松屋フーズ過去最高益の立役者 「松のや」社長が語る「とんかつビジネス」最前線

松屋フーズ過去最高益の立役者 「松のや」社長が語る「とんかつビジネス」最前線

(c)松屋フーズ

 ここのところとんかつのチェーン店、特に低価格帯に絞ったチェーンが伸びている。たとえば「かつや」。現在381店舗を展開し、業績も好調を持続している。

 そんな中、近年の進撃ぶりが目立っているのが牛めしの「松屋」でおなじみ、松屋フーズの「松のや」だ。今年、松屋フーズは「松のや」のとんかつ事業好調を背景に、純利益28億円(前年比75.2%増)と、過去最高益を達成した。

 とんかつ研究家としては、勢いがあるとんかつ屋に話を聞かない訳にはいかない――。ということで伺った松屋フーズ本社で出迎えてくれたのは、なんと松のやカンパニー佐藤秀司社長その人だ。

■とんかつはまだまだ未開拓の業種です

――社長にお目にかかれるとは驚きました。「松のや」は「松のやカンパニー」という会社のものになるんですね。

佐藤秀司社長(以下、佐藤):松屋フーズでは、牛めしの松屋、とんかつの松のやなどの各部門を社内カンパニーとして独立採算制にしてるんです。

――社長としては、とんかつの好調を背景にした松屋フーズの過去最高益の更新には喜びもひとしおだったと思いますが。

佐藤:最高益は当然うれしいのですが、やっぱり波のある業界ですからね。浮かれているわけにもいきません。会社としてはたしかに今年の成功はうれしいんですが、わたし個人としては、さあ次のチャレンジに挑んでいくぞ、という気持ちですね。大きく一喜一憂しているわけではないです。

――松屋フーズ全体の中で、とんかつはどのような立ち位置にあるのでしょうか。

佐藤:松屋フーズは松屋、松のや以外にも、いろいろな業態を持っています。その中で牛めしに次いで119店舗と、店の数が多いので柱のひとつではあると思います。しかしまだまだとんかつは未開拓の業種です。牛めし、牛丼で言えば業界全体で4000店舗程度あるわけです。とんかつはまだまだそこには遠く及ばない。だからこそ、われわれもそうですが、とんかつに参入してくる企業さんも多いのでしょうし、気は抜けませんね。

■ロースカツ定食500円で採算は……?

――そもそも松屋フーズさんがとんかつを始められたのは、いつごろ、そしてなぜ「とんかつ」だったのでしょうか。

佐藤: 2001年にはじめた「チキン亭」という店を発展させる形で、とんかつ「松のや」ができた、という経緯です。とんかつというと、少しお値段の張る、日常食というよりはハレの日の食事であると思います。それを日常に近づけていきたい、そして松屋フーズにとって牛めしに次ぐ二本目の柱としたい、という思いがあってスタートしたんです。

――松のやさんでは、ロースカツ定食は500円です。採算を取るのも一苦労ですよね。

佐藤:最近の店舗数の増加にともなって、やっと採算が取れるところまできました。牛めしの「松屋」のスケールメリットを活かしながら進めてはいるのですが、最初は大変でしたね。なんとか軌道に乗ってきたぞ、というのはほんとにここ3、4年です。

――その価格の中で、うちのとんかつはココがすごい! という売りはどのあたりだと自負されていますか。

佐藤:その辺は商品開発の際にもたくさんとんかつを食べ比べた久岡さんに話してもらいましょうか(笑)。

久岡利至・東日本地域担当部長(以下、久岡):松のやのとんかつは、豚肉に熟成のチルドロースを使っています。冷凍物ではない、冷凍では出せない味を、お求めやすい価格でご提供できている、というのが何と言っても一番ですね。

――お肉は一番大事ですからね。

久岡:それからソースにも注目していただきたいです。我々のソースは独自開発のもので、いろいろとこだわっています。たとえば夏はサッパリ系の味に調整してみようかなど、季節に合わせた味を議論したりと、ソースにはまだまだ工夫のしがいがあると思います。今後をぜひ楽しみにしてください。

■「肉といえば牛」の西日本でとんかつが好調な理由

――チェーン店ですとどこの店でも同じ味であるという安定性も大事だと思います。そのあたりではどういった工夫をされているんでしょうか。

佐藤:とんかつを揚げるにあたって、自社開発した独自のリフトフライヤーを使っています。企業秘密のさまざまな工夫がしてありまして、誰が作っても、いつでも同じように美味しいとんかつが揚げられるものになっています。ここにもかなり力を入れていますね。

――技術開発にも力をいれているんですね。

佐藤:そうですね。とんかつをめぐる技術も日進月歩です。わたしは15歳から松屋で働き始めて31年になりますが、いろいろと変化していますね。

――え! 15歳から松屋で働いていたんですか!

佐藤:ええ、最初は松屋の1号店である江古田店でアルバイトを始めたんです。まだ松屋が40店くらいしかありませんでしたが、このころは一日の売上が200万円を超える店舗もありました。まだまだこれからだぞ、という勢いがあった時代ですね。それで23歳で社員になったんです。

――生粋の松屋っ子なんですね。

佐藤:長くは勤めていますよね。それで25歳くらいから15年間は大阪にいて、本部からとんかつ店の担当を命じられ東京に戻ってきたんです。ですから、とんかつを始めてからまだ5、6年ですね。「松のや」もなんとか100店舗を達成して、軌道に乗ってきた感はありますが、ちょっと気を緩めるとすぐに追い抜かれていく業界ですから、日々チャレンジだと思っています。

――大阪に長くいらしたとのことですが、西日本には「肉といえば牛肉」という雰囲気がありますよね。全国展開するとんかつ事業を手がける中で西は鬼門じゃないですか?

佐藤:いやこれがそうでもないんですよ。西で初めて出したとんかつ店は大阪の難波にある「なんさん通り店」なんですが、実はここ、全国の中でも売上の高い店の一つなんです。わたしも出店当初は「西で豚はどうなんだろうな」と正直思ってたんです。これは嬉しい誤算でした。

――何か理由は考えられますか?

佐藤:まあ考えてみたら、大阪は串かつ文化なんですよね。だから牛だ豚だというわけでなく、カツは受けるんだ、ということじゃないかと思っています。広島や九州なども含め、西日本では概ね好調です。

■上海では牛めしよりとんかつの方が受けが良かった

――「松のや」のお客さんはどんな方が多いのでしょうか。

佐藤:お勤めになられている方がお昼時にいらしてくださる、というのが大きいですね。あと、ご家族連れでいらしてくださる方も多いので、さらに安心して来ていただけるよう、キッズルーム・キッズコーナーを併設した店舗なども増えてきています。

――とんかつはご家族連れにも受けが良さそうな印象があります。

佐藤:女性の社会進出、共働きなども増えていく中で、ご家庭で揚げ物をすることが避けられがちになっている気がします。ご家庭での揚げ物は何かと面倒なこともありますからね。この状況であるからこそ、うちのとんかつも求められているんじゃないかな、と。今後はテイクアウトについても強化していこうと思っています。「松のや」のとんかつをいかにお惣菜として認知していただけるか、目下勉強中です。

――海外展開も積極的ですね。

佐藤:はい、上海・ニューヨークにも店を出しています。特に上海では現地のお客さまのニーズにうまく合ったようで、地元のお客様に多くご利用いただいています。上海には最初、牛めしで出店をしていましたが、なかなかうまく行かなかったんです。ところがとんかつに業態を変えたらお客さまがいらしてくださるようになって。中国の方には牛めしよりはとんかつの方が受けが良いのかな、と、うちの会社としてはそういう印象を持っています。

――店舗はどれくらいの数を目標にしているんですか?

佐藤:今年も50店舗新規開店する予定ですが、最終的には1000店舗を目指しています。ただ数字はあくまでも目安。国内海外問わず、より多くのお客さまに、よりよい商品・サービスを、お求めやすい価格でお届けすることを、とこトン追求したいと思っています。

「とんかつ2020年問題」で取り上げたように、いわゆる町のとんかつ屋さんはだんだんと姿を消しつつある。しかしこのようなチェーン店の盛り上がりなどを考えると、とんかつは文化として地盤沈下しているのではなく、新しい時代に突入しつつある、と見るべきなのだろう。今までにない低価格、あるいは海外展開などといった形で、とんかつの文化的な立ち位置は新しくなっているのだ。

 しかし一方で、これは先祖返りだとも言える。明治・大正時代の銀座や上野、浅草では、屋台で「トンカツ」「カツレツ」といったものが供されていた。当時の高級な西洋料理店の「ポークカツレツ」だけではなく、一般庶民が肩肘張らず、いつでもサッと食べられる料理であることも、とんかつの大事なルーツのひとつだ。

 時代は変わる。とんかつも変わる。いま、とんかつは大変化の時代にある。

(かつとんたろう)

関連記事(外部サイト)