どうすればベテランとうまく仕事ができるのか?

どうすればベテランとうまく仕事ができるのか?

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 私は駄目なリーダーです。

 自分で言うのも何ですが、一番いけないのは「自分にも他人にも無暗に厳しい」ので、放置するとどんどん要求レベルが上がっていってしまうという悪い癖があります。まあ、完璧主義なんですよね。そんなわけで、ある程度事業を大きくしては譲り、大きくしては売り、を繰り返していました。経営者としては会社をつぶさない程度には儲けるスタイルで、かれこれ20年ちょっとの経営者ライフでしょうか。

■「あ、これなら私が自分でやったほうが速いな」

 で、部下がやっているのを見て「あ、これなら私が自分でやったほうが速いな」と思ってしまいます。もちろん、実際には専門のスキルを持っている部下が手がけたほうが数倍速く、品質も良いというケースが多いわけなんですが、仕上がりが自分の期待しているものと違うと「ええい、私がやる。そこをどけ」と言いたくなってしまうのです。で、偉そうに言う割に思った通りにならなくて、でも自分で最後までやりたくて徹夜して頑張って死んだような魚の目になって人生をすりつぶしてきたのが私です。

 結婚前までは、そういう問題をクリアできないのは「私の頑張りが足りないからだ」と思っていました。私が思う、要求する品質にチームの成果が達しないのはチーム内のコミュニケーションが不足しているんだとか、働く時間が不充分なのだと判断しがちなリーダーなので、私と一緒に仕事をした人たちはみんな死んだような魚の目になって疲弊していきます。あのころは若かった。それでも、少ない予算と短い期間でこれだけの仕事を達成できた、という満足感はみんな持っていたようですが、何よりリーダーである私が滅私奉公型の働き方でしたから、力尽きるまで働くのが人生なんだとやり続けていたら、今頃は大変なことになっていたことでしょう。

■「ええい、私がやる」から脱したのは、ごく最近のことです

 私と結婚してくれた家内が、私の働き方を見て「そんなんじゃ身体を壊すよ」と言ってくれて、また、子どもができてからは家族と一緒にいる時間を大事にしたくなりました。その後は「クリアするべき目標を明確にして、求める品質も最初に固めておくべきだ」という働き方に切り替え、結果として生産性も上がって随分落ち着いてきたのは事実です。いまは、育児と介護は大変だけど個人的にはとってもハッピー。ですが、それでもなお仕事の進め方を切り替える数年は「ええい、私がやる。そこをどけ」をたびたび起こしては余計な仕事を背負い込んで徹夜を繰り返し疲弊することになって、ああ、私は経営には向いていないのだと悟ることになるわけであります。他人に任せてからは投資先が勝手に上場したり、若い人がやりがいを取り戻して好き放題できるようになったり、まあいろいろ浮き沈みはありつつも楽しくやっています。なんだ、私は最初からコミュニケーションのハブ役に徹して、企画立案や調達する予算、達成する品質の目標設定ぐらいまでを精密に組み上げることにのみ神経を集中していれば上手くいくんじゃないかと割り切れるようになった、のはごく最近のことです。いわば、仕事の見積もりにすべてがかかっているわけですよ。

■本当に何もできないベテランというのは実は少ない

 仕事の負担が軽くなる分、昔みたいに他社の炎上プロジェクトを引き受けてきて馬車馬のようにこなすという仕事がなくなって、いろんなものを見渡せるようになりました。もちろん、利幅は大きいけどタイトな仕事も中にはあるようで、見積もりを間違えて死んだような魚の目になっている投資先も中にはあります。頑張って乗り越えていってほしい。また、いろんな組織をみていると男女を問わず中年に差し掛かった経験豊富な人が、若い人たちの馬力に押されて脇に追いやられているケースを多く見るようになり、これは可哀想だなと思うのです。

 40代から50代の仕事のキャリアというのは綺麗事を言うにはしんどい状況にあって、家族を抱え、親の介護がある人もいたり、ご自身が病気がちになったりして、若いころと同じようにバリバリ働けない状況でも若い人たちと同じような成果を求められるようになります。コンテンツ開発でも、名前が実績と紐づいて「あの人と仕事したい」というようなご指名がある場合ばかりではなく、知人友人や元取引先などのツテを使って仕事を取ってくるタイプの人は、契約期間が終わればただの人になって生活が安定しないので、どうしても精神的にも追い詰められるようなのです。大手企業にいるから、どこかの子会社だからと安閑としていられる時代もまた終わってしまい、その人が何をしているのかが厳しく問われる時代になると、どの年齢でも仕事ぶりが依頼の数やギャラに直結するようになるわけです。

 で、こういう「既存の仕事の枠組みからこぼれていく人」というのは一定のパターンがあるように思えるのですが、本当に何もできないベテランというのは実は少なく、そういう40代50代の人たちに働いてもらうやり方ってのは、雇うチームのリーダーの側にコツがあったり、働くベテランの側も一定の意識があると実にうまくいくことが分かってきたのです。

■ベテランの扱いがうまい桜井君(仮名)の指示の仕方

 そのコツとは、先にも述べた、「仕事の見積もり」をしっかりと作ること、です。たまに「仕事のできないおっさんだな」と烙印を押されて流れてくる中年男性である小林さん(仮名)がやってくるんですけど、まあ確かに会って話してみるとパッとしない。大丈夫なのかなと思うんですけど、こういうおっさんの扱いがうまいマネージャーの桜井君(仮名)というのがおりまして、彼がどうベテランを扱っているのかな、と思って興味深くみていると、聞いているこちらが怖いぐらいに褒めまくったうえで、仕事を任せておるわけです。褒めてから仕事の段取りを説明すると、死んだような魚の目から、ちょっとした鮮魚にまで中年でも戻るのを間近で見て少し感動をしました。小林さんもいい奴だからってのはあるんでしょうが。

 そして「まずは、できるところまでやっておいてください」というような、曖昧な指示をしない。「小林さんならお任せで充分にできると思うので、今週中にこことここにアポを取ってヒヤリングしてきた内容をまず概要に書き下ろしてください。そこから業界データとの比較で利益水準との乖離を見てから、業務分析にとりかかれるようなシートを〇日までに仕上げていただきたいのです」とレポートの雛形まで用意して、最後に「分からなければ、昼でも夜でも遠慮なくメッセンジャーに質問投げておいてください、必ず返答しますから」とフォローの約束までしている。なるほどねえ。

■「任せても大丈夫そう」と思ってしまうのが負けの原因

 おっさんがたに「どうです? 働きやすいですか?」と訊くと、たいてい「ベテランになると、仕事の進め方まできちんと詰めてくれることは少ないので、誰に聞いていいかわからなくていつも孤立してたんですよね」という答が返ってきます。新しい分野や仕事なら誰もが新人、ある程度の経験から仕事の見積もりはできるけど、要求される仕事の品質を見極められないとずるずると仕事の〆が遅れていってしまってにっちもさっちもいかなくなる、というのは誰しも同じようです。想定外のことはありつつも、最初に可能な限り仕事の見積もりを立てておき、誰にどのくらいの仕事量が振られれば相応の品質で完成するのかを見極める、というのがリーダーの大事な作業だというわけですね。

 確かに部下を持つリーダーの仕事の基本として「タスクを明確にする」のは基本中の基本ですが、相手を見て中年だと「任せても大丈夫そう」と思ってしまうのが負けの原因なのだ、と改めて知ることになったわけであります。「ベテランなんだから考えて行動しろ」と投げっぱなしにするよりは、相手のキャリアを尊重しつつ「貴方に求めているのはこれです」とはっきりさせることの大事さ。若いころの私なら「お前はなぜ働かないのか。徹夜してでも仕上げろ」と激詰めしかねないところをしっかり対応できるマネージャーは貴重なのだなあと思い知った次第です。

 そう考えると、部下が仕事を仕上げられなかったり、思ったような業績を上げられないのは間違いなくリーダーの責任であって、部下が取り組みやすいレベルにまで仕事を分解して成果を出しやすくさせるためのマネージメントの重要性をひしひしと体感するわけです。でも、逆に言えばいま仕事で成果をうまく出せない中高年は、実は「そういうちゃんとしたマネージメントのもとで働ける機会が少なかったから能力を発揮できないまま歳とキャリアを重ねてしまったのではないか」とか「割り切って自分で自分のペースを作って仕事をする環境にいなかったのではないか」などと思い至るのですよ。私が駄目なリーダーであったのと裏返しで。ちょっと前まで死んだような魚の目で経理書類を捌いていた人が、急にビシッとしたスーツ着て提案書書くようになったりするのを見ると、もっとマネージメントについて学べる機会が多くあるといいなと感じたりもします。気がついてみると、かつて部下だったメンバーは独立して一国一城の主になっていたり、一部上場企業の取締役になっていたり、みな幸せそうな人生を送り、たまに会って飲み食いをして昔ばなしをする程度には落ち着いて、マネージメントってなんなのかなあと振り返ったりする余裕もできるようになりました。?

 私も心の中に潜んでいる「根性入れて撃てば必ず当たる」というパトレイバー太田的な気持ちと、冷静で科学的な知見を大事にしたいというインテリ的な理性とが常にせめぎ合っているのを感じます。

■管理職のみなさんの苦境と、日本企業の苦境

 でも、先日全然別件で大企業の幹部研修で講師をやれというので行ってみたら、経営企画が鉛筆舐めて作った前年比何%売上増とかいうペーパーを経営陣が推し進めるというので部下に「お前ら全力で売ってこい!!!」「目標達成だ!!」とハッパかかってる状況で、並んだテーブルと椅子の向こうに死んだような魚の目をした管理職の皆さんが200人ぐらい並んで座っておられるのを見て、とりあえずこのイケスから海にリリースしてやりたい気分になるわけですよ。お前ら親に愛されて育って、良い大学出たのに死んだ目をした魚として職業人生を送っていくのかよ。

 日本企業の苦境というのは、死んだ目をしていても最後まで生き残った魚がトップに上り詰めることが往々にしてある、また、高い商才を発揮したワンマンに尽くせる死んだ目をした魚が出世してしまう組織が織りなす弊害が理由なんだろうかと思う次第で。

 イケスにいれば餌は保障される、海は生きていくのはやっとだとしても、もう少し、自分の力と意志で生きていけるようにしたほうが……と思ったりもするのですが。

(山本 一郎)

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