コクヨの「次世代オフィス」に、“2020年問題”を解くヒントがあった

コクヨの「次世代オフィス」に、“2020年問題”を解くヒントがあった

©鈴木七絵/文藝春秋

 どこの会社でも、デザインや設計、制作部門など資料や制作物を抱える部署ほど、自席にモノを山と積んだ“巣”を作りたがるものだ。一般的に、なかなかフリーアドレスを導入しにくい職種だろう。しかしコクヨの「霞が関ライブオフィス」では、設計部門もフリーアドレス席となっている。

「基本的にノートPCで作業しますが、アウトプットをお互いにチェックすることもあるのでモニターを置き、資料を広げられる大型のテーブルにしてあります。資料はすぐそばの書棚に場所を決めて入れてあり、使ったあとは元に戻すのがルールです。このスペースに限りませんが、終業時に使った机を片付けることは声を掛け合って徹底していますし、持ち運び用のボックス、個人ロッカーなども揃えています。名目はフリーアドレスでも、事実上決まった人が決まった席に座ってしまうオフィスもありがちですが、モノと環境、ルールでそうならないように促すようにしています」(ワークスタイルイノベーション部部長 鈴木賢一氏)

 社外の人と協働するためのコワーキングスペースも用意され、その隣には長期間にわたる案件のためのプロジェクトルームも設けられている。各部門の担当者が集まるだけでなく、プロジェクトメンバーであれば社外の人もここで作業することができる。

■「部下が目の前にいない」不安

 さて、このライブオフィスを見て、みなさんは「こんな場所で働きたい!」と思われただろうか? それとも「絶対にイヤだ」と思われただろうか。「もっとも抵抗されるのはミドルマネジメント層の方々で、若手社員の方々や経営者には歓迎されることが多いですね」と数多くの企業にフリーアドレスを提案してきた鈴木さんは語る。

「ただ、よくよく聞いてみると、フリーアドレスがイヤだというよりも、新しいやり方への漠然とした不安があり、否定の論理を上手に構築されている、ということがほとんどです。今まで企業を育ててきた先人のすべての方法を否定しているわけではありませんし、課題と環境が刻一刻と変わるなかで対応する手法を一緒に考えましょう、というのが私たちにとってのコンサルティングなんですね。トップと現場を味方につけて、最後にミドルマネジメント層の意識を変えていく、そのような順序になることが多いです」

 ミドルマネジメント層がもっとも不安視するのは「部下が目の前にいない」ということなのだそうだ。

「自分の前にいないとマネジメントできないというのは、僕らが言うのはおこがましいですが、成熟したマネジメントとはいえないのではないかと思います。部門間の連携、社外との協働の必要性がどんどん増している状況下では、マネジメントのあり方も変わらなければならないと思いますし、フリーアドレスもまたそのための手法のひとつなんです」

 実際、各地を日々飛び回る鈴木さんのチームは、「目の前に座れ」式のマネジメントなどやりようがない。

「新しい予定が入れば、グループウェアのカレンダーにすぐ書き込むようにしているので、手帳を使ってスケジュール管理しているメンバーは一人もいません。『直行します』『帰ります』『自宅で少し作業します』などの連絡はグーグルハングアウトを使ってカジュアルにやり取りします。常に2、3のスレッドでやり取りしながら自分の仕事をする、というスタイルが当たり前になっていますね」

■性善説のマネジメント

 このようなマネジメントを可能にするためには、コミュニケーションの障壁を小さくする必要もありそうだ。

「おっしゃる通りで、『ノックしてから入れ』式のコミュニケーションでは、ノックすることがまず心理的障壁になってしまいます。また、お互いにウェブカメラで監視し合うような『性悪説』のマネジメントでは、こんな働き方はとうていできません。とにかく各自が自律的にルールを守り、成果を出すということを上司、部下の間で信頼し合う。やることさえやっていればあとは自由裁量でいい、という『性善説』のマネジメントとフリーアドレスは相性がいいのだと思います。そのためのITツールはいくらでも揃っているので、あとはやる理由を共有しているかどうか、やり抜く気持ちがあるかどうかなんですよね」

■増員に対応できるメリット

 社員の席をフリーにするだけでなく、コワーキングスペースやカフェ、自宅など、働く場所をフリーにしていくことのメリットは、よく言われるような生産性向上やイノベーションの活性化に寄与するだけではないと鈴木さんは言う。

「我々はフリーアドレスのオフィスを導入していただいたあとも、さまざまな手法を用いて効果を実測し、さらなる改善もご提案しているのですが、ここ1〜2年とくに着目している評価軸は『導入後の増員』です。2020年代に向けて企業の景況感はよく、その反面、人口減少は加速していきます。どの企業も良い人材は欲しいし、なるべく社内にとどまってほしいというニーズがある。でもオフィスのキャパシティを超えてしまえば移転コストがかかってしまいますが、フリーアドレスはスペース効率がすぐれていますし、レイアウト変更も比較的容易です。我々も増員を見込んだバッファを設定し、ご提案するようにしています」

■都心の企業を襲う“2020年問題”

 鈴木さんはさらに、「2020年7月24日、これが何の日付かご存知ですか?」と謎めいた問いかけを口にした。

「東京オリンピックの開会式です。この日から8月9日の閉会式まで、都内は世界中からいらっしゃった方々で溢れかえります。公共交通機関や自動車での移動も、台風上陸時以上に困難になることが予想されています。現在、総務省は『2020年に向けたテレワーク国民運動プロジェクト』を推進していて、コクヨも協力企業として名を連ねていますが、この期間に仕事を止めないためのトレーニングは、どの企業でも必須になるはずです。フリーアドレスにとどまらず、働き方を考え直すきっかけになるのではないでしょうか」

写真=鈴木七絵/文藝春秋

(柳瀬 徹)

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