの手紙』の封筒には直筆で「山田進太郎」

 しかし、嫉妬の声はあまり聞かれない。ベンチャー経営者には「意識高い系」や「オラオラ系」など、扱いにくい人物が多いが、山田進太郎は誰からも愛される「良い人」である。今日の記者会見でも随所に「良い人」ぶりを見ることができた。まずは配られた資料に入っていた『創業者からの手紙』。封筒の裏を見ると、どこか可愛らしい筆跡で「山田進太郎」。直筆である。中を読むまでもなくキュンとくる。

 メルカリは2013年に設立された従業員数1000人の若い会社である。主な事業はフリマアプリのサービス。「フリマ」とは中古品の個人間取引である。中古品の個人間取引には「ヤフオク!(ヤフー・オークション)」という巨人がおり、幾多の会社が参入しては敗れてきたが、メルカリは中古品を競りにかけるオークションではなく、出品者が自分の売りたい値段をつけ、それに納得した人が買うというフリーマーケット方式でヤフオクの壁に風穴を開けた。

■スマホ普及で「これはすごいことになる」と予感

 創業者の山田は、早大を卒業した後「ウノウ」という会社を立ち上げ、携帯電話向けのゲームをヒットさせる。2010年、ウノウを米ゲーム大手のジンガに売却して同社の役員になるも2012年に退社。世界一周旅行に出た後、2013年にメルカリを立ち上げた。

 2012年、世界一周を終えて久しぶりに日本に帰ってきたら、出発するときにはまだ珍しかったスマートフォンを、誰もが使っているのを目の当たりにして衝撃を受ける。「これはすごいことになる」と予感して、スマホを使ったCtoCサービスに目をつける。

 頑張ってもなかなか豊かになれない新興国の人々の暮らしが頭に浮かび、「不要になった中古品を必要な人に届けるサービスを作れば、限られた資源でより多くの人が豊かになれるのでは」とフリマアプリを考案した。その後、世界を席巻することになる配車アプリや民泊アプリと同じ「シェアリング・エコノミー」の発想だ。やはり、山田は「良い人」なのである。

 中古品の売買というと、何やら地味なイメージだが、日本国内には買ったけれど使っていない「不用品」の市場が7.6兆円(経産省調べ)もある。押し入れやタンスに死蔵されているこれらの不用品が、使いたい人の手に渡るのは良いことである。

 不用品が売れた金額の10%を手数料として受け取るメルカリの2017年6月期の連結売上高は220億円。2018年度は、3月期までですでに260億円に達しており、通期で300億円突破はほぼ確実だ。4年前に米国に進出し、英国でもテストマーケティングを始めている。記者会見でも山田は「グーグルやフェイスブックのように世界で使われるサービスになりたい」と野望を語った。「良い人」なだけでなく、かなり「強気の人」でもある。

■メルカリは「データの宝庫」になる

 山田は『創業者からの手紙』の冒頭で自分が野茂英雄の大ファンであることを綴り、野茂のように周囲から「無謀だ」と言われても「世界挑戦を続ける」と語っている。メルカリは6月19日の新聞に見開きの全面広告を出し、その片面に野茂の写真と「GO BOLD(大胆にやろう)」のスローガンを載せた。

 空元気ではなさそうだ。売上高300億円のベンチャーに7000億円の時価がついたのは、市場がメルカリのポテンシャルを高く評価しているからだ。業界関係者はこう指摘する。

「自分のバッグを高く売りたい人は上下左右のあらゆる角度から見栄えのいい写真を撮ってメルカリにアップします。バッグだけでなく、衣料品やスマホなどあらゆるものが売買されるわけですが、そういう雑多なモノを様々な角度から撮影した画像データというのは、世の中にあまり存在しない。

 実は、こうした画像データは人工知能(AI)の大好物なんです。データが増えていけば、AIはそのうち勝手に『これはプラダのバッグ』『これはアップルのスマホ』と判別し、瞬時に妥当な値段を弾き出すようになる。それ以外にもマーケティングの様々なシーンでAIが活躍するようになる。メルカリのフリマは単なる中古品市場ではなく、データの宝庫になり得る。山田さんはそこまで読んで経営しているはずです」

 もちろん、世界は甘くない。上場直後で時価総額7000億円は立派だが、アップルやアルファベット(グーグル)の時価総額は7000億ドルを大きく超える。つまり100倍以上である。山田は単なる「良い人」ではなく、かなり「すごい人」なのかもしれないが、野茂のようにメジャーで活躍できる保証はない。

(大西 康之)

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