「SNSにポルノ動画をアップロード」したらアウト? 日本最強の「風俗警察」と業者の攻防とは

「SNSにポルノ動画をアップロード」したらアウト? 日本最強の「風俗警察」と業者の攻防とは

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 インターネット上には、わいせつ動画があふれている。検索して専門の動画サイトを実際に見てみると、どぎつい性行為の場面や性器などがほぼ修正がない状態で公開されている。世の多くの男性なら、後ろめたい気持ちを抱えながらこうしたページを開こうとした経験を持っているかもしれない。また最近では詐欺につながるものもあるので細心の注意を払っている人も多いはずだ。このわいせつ動画、果たしてどこまでが違法なのだろうか。

 結論から言えば、個人で成人のポルノ動画を見るのは罪に問われることはない。しかし、この動画をアップロードするなどして不特定多数が閲覧できる状態にしたとなると話は変わってくる。わかりやすい例で言えば「SNSにポルノ動画をアップロード」したらアウト。「風俗警察」が動き出し、刑法175条のわいせつ物公然頒布(はんぷ)罪・陳列罪に問われることになるのだ。

 風俗警察は全国の警察本部に置かれている「生活安全部保安課」の通称である。風俗営業の許可、賭博犯罪、売春や性風俗にまつわる犯罪、わいせつ物にかかわる犯罪を取り締まるセクションだ。

 職員4万6000人あまりの陣容を誇る日本最大の警察本部で、数十の繁華街を持つ東京都を管轄する警視庁では「生活安全部保安課」が風俗警察である。保安課は警視正の課長を筆頭に、「風俗保安対策官」と呼ばれる警視の理事官がいる。そして、現場を持たない調査担当管理官1人と担当業務ごとの4人の管理官(いずれも警視)が現場を統括。さらに各係には警部の係長がおり、捜査を指揮する。総員は250人で所轄署の生活安全課でキャリアを積んだ精鋭が集められている。昨今のインターネット空間での違法なわいせつ動画の氾濫に厳しい視線を注いでいるのが、日本最強の風俗警察部隊・警視庁保安課なのである。

■海外のサーバーまで追跡し摘発

 警視庁保安課で、インターネット上の違法画像、動画などを監視しているのは「保安情報捜査係」である。保安情報捜査係には、IT技術に知悉した民間企業からの中途採用警察官、「特別捜査官」出身の捜査員が所属しており、ネット上の違法画像に関する捜査・追跡活動を一手に担っている。全国の風俗警察関係者の間で警視庁の保安情報捜査係が密かにクローズアップされた事件がかつてあった。

 2017年1月。都内の繁華街の路上。派手な服装の年配の女を7人の捜査員が取り囲んだ。

「Bだな。警視庁保安課です。あなたには犯罪の嫌疑がかかっている。ご同行願いたい」

■出演した女優や男優まで立件するのは極めて異例

 女は抵抗することもなく、両脇を女性捜査員に抱えられ近くに待機していた捜査車両に乗せられた。無修正のわいせつ動画をインターネット配信したとして、警視庁と静岡、愛知両県警は、わいせつ電磁的記録頒布の疑いで東京都内のAV制作会社「P」の社長で台湾籍の女のB(当時67)と従業員ら計6人を逮捕した。保安課によると、Bらは2016年8月、わいせつ動画を撮影し、台湾の会社を介しアメリカの動画配信サイト「カリビアンコム」で販売。台湾の会社は2007年2月から約9年間でP側に計約13億7000万円を支払っていたという。Bらの逮捕の2か月後の2017年3月。P事件は更に拡がりを見せる。

 動画の撮影現場にAV女優を派遣し、動画サイトでの配信を手助けしたとして、警視庁保安課・静岡、愛知両県警は、わいせつ電磁的記録頒布ほう助容疑で、芸能プロダクション「D」の社長(35)ら計5人を逮捕。DはAV制作会社に女優を派遣しており、2009年から2016年11月までに約1億5400万円を売り上げていたとみられる。社長の他に逮捕されたのは元女優(25)とプロダクションの従業員(34)らだ。逮捕の容疑は2016年2月2日、東京都新宿区のスタジオに女優を派遣し、無修正のわいせつ動画の撮影や配信を手助けした疑いだった。無修正のわいせつ動画を巡り、出演した女優や男優まで立件するのは極めて異例だった。風俗警察としての威信をかけた「サイバー捜査」が実を結んできていた。そしてついに捜査の手は海外にまで及ぶ。

 2017年3月。動画サイト「カリビアンコム」で無修正のわいせつ動画を配信したとして、わいせつ電磁的記録頒布の疑いで、サイトを運営する米国のグループ会社の社員で、アメリカ国籍のS(34)を逮捕した。警視庁保安課によると、アメリカにコンピューターサーバーが置かれているカリビアンコムによる無修正動画の配信をめぐって、運営側の人物を逮捕するのは初めてという。Sは、日本で撮影された無修正のAV動画データを、配信前に圧縮する作業を担当していた。逮捕容疑は2016年8月17日、カリビアンコムのサイト上で、わいせつ動画を配信した疑い。カリビアンコムには約370人の日本人AV女優が出演する無修正アダルト作品が約4300件登録されているという。

■サイバー空間にも目を光らせる風俗警察

 風俗警察は、このP事件を最高裁の判例を踏襲して立件した。

 最高裁は刑法175条の「頒布」の意味を、ネットを通じて不特定多数の者のパソコンにわいせつ情報を記録させることだと解釈。被告人は客が配信サイトにアクセスし、ダウンロードの操作をすると自動的にダウンロードされるように設定したので、このような行為は「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した」と言えると判断した。

 そして、日本の客のパソコンにわいせつ情報が保管されたため、「頒布」という犯罪行為の結果が日本で生じたことになり、「国内犯」として日本の刑法の適用は可能であると判断したのである。 ?

 ただ、踏襲した最高裁判例では「電気通信の送信による頒布」とはいえ、客が常にダウンロードできる状態にしていることが「頒布」であり、客によるダウンロードという行為を含んで、被告人の「頒布行為」と指摘するのはおかしいという意見も出ている。

 風俗警察では、サイバー空間でのこうしたわいせつ動画事案を常に監視している。ネット上での違法な情報は一般ユーザーから「インターネット・ホットラインセンター」に通報される。その情報はセンターから警察当局に更に通報され事件捜査の端緒となる。センターは同時にプロバイダーに削除依頼を行うよう要請する。

 センターに通報された情報には海外のサーバーに蔵置されているものもある。風俗警察は自らの「サイバーパトロール」とインターネット・ホットラインセンターからの通報に対しては「全国協働捜査方式」を活用し、捜査の端緒情報を共有している。

 全国協働捜査方式とは、センターから警察庁に通報された違法動画情報について効率的捜査を進めるため、情報の発信元を割り出すための初期捜査を警視庁が一元的に行って、捜査すべき都道府県警察を警察庁が調整する方式で、2011年7月から実施している。警察当局にとってインターネット・ホットラインセンターは捜査支援を行う頼もしい存在なのだ。

■違法わいせつ動画は殲滅できるか

 風俗警察が厳しく指導した動画共有サイトがあった。アメリカのブログサービスである「タンブラー」は、ユーザー同士が投稿された画像を簡単に共有できるもので、若者を中心に人気を集めている。投稿された内容への規制は緩く、わいせつな画像・動画が集まりやすくなっていたのだ。

 去年12月。京都府警などは、タンブラー上に子どものわいせつ動画を投稿、転載した男らを逮捕している。安易な動画の拡散を戒める、風俗警察の狙いがそこにあった。タンブラーの運営会社は、事件後にアダルトコンテンツの投稿を禁止すると発表している。

 風俗警察のサイバー空間での捜査には課題もある。昨今、データが外部サーバーに保存される「クラウドコンピューティング」が普及している。2011年に改正された刑事訴訟法では、押収したスマホやパソコンから通信回線でつながっているサーバーにアクセスし、データを複写して押収する「リモートアクセス」が認められた。

 しかしこのリモートアクセス、海外のサーバーは対象外。日本の裁判所の令状があっても、データを取得すればその国の主権を侵害するおそれがあり、相手国の協力を求めることが必要になる。やり方によっては「違法捜査」「外国の主権侵害」と指摘を受けかねない状態なのだ。

 動画投稿サイト「FC2」を巡るわいせつ動画事件で、2018年の大阪高裁判決では、海外へのリモートアクセスの一部をめぐり「運営会社側からの任意の承諾があったとは言えない」として、捜査の在り方に疑問を突き付けた。

 違法わいせつ動画を殲滅することができるのか。風俗警察と違法わいせつ動画業者の攻防は混沌としたインターネット空間で今現在も続いている。

(今井 良)

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