「日本の7割よりも世界の2割を獲りにいく」クリエイティブディレクターが語る日本企業再興戦略

 国内外で8つの賞を受賞した「WEARABLE ONE OK ROCK」やメルカリの新聞折込チラシなど、従来の広告やプロモーションの枠を超えたクリエイションが大きな注目を集める、The Breakthrough Company GO 代表でクリエイティブディレクターの三浦崇宏さん。単に商品を広告・PRするだけでなく、プロダクトやサービスの事業開発・成長にまで踏み込み、「広告3.0」ともいうべき新しいビジョンを掲げ、具現化している。NTTドコモ、三井不動産、JR東海、メルカリといった名だたる企業が列をなすクリエイティブディレクターが語る、日本企業再興戦略。

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■2019年から2022年にかけて起こる第四次産業革命

――折しも年号が変わりましたが、令和という時代に日本のビジネスシーンはどう変化し、私たちの働く場は変わっていくと思われますか。

三浦 これから2019年から2022年にかけて起こる第四次産業革命は人類史上もっとも予測もつかない時代と言われています。5G、ブロックチェーン、AIなどのテクノロジーは社会に大きな変化を起こします。同時に働き方改革や雇用変化の影響によって、副業従事者とフリーターが2020年には日本の労働人口の3分の1ぐらいになるとの予測もある。外国人の方も多く増えて、確実に日本社会の労働環境や社会の基盤は激変するでしょう。

三浦 僕がよく言うのは、自分たちはサッカーをしていると思ったらある日突然ラグビーに変わっているようなルールチェンジがいたるところで進行しているということ。ただそれは誰も教えてくれない。「いまからはラグビーだよ」って誰も言ってくれないから先にラグビー始めたやつが勝つ。だけど、どうやってラグビー始めていいかわからないし、変えようとしてなぜかアメフトをはじめてしまっているような企業も多い。

 元号が変わるという節目は、いい意味で利用したほうがいいんです。ビジネスのあり方、仕事の仕方を変えなくてはといろんな方が思ってる中で、外側に区切りがあることが人間の背中を押してくれる。たとえば、ダイエットでも、80キロ超えたら絶対痩せようって思うじゃないですか(笑)。売上が年間5億を切ったら何がなんでも改革しようみたいな、数字の節目を積極的に利用するのが大人の在り方という気がします。

■日本の7割よりも世界の2割を狙ったほうが市場は大きい

――技術革新の大きな波がさまざまな分野でのルールチェンジを進行させているんですね。

三浦 そうです。グローバル化という言葉は使い古されていますが、僕はいま起こっているのは「シームレス化」と見ています。世界と日本の差がなくなり、マーケット自体がいま溶け合ってきている。これまではマスとニッチという区分がありました。例えば国内では大新聞やテレビといったマスメディアに対して地方新聞などのローカルメディアという図式が成立していた。しかし、Netflixのような勢力が入ってくるとコンテンツがフラット化する。国内でのマスとニッチではなく、世界での「メガニッチとローカルニッチ」になるんです。要はある特定の価値観の人は世界中に沢山いて、日本の7割を狙うよりも世界の2割を狙ったほうが市場はデカい――そういう観点に切り替えたほうがいいと思います。

――シームレスな社会においては、ある価値観や嗜好性を共有する人をグローバル市場で狙い撃ちにしたほうがよいわけですね。

三浦 たとえば、世界中には運転をしたくないけど車移動はしたいという人が一定の割合いる、それを狙ったのがUberでした。世界中の、旅行はしたいがいちいちきちんとしたホテルや旅館に泊まるのは面倒くさいというバックパッカーに最初狙いを定めたのがAirbnbだった。つまり日本市場で1位を獲るよりも、グローバル市場のニッチなニーズを獲ったほうが商売になる、この視点を持てるかがビジネスパーソンにとって分かれ道だと思っています。

三浦 インターネットと移動インフラの進歩によって、世界は距離とか空間で分断されてた時代から、価値観と情報環境で分断される社会になってきています。たとえば、いま港区でクリエイティブ分野で働いている僕は、秋田県で農家をやっている方と、エストニアで知財に関する弁護士をやってる人がいるとしたら、たぶん、後者の人のほうが話が合うと思う。どっちがいいとかじゃなくてね。そういう価値観で人やお金が結びつく時代なんです。だから日本の市場のシェア7割とかをギリギリ凌ぎながら目指す余裕があるんだったら、世界の1割2割を目指すほうが企業として正しいし、それを最初に狙える企業がたくさんある国のほうが強いと思います。

■グローバルニッチを狙う日本企業の勝ち筋は?

――日本企業がグローバルニッチを狙ううえで大切なことは何でしょうか。

三浦 いまヒットしてるものはだいたいプロダクトをサービスとして捉えられてるところがうまくいっています。身近な例えからいうと、「NewsPicks」レーベルの単行本、本の中身は薄くても本を入り口に著者とTwitterでつながったり、著者や愛読者のコミュニティから情報をどんどん継続してもらえるわけです。『メモの魔力』を読み終わったあとも、前田裕二さんのTwitterで本には書かれていない『メモ魔』的な情報がどんどん更新されていく。つまり、本というプロダクトがある特定の価値観とか世界観とかコミュニティの入口になっている好例ですね。

 あるいはいま、VanMoofというオランダのめちゃめちゃイケてる電気自転車があって、世界各地でけっこう売れてるんですが、これは単なる自転車ではなく、スマホと指紋認証でつながっているから鍵かけが不要で、他の人が持って行こうとして動かすとサイレンが鳴るし、スマホで自転車の位置もすぐわかるから盗難の心配もありません。会員制のサービスが充実していて、ユーザー同士や企業とつながっているので、どんどんコミュニティができていくんですね。プロダクトを単体で売るのではなく、自転車を軸にしたサービスを提供しているんです。これもプロダクトとサービスのシームレス化です。

三浦 こういうサービスの発想において、日本人特有のおもてなし精神は非常に強みになると思います。GAFAが牛耳るマーケットの中でグローバルニッチを獲りに行く上では、日本ローカルのおもてなし精神が必ず差別化につながってきます。たとえば飛行機に乗ったときに日本では笑顔で「いらっしゃいませ」って言うし、ホテルでもリッツ・カールトンなどではお客様に「お帰りなさい」って言いますよね、そうしたひと言の違いってすごく大きい。おもてなしカルチャーをビジネスハックとしてグローバルに適応できるか? いわば、おもてなしという接客体験や空間デザインに関するテクノロジーをあらためて見直して、あらゆるプロダクトや事業のサービス性を高めていくことが日本企業の勝ち筋ではないかと思います。

■心地よくて質が高い「おもてなし」体験をデジタルで再現

――デジタル時代って、プラットフォームを先に押さえた企業の一人勝ちというイメージがあったのですが、その視点は目から鱗です。

三浦 デジタルの世界でもいくらでもやりようはあって、たとえばサイバーエージェントは、もちろんプラットホームとして面を押さえることにも注力していますが、それ以上に進化しているのは、UX(ユーザーエクスペリエンス)です。AbemaTVってニコ動と比べて圧倒的に使いやすいでしょう。初期のYouTubeよりも動きやすかったくらいだし、あとはマッチングアプリ分野でも、Pairsに次いで、同社のタップルが猛追していますが、これもUXが非常に使いやすい。そういう顧客の体験に対するおもてなしが重要です。

 いまでこそ差はなくなりましたが、初期のAndroid携帯とiPhoneの使い心地に大きな違いがあった。あの感覚こそ本来日本人が持たなきゃいけないセンスです。最近よくUXが重要だってIT系業界の方が口々に言うようになりましたが、それは煎じ詰めれば、プロダクトに宿るおもてなしの精神なんです。お店に来たお客様に「いらっしゃいませ」って椅子を引いてあげて温かいおしぼりを出して、そのおしぼりにほのかな香りがあって、何も言わなくてもお茶が注ぎ足される――そんな心地よくて質が高いサービス体験をデジタルで再現できるかどうかが鍵になってくると思います。

――すごく面白い視点ですね。多くの日本企業で変わらなきゃという意識はなんとなくあると思うんですが、社内や業界のさまざまな因習や構造的要因で、なかなか一歩踏み出しにくい現状もあります。

三浦 いま、変わろうとしてる会社は沢山あります。富士フイルムが化粧品の会社に変わろうとするように。いくら保守的な会社でも、5年後10年後にAIや自動運転が実用化したらビジネスが激変することくらい、みなさんわかってるわけです。でも、いまそこそこ儲かっているものがある会社ほどなかなか変えようとしない。たとえ5年後には非常に厳しいとわかっているものでも目先の儲けがあるなら、いまの意思決定者はリスクを背負わないんですね。ただこれは、意思決定をしてないんじゃなくて、「変わらないという意思決定」をしてしまっていることは自覚すべきだと思います。そこには日本ではプロ経営者が少なく、現場の叩き上げが経営陣になることが多いという問題点もあるでしょう。

 例えば大手の広告代理店では、面白いCM作ってカンヌで賞を獲ったら「頑張ったから局長にしてあげよう」、でも局長になったら「CM作ってる暇あったら部下のマネジメントしろ」という世界(笑)。日本企業にはありがちな現場の延長線上に経営があるという判断は間違ってると思います。経営はまた別のスキル。プロ経営者と現場のことがわかる叩き上げがパートナーシップを組んでこそよい意思決定を生むと思います。

――博報堂を飛び出して2017年に株式会社GOを設立したのは、そういう理由もあるのでしょうか。

■「面白いものを作る“だけ”の人だと思われていた」

三浦 僕は、博報堂に入社した最初はマーケティングで、その後PRの部署を経たあとにクリエイティブディレクターになっているので、いわゆるマーケティングのプロセス全体を見てきたことが強みになっています。クリエイターという商売はCMやポスターを作ることに終始していて、クライアントの事業の成長に対して全くコミットできていない。ものが売れてないことに対して関知してないような空気に全然納得できなかったんです。

 若い頃、僕の作ったCMの商品がうまくいかなくて終売になったことがあって、クライアントさんに、「気にしないでください、いいCM作っていただいて感謝してます」って言われたんです。先輩たちも「あのCM面白かったもん、いいもの作れたよね」って言っていたのに愕然とした。やっぱり責められてしかるべきだし、僕らは面白いものを作るだけの人だと思われていたことにすごくショックを受けた。僕はクリエイターと企業のコラボレーションで社会に新しい価値を生み出すことにこそ意味があると思っていたから、クリエイティビティを軸にした事業成長のサポートはできるんじゃないかという仮説を立てて、それを検証したくなったんです。

三浦 それを大手の会社でやろうと思ったら新しい部署を作るのに何年もかかるし、大企業で自分の部署を作って1年で業績立たなかったら「どうなってんだ」って責められるじゃないですか。スタートアップってそういうものじゃない。損を掘り続けて金を当てるみたいな部分、我慢比べの側面もある。いろんな意味で会社の体質やスピード感に合わなかったんです。

――「クリエイティブディレクター3.0」のコンセプトもその過程で出てきたのでしょうか。

三浦 はい、僕の見立てとしては、90年代までのクリエイティブディレクターの役割はいわゆる「CM制作」。企業と生活者のコミュニケーション手段がほぼそれしかなかった時代に広告をつくる仕事を「クリエイティブディレクター1.0」とするなら、次の時代には、映像だけではなく、イベントやデジタルの施策も組み合わせた「統合プロモーション」が求められるようになった。これが「クリエイティブディレクター2.0」です。

 そしてこれからは、企業と生活者のコミュニケーションが多様化している時代に、クリエイティビティを軸に「プロダクトやサービスといった事業を開発・成長させる」プロフェッショナルとしての「クリエイティブディレクター3.0」が求められると考えています。僕のポリシーは、「作品を作るのではなくて現象を作るのが仕事だ」。作品を作って満足するのではなく、その先にある、作品が世の中に届いて、世の中を変えるところまでデザインすることがクリエイティビティの価値証明になると思うんですよ。

■導入企業300社、総会員数5万人となった「シェアオフィス事業」

――事業クリエイティブの試みとして具体的にどんなものがあるか、教えていただけますか。

三浦 わかりやすいのは三井不動産のシェアオフィス事業ですね。GOの立ち上げ時に三井不動産からシェアオフィス事業をやりたいというお話があって、アメリカのWeWorkのような優れたシェアオフィス事業があるなかで新規参入するのはなかなか難しい状況でした。僕らのひとつの仕事の仕方として、その企業とか事業の価値を徹底的に話し合います。なぜ三井不動産は世の中に必要なのか、なぜシェアオフィス事業をやらなきゃいけないんだということを話し合った結果、普通の人に働き方改革はできないっていう課題があると思ったんです。働き方改革で時間も場所も自由に働けって言われたって、現実には女性だったら子供ができても在宅勤務とか現実的にはなかなかできないでしょう。

――本当にそうですね(笑)。

三浦 お題目でどれだけ言われても普通の人に働き方改革はできない。WeWorkはクリエイターとかアーティストとかスタートアップとかイケてる人のためのもので、大企業はWeWorkなんか使わない。でも世の中の大半は一般企業にいるわけで、普通の人の働き方改革が必要だと思ったんですね。それこそが三井不動産がやるべきことだと思ったんです。

 そこで、B to B契約で三井不動産と契約した企業の社員が、全国に30ヶ所(現在は40ヶ所)のシェアオフィスが自由に使えるというサービスを展開しました。自由な時間に好きな場所に出勤して入退出は全部スマホで管理できて、ひとりひとりが自分のワークスタイルをデザインできるワークスタイリング事業を打ち出しました。この事業コンセプトを一緒に作り、プロモーションやPRも含めてご一緒させていただいて、非常にうまくいった例です。いまや導入企業300社、総会員数5万人のサービスにまで成長しました。

――素晴らしい成功例ですね。中小企業の事例ではなにかありますか?

■選ばれたオーディオブックが毎月2冊届き、簡単に読書を体験

三浦 最近の事例でひとついうと、オーディオブックといって本を朗読した音声コンテンツを売るオトバンクという会社からご相談を受けて僕らが作ったのが、「オーディオブックキャンプ」という企業の研修素材です。日本のビジネスパーソンの8割くらいが本当はもっと本を読みたいが、忙しくて読めないという読書離反層ですが、そうなるタイミングは新社会人になるときなので、そこに目で読むよりも、耳で聞く方が簡単に読書を体験できるというメリットがあるオーディオブックを差し込めばいいというアイディアを提案しました。さらにBtoB事業にすることで継続性を高められる。企業単位で契約していただくと、社員全員にメディアや金融、人事など各ジャンルの専門家が選んだオーディオブックが毎月2冊届く、本のサブスクリプションサービスです。リリースして間もないですが、すごく伸びていて、企業の人事の方を中心にご好評いただいています。これもプロダクトをサービス化してるんですよ。本1冊1冊売るというプロダクトビジネスを、企業研修用に毎月届くというサービス業に変えた例です。

――事業クリエイティブとは新しい可能性を感じる試みですね。広告の概念が変わります。

三浦 その企業の本来的な価値はなんだ? いま社会でどういう変化が起きているのか? そこを考えた上で、どういう変化がその企業に必要なんだろうって突き詰めた先に、それをポスターにするかCMにするか新規事業にするかの違いだけなんです。

 いまは業績が右肩下がりで多くの日本企業が苦戦しています。でも、冒頭の話じゃないけど、サッカーがうまい人は本当はラグビーだってアメフトだって強いんです。違うルールに対応さえできれば。サッカーで鍛えた心肺能力やスタミナは、アメフトでも必ず生きてきます。ようはスキルの使い方ひとつです。ただサッカーのドリブルだけでアメフトやってると当然ボールを取られちゃう、それを「卑怯だ」って言っても遅い。ルールの変化を察知して、一歩前に出たものが勝つ時代なんです。

三浦 僕たちの社名のGOは、「いいから行けよ!」というのが語源。企業でも個人でも、「わけのわからないもの」を面白がって前に踏み出すことのできる人が令和という新時代を突き抜けていける。一緒に行こう、その先の未来へ――その変化と挑戦の日々がめちゃくちゃおもしろいことは保証します。

三浦崇宏(みうら・たかひろ) The Breakthrough Company GO 代表取締役、PR/Creative Director。1983年生まれ。博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年に独立。「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞、カンヌライオンズPR部門ブロンズ・ヘルスケアPR部門ゴールド・プロダクトデザイン部門ブロンズ、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSイノベーション部門グランプリ/総務大臣賞など受賞多数。

(「ライフスタイル」出版部)

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