顧問300社の精神科医が教える「残念な上司」5つの特徴

精神科医が"残念な上司"の特徴を解説 「部下を後ろ向きにさせているという自覚なし」

記事まとめ

  • 精神科医の伊藤直院長が『 精神科医が教える 3秒で部下に好かれる方法 』を上梓
  • 残念な“嫌われ上司”には、部下を後ろ向きにさせているという自覚がないという
  • メンタル不調で当院を訪れる患者のおよそ7割が、入社3年以内の新人なんだとか

顧問300社の精神科医が教える「残念な上司」5つの特徴

顧問300社の精神科医が教える「残念な上司」5つの特徴

『精神科医が教える 3秒で部下に好かれる方法』(文藝春秋刊)

 心を病んで休職する社員が増えている今、かつてのように「部下には嫌われてナンボ」という価値観はもはや通用しない。上司に必要とされるのは、「部下をメンタル不調にさせない」能力。経験豊富な精神科医が伝授する、すぐに役立つコミュニケーションのコツ。

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■管理職失格の烙印を押されてしまう上司たち

 最近、部下が仕事を滞らせている。見かねた上司が「しっかり頑張ってくれよ」と声をかけると、「大丈夫です」と笑顔が返ってきた。しかし数日後、上司は人事担当者から「あなたの部下から、パワハラを受けているとの相談があった」と呼び出しをくらう。上司は部下の真意が分からず、頭を抱えてしまう――。

 気にかけてやっているにもかかわらず、部下からの支持が得られず、管理職失格の烙印を押されてしまう上司が増えているという。かつてのような終身雇用・年功序列制度は崩れ、若者たちは、職場が合わないと感じればさっさと転職してしまう。人材確保が企業の重要課題となっている現代においては、部下の心を掴んでおくのも、上司の必須能力の一つになった。

■「残念な上司」の特徴

「部下が訴えるメンタル不調の要因の第一位は、“上司”です」

 そう指摘するのは、300社以上の企業の顧問医を務める精神科医の伊藤直・平成かぐらクリニック院長。これまで診療した多くの症例をもとに『 精神科医が教える 3秒で部下に好かれる方法 』(小社刊)を上梓した。

 伊藤院長によると、部下をメンタル不調に追いやる「残念な上司」には一定の特徴があるという。

「やっかいなことに、残念な“嫌われ上司”には、部下を後ろ向きにさせているという自覚がありません。個人プレーの仕事では優秀な人も多く、自分はできる上司に恵まれていたりする。そのため『自分にできたのだから、この程度の仕事はできるはず』と、部下に過剰な期待をかけてしまう。それは部下にとって、大きなストレスになるのです」

 このページの表に挙げた項目に、心当たりがあったら要注意。

 たとえば冒頭のエピソードのように、仕事ができていないことが明らかな部下に「頑張って」と言うのは「この程度の仕事はこなせ」という命令に他ならない。この上司は応援したつもりが、部下は「命令」だと、強迫的に捉えてしまったのだ。

「メンタル不調で当院を訪れる患者のおよそ7割が、入社3年以内の新人です。就職するまでに教師や自分の親以外の大人と接した機会も少なく、上司の言葉を重く受け止めてしまいがちです。部下との一対一のやり取りが不得手な上司が関われば関わるほど、部下は後ろ向きになり、時にメンタルを病んでしまうのです」

 部下とのやり取りの中で、「どうしてあの部下は、いくら言っても分からないのか?」「私の何がそこまでいけなかったのか?」と疑問に思ったことがある人も要注意だ。

■大切なのは「部下に好かれること」

 ではいったい、どうすればいいのだろうか。悩める上司に伊藤院長が伝授するのは、精神科医が診察・面談で使っているテクニックだ。

「部下のメンタル不調を防ぐには何より、部下が自分の力で頑張れそうだと思えるような環境を作り、困った時には上司に気軽に質問や手助けを頼めるような雰囲気を作ってあげることが大事です。そのためには、日頃のコミュニケーションが欠かせません」

 上司になれば、部下と面談する機会もある。面談こそ、部下の様子を観察し、正しい対処法を探る大きなチャンス。そこで心がけたいのは、面談を通して「部下に好かれること」だ。

「精神科医は、初診の患者と面談する際、特に『好かれる』ことを大切にしています。人間は人のことを好きになると、相手の意見や指令を肯定的に捉えます。患者に好かれることによって、こちらの言うことを『良いもの』として好意的に受け取ってもらえるのです。上司と部下の関係においても同じで、多くの部下にまんべんなく好かれる上司が率いる組織はうまく回ります。あなたが上司であれば、意識して部下と一対一で話す機会を設けてください」

 その際、ひとりにだけ声を掛けると余計なプレッシャーを与えてしまうので、「全員と話したいから時間を貰うよ」というスタンスを取るのが大切という。

■部下の心を3秒で開かせる「表情ミラーリング」

 では面談の場でどうすれば部下に好かれるのか。

「部下の心を3秒で開かせるテクニックを試してください。精神科で面談時に使う『表情ミラーリング』というものです(イラスト(1))。入室してくる部下の表情をすばやくチェックし、自分も同じような表情を作る。これだけです。部下が笑顔で入ってくれば、あなたも笑顔で応じる。会社に不満があり、怒っているような顔をしていれば、自分も真剣で険しい顔をする。こうすることで、部下は『この上司は私と気持ちを共有してくれている』と感じるのです」

 面談に入る第一歩で心をつかめれば、その後の話が受け入れられやすくなるというわけだ。この「表情ミラーリング」には、上司側にも効果がある。部下の表情を真似することにより、その部下の気持ちが分かるようになるというのだ。

「心を許すほどに相手の気持ちは表情に現れるので、この『表情ミラーリング』を日常で継続していくと、部下からの信頼はより深まっていくでしょう」

 面談や業務を通して、部下の性質を理解できたら、次のステップだ。上司を悩ませる部下のタイプごとに、取るべき対処法は異なるという。

■愚痴の多い部下への対処法「親バカ式リフレーミング」

 あるメーカーでのこと。営業部のマネジメントをしている男性は、部下の愚痴に辛抱強く付き合ってやった。「先輩にダメ出しばかりされる」と落ち込む部下を、「次は頑張ればいい」と慰め続けた。にも拘わらず、ある日突然、その部下は「上司が自分のことを理解してくれていない」と異動願を出したという。なぜなのか。伊藤院長の解説。

「愚痴をこぼすのは、自分の扱われ方に不満があるから。同時に、自分に自信がないからでもあります。解決策を他人に求めがちなので、愚痴を聞いているだけでは、上司や職場への要望がエスカレートするばかりです」

■まずは部下の自己肯定感を育てる

 では、そんな部下にどう対処すればよいのか。

「このタイプは、仕事を与えても『任せてもらえた!』と肯定的に捉えず、『押し付けられた』と感じてしまいます。こんな場合は、『親バカ式リフレーミング』が効果的です」

「リフレーミング」とは、精神科の用語。たとえば、コップに半分ジュースが入っているのを見て、「もう半分しかない」とネガティブに捉えてしまう人に対して、「まだ半分もある」というポジティブな捉え方ができるように訓練をしていくというものだ。具体的には、たとえばイラスト(2)のように、「親バカ」な反応をしてみるのがよいという。

「愚痴の多い部下は、ものごとをネガティブに捉える癖が出来上がってしまっている。だからこそ上司は、部下に対して繰り返し『親バカ』な態度をとり、部下の自己肯定感を育てる必要があります。むしろ部下が愚痴を言ったときをチャンスととらえ、そのたびに、子どもを溺愛している親が言いそうな言葉でその愚痴を『リフレーミング』してあげてください」

 だが、「親バカ」が裏目に出る相手もいる。「高すぎる評価を求める部下」だ。

■プライドの高い部下は安易に褒めない

 あるマスコミ系マネジメント職の男性は、実際の成果に見合わない高い評価を求め、方々で彼への不満を漏らす部下に手を焼いていた。

「自己評価が高いということ自体は悪いことではないのですが、問題は実力以上に自分を高く評価するよう求める人です。彼らの求める『高評価』が実際の業績と見合わないときに『親バカ』になってしまうと本人のためになりません。かといって『いやいや、大したことをしていないでしょう』と伝えてしまうと、『この上司は自分の実力を正しく評価してくれない!』とへそを曲げられてしまいます。ですからこのタイプに対しては、褒めるのではなく、認めることが有効です」

 安易に褒めてはいけない。たとえばイラスト(3)のように、成果を挙げたと報告する部下を、「すごいね! 天才!」などと褒めるのではなく、「●●を達成したんですね」と「認める」のだ。

■高すぎる評価を求める部下への対処法「ミトメミトメ大作戦」

 伊藤院長はこれを「ミトメミトメ大作戦」と呼ぶ。データや実績などの客観的事実を聞き出し、それに対する成果を細かく、何度でも認めてあげるのだ。しかし、ただ認めるだけで、高い評価を求める部下は満足するのだろうか。

「『認め』とは、『あなただったらそれくらいはできると思っていた』という確認としても相手に響き、人そのものの賞賛にもなります。褒められた興奮というよりは、静かな満足感を得られるため、プライドの高い部下には効果的なのです」

■「上司は嫌われてナンボ」の時代は終わった

 この他、伊藤院長は著書で「指示待ちばかりする部下」「失敗して自信を喪失してしまった部下」「仕事を抱え込む部下」に対するそれぞれのアプローチを紹介している。

 いずれも精神科医が診察や面談で心がけていることを応用した簡単なテクニックだが、上司・部下の関係に限らず、親子・友人関係でも使えるという。

「ただし、あくまでこれらは入り口です。メンタル不調を防いだり、問題を解決していくには、環境を整えてあげることも大事ですが、最終的にはやはり本人の努力も必要となるでしょう。上司の役目は、部下自身が考え、気付き、行動を起こすことができるように促してあげることなのです」

「嫌われてもリーダーシップのある頼もしい上司」が持てはやされる時代は終わった。部下があなたと会社の期待通り――期待以上に育つためには、あなたが「好かれる上司」になるのが近道だ。まずは目の前にいる部下に声を掛けることから始めたい。

伊藤直(いとう・ただし)
1974年生まれ。精神科専門医。医療法人社団 平成医会「平成かぐらクリニック」院長、一般社団法人健康職場推進機構理事長。働く人のストレスを減らし、前向きに生きる人を増やすべく、300社以上の企業の顧問医を務める。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年3月21日号)

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