新入社員が知っておきたい、ブラック企業によくある「要注意フレーズ」4選

新入社員が知っておきたい、ブラック企業によくある「要注意フレーズ」4選

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「入社した会社がブラック企業かもしれない」

「いきなり体育会系の研修が始まって、おかしくなりそう」

 毎年4月になると、私たちの相談窓口には新入社員の方から必ずこのような相談が寄せられる。

■ブラック企業の上司や先輩がよく使うフレーズとは

 自ら疑問を抱いて相談をしてくれる方はまだいい。というのも、多くの新入社員は、上司や先輩から「社会ではこれが当たり前だ」と言われると、それを疑うことなく鵜呑みにしてしまう。

 初めての就職の場合、他の会社と比べることができず、会社の「常識」が社会一般に通用するルールのように思えてしまうからだ。

 そこで本記事では、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEの労働相談窓口に寄せられた事例なども交えながら、ブラック企業の上司や先輩がよく使うフレーズを紹介し、注意喚起したい。

 社内でこんな言葉が聞こえてきたら、一度、自身の労働条件や労働環境を客観的に見つめ直してみよう。

■要注意フレーズ(1)「うちの業界では当たり前」

 ブラック企業で最も頻繁に用いられるフレーズだ。新入社員は、先輩や上司から繰り返しこの言葉を聞かされることになる。

 このフレーズがよく使われる典型的な業種が営業職だ。営業職の場合、「事業場外みなし労働時間制」や「固定残業代」が適用されているとして、残業代を支払わないケースが多い。

 これらの制度を適用するためには一定の法律上の要件を満たしていなければならないが、実態としては、要件を満たしておらず違法な運用がなされていることが多い。しかし、知識や経験のない新入社員は「そういうものなのか」と信じてしまうのだ。

 具体例を挙げよう。

 大学卒業後、大手住宅メーカーに営業職として就職したAさん。入社の際、契約書を交わす段階になって、総務担当から「営業職には残業代が出ない」という説明を受けた。

 受け取った就業条件通知書には「事業場外みなし労働時間制」と書かれていた。求人情報には書かれていなかったし、面接や内定式でも全く聞いたことがない制度であった。先輩に聞くと、「営業はこういうものだ」「世の中の営業は全部そうなんだ」と教えられ、Aさんは納得した。

■本当は違法であるというケースは非常に多い

 実際に働き始めると、朝8時から21〜22時まで働く毎日だった。残業時間は月80時間を超えていたが、どれだけ働こうとも、営業手当の3万円以外に残業代が支払われることはなかった。

 長時間労働を続けた結果、Aさんは体調を崩し、「適応障害」「うつ病」と診断され、退職を余儀なくされた。

 こうした働かせ方は違法である可能性が極めて高く、残業代はもちろん、病気になったことにたいする損害賠償も請求できる。

 労働基準法をはじめとする「労働法」は、原則として全ての業種に適用される。「うちの業界ではこれが当たり前」と先輩に言われた場合でも、本当は違法であるというケースは非常に多い。気になった時には専門家に相談してほしい。

■要注意フレーズ(2)「君は裁量労働制だから残業代は出ない」

 今後、増えてくると思われるのが、このフレーズだ。上述した「事業場外みなし労働時間制」や「営業手当」などと称した「固定残業代」については、裁判で違法性が認定されたり労働基準監督署が是正勧告を行ったりするケースが増えている。

 そんななか、残業代を払わずに長時間労働をさせたいブラック企業が活用し始めているのが、この「裁量労働制」なのだ。

 裁量労働制は、業務に裁量のある労働者に対しては、労使で1日の「みなし労働時間」を決めてしまえば、実際に何時間残業しても、法的にはその時間分しか働いたことにならない制度である。

 4月1日に施行された働き方改革関連法によって残業時間の上限規制が導入されたが、裁量労働制が適用されている場合はこの規制を免れることができる。それゆえ、ブラック企業が上限規制を「脱法」する手段として、ますますこの制度が活用されることが予想されているのだ。

■裁量労働制の多くは「違法状態」にあるが……

 しかし、裁量労働制は誰にでも適用できるわけではない。業務の進め方や労働時間の配分に裁量のある労働者にだけ適用できる。「実態」として裁量がなかったという証明ができれば、裁量労働制を過去に遡って無効として、実際の労働時間に基づいて残業代を支払わせることも可能だ。

 実際に、最近では、裁量労働制ユニオンが取り組んだ、プログラマーやデザイナー、芸能事務所のマネージャーなどの事件で、労働基準監督署が違法に運用された裁量労働制を無効と判断し、残業代を支払わせることに成功している。

 このように、裁量労働制の多くは「違法状態」にあるのだが、労基署にもその判断は難しく、違法状態は事実上野放しになっている。

 また、弁護士やユニオンでも、裁量労働制での争い方を経験していない場合がある(私たちの窓口には、適正に対応してもらえなかった方がしばしば訪れる)。労働法に詳しい「 ブラック企業被害対策弁護団 」や、裁量労働制を専門とする「 裁量労働制ユニオン 」に相談するのがお勧めである。

■要注意フレーズ(3)「ついて来れないヤツが悪い」「仕事は自分で覚えるもの」

 新人への教育やフォローをろくに行わず、自己責任を強調するのもブラック企業の特徴だ。

 仕事についていけず、体調を崩したり、上司に相談したりしても、「それは自分の責任」「気持ちの持ちようでなんとでもなる」と対処してもらえない。

 体調不良で休みを取ろうとすると、「仕事ができない上に休むなんて、どれだけ迷惑をかければ気がすむの」と怒鳴られてしまった方もいる。保育士の方からの相談では、こんな相談があった。

「残業はしちゃだめ」「日中は子どもに集中して」と言われ、事務仕事は休憩中にやるか、家に持ち帰るしかない。先輩に相談しても「慣れればできる」「あなたが未熟なだけ」と言われ、なんとか頑張り続けたが、体力的・精神的に追い詰められ、「介護・保育ユニオン」に相談に訪れたのである。

 会社には労働者の健康に配慮する義務があるし、労働者に過剰な負担を負わせて健康被害を生じさせた場合には会社に責任が生じる。仕事が要因となって身体を壊した場合には、労災保険から補償を受けられる可能性があるし、場合によっては会社に対して民事裁判で賠償を請求することもできる。

 ぜひ、このことは覚えておいてほしい。

■要注意フレーズ(4)「友達とは会うな」

 もう一つ注意が必要なのが、いわゆる「ブラック研修」だ。入社した途端に、厳しい研修プログラムが課せられ、思考する余裕を奪い、会社の価値観を植え付ける。まるで「洗脳」ともいえるような研修を行う企業があるのだ。家族から次のような相談が寄せられることがある。

「研修のあと、子供の人格が豹変してしまった。家族にも会いに来なくなり、いつ連絡してもなかなかつながらない。煙たがられるようになってしまった」

 ブラック企業の「洗脳研修」の特徴を挙げてみよう。まず、「眠らせない」という点だ。早朝から深夜まで長時間のプログラムや課題を課し、睡眠を奪うことによって、正常な判断ができない状態にする。

 次に、「外部との連絡を遮断する」ことだ。研修では携帯電話を回収する企業もある。「友達とは会うな」と言われることもある。これは、外部との接触を断つことによって会社の論理や価値観を内面化させることを目的とする。

 その上で、研修では、叱責を繰り返し、反省を強要することによって、「徹底的な自己否定によりアイデンティティを破壊する」。こうした過程のなかで、個人のアイデンティティや価値観、延いては人権感覚や権利意識までもはく奪されてしまうのだ。

■労働者と使用者はあくまで「対等」な立場

 繰り返しになるが、「会社の常識」は「社会の常識」とはイコールではない。会社で「当たり前」と言われたことでも、少し立ち止まって、「本当にそうなのかな」と疑ってみることが大切だ。

 その上で重要なのが、「契約」や「権利」といった考え方だ。労働者と使用者はあくまで「対等」な立場で、契約により労働力と報酬を取引しているに過ぎない。会社から命じられたことでも、それが「契約」に基づいた命令なのか、自身の「権利」を不当に侵害しているものではないかという点を考えないと、大きな損をしてしまうかもしれない。

 新しく入った会社で、「貢献したい」「活躍したい」と考えるのは当然のことだ。それは大切だが、その一方で、その気持ちにつけ込んで、若者を使い捨てようとする企業があることも忘れてはならない。

■自分のキャリアを守っていくことも大切な能力

 自分自身が「壊されない権利」や、適切に仕事を教えてもらって健全な環境で働く権利をしっかりと行使していくことが大切だ。労働法などのルールを活用し、自分のキャリアを守っていくことも「社会人」として大切な能力だと覚えておいてほしい。

 そして最後に、もう一つ覚えておいてほしいのは、困ったときには専門家に相談をするということだ。無料で相談を受け付けている団体も数多く存在する。「会社の常識」に飲み込まれないためにも、疑問を感じたら、相談窓口に連絡して客観的な立場からのアドバイスを聞いてみてほしい。

(今野 晴貴)

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